第六四話 筋肉魔道(マッスルソーサリィ)
「へ、変態に用はない! ……第一首なし騎士なら普通、鎧ぐらい着てるだろうがぁっ!」
何度もドアノブをガチャガチャ回すが扉はびくともしない……ヴィーティーはチッチッと指を立てて左右に振ると、笑顔を浮かべる。
「残念だったな、その扉はワタクシの能力で強制的に閉じさせてもらった。君がここから出るにはワタクシを殺すしかない」
徐にフロント ラットスプレッドのポーズをとるとヴィーティーは机の横に置いていた六角鉄棒を右手に持ち、左手で自らの頭を抱える。
やるしかないか……私は逆手に持っていた小剣を背中の鞘へとしまい、日本刀を引き抜く。
しかし……ヴィーティーのブーメランパンツが視界に入るたびに、少し私は目のやり場に困ってしまう。だってめちゃくちゃ面積少ないし! なんか異様に盛り上がってるんだもん……私現世では男性のなんか見たことないし……。
正確に言えば前世の記憶としては思い出せるけど、私はあえてその記憶を思い出さないように努めている。当たり前だけど、一応お嬢様だし、乙女だからね私。
「おやぁ? ワタクシの※※※が気になると……まだ処女ですかな?」
「う、うるさい……私のことなんかどうでもいいでしょ!」
ニヤニヤと笑いながらなぜかポージングとともに腰を軽く振るヴィーティー。こ、こいつもセクハラ系なのか……赤いブーメランパンツが視界に入るたびに私は少し視線をずらすが、頬が熱くなる……も、もうなんなんだよ。
「安心していただきたいっ! ワタクシは不死者なので女性に全く興味はございませんっ!」
「そいつはどーも、なら安心して切り刻んでやるわ」
私は日本刀を片手で構えて、少し腰を落とす。
ノエルからもアドバイスされているが、私の剣は速度を重視した飛燕剣を中心に組み立てている……腰を落としているのは相手の行動に合わせていつでも飛び出せるようにするためだ。
ヴィーティーは六角鉄棒を脇に挟むように構えるとジリジリと私との距離を測ってゆっくり移動する。どうやら彼がシンプルな六角鉄棒を使っているのは棒術の類を納めているからだろうか。
「ほう……達人ですな……その若さで素晴らしい」
「そりゃどうもッ!」
私は一足飛びに一気にヴィーティーとの距離を詰めると、横凪の一撃……ミカガミ流泡沫を放つ。この攻撃を受けれない程度ならここで終わるし、そうでないなら連撃で一気にカタを付ける。
ヴィーティーは泡沫をこともなげに六角鉄棒で受けると、追撃を警戒したのかふわりとステップして、私との距離をとる。追撃を防がれた私は再び腰を落とした構えをとって相手の出方を伺う。
「素晴らしいっ! 見た目よりも遥かに迫力があるな……お前はその年相応の経験値ではないな?」
ヴィーティーはニヤニヤと笑うと頭を片手でお盆を持つかのような格好で持ち上げ、右手の六角鉄棒を突き出すような構えをとる。
「受けてみよ! 無双撃ッ!」
上半身が一気に筋肉で盛り上がり……稲妻のような速度で私に向かって凄まじい連打の六角鉄棒による突きが繰り出される。
この攻撃は受けるとまずい……私は横っ飛びに体を投げ出すように飛ぶと、それまで私がいた位置の地面が抉られるように破壊されていく。
私が体を回転させるように立ち上がると、ヴィーティーの無双撃がまるで機関銃の連射の如く襲いかかってくる……私は壁沿いに体を回転させるようにその攻撃を避けてなんとか距離を取るように部屋中を逃げ回る。
「フハハハハ!」
ヴィーティーの攻撃は部屋の中にあるものを粉砕していく。壁も音を立てて崩れていき、もうもうと煙が立ち込めるが彼はお構いなしに私に向かって攻撃を繰り出していく。
片手でこれだけの攻撃を連続で、しかも恐ろしいまでの破壊力で繰り出せるとは……さすが首なし騎士というべきだろうか?
受け流しはおそらくその場に釘付けになってしまうだろうから、私はとにかくその攻撃を躱し続ける。不死者で呼吸の必要がない状態で、ひたすらに攻撃を繰り出されるのは前世の経験でも無いな。
「全く……厄介だわ!」
私は少しだけ大きくステップをすると一気にその攻撃に向かって駆け出す……迎え撃つように六角鉄棒の連射を繰り出すヴィーティー。
私の長い髪の毛が舞いながらも、攻撃を紙一重で回避しながら前進していく私……恐ろしいまでの風圧と超高速で迫りくる六角鉄棒の先端を見極めて、ギリギリの位置で避けていく。
「な、なんですと!」
距離が縮まっているにもかかわらず全く私にかすりもしない攻撃を見て、ヴィーティーの顔に迷いが生じる。迷いは攻撃の速度を少しづつ鈍らせていく。
彼の動揺が伝わるように、攻撃の先端は少しづつブレを生じていくのを見て私は、最小限の動きを持って日本刀の刃先を合わせ……六角鉄棒を切り裂いていく。刃先と鉄棒が触れるたびに火花が散っては舞う。
まるで飴細工を切るかのように、突きを繰り出すたびに短くなっていく六角鉄棒を見てヴィーティーが驚愕の表情を浮かべる。
「な、なんと! ワタクシの武器を……」
まあ、この六角鉄棒はこの世界で作られたもののようだが、魔法の武器とか超高度の金属を使っているわけではないようで、私の斬撃はそれほど強い抵抗感を感じていない。
切られた六角鉄棒の破片が次々と地面へと落下して大きな音を立てていく、ある程度相手の得物を短くしたところで、私は脚に力をこめて一気に跳んだ。
「ミカガミ流……朧月ッ!」
ヴィーティーの攻撃を超高速で避けた私は、彼の背後の空間へと一気に跳躍しガラ空きの背中へと日本刀を振り下ろす……殺ったッ! 大きい背中へと日本刀が迫る。
「ここでえっ! モスト マスキュラー!」
ヴィーティーがポージングをとると、全身の筋肉が鎧のように硬化して……私の放った必殺の一撃はまるで硬い鎧に弾かれたかのように金属音を立てて、跳ね返り私はその煽りを喰らってバランスを崩す。
「え? な、なんで?」
「我が筋肉はまさに鎧ッ! これぞこの世界で知り得た知識を総動員して作り上げた我が秘術……筋肉魔道!」
防御結界?! いや筋肉を硬化させて攻撃を防いだのか?
空中で姿勢の崩れた私に間髪入れずにヴィーティーの左手に抱えられていた頭による一撃が迫り、私の腹部にその頭が衝突して私は一気に壁際まで吹き飛ばされる。
「くっ……うっ……うげええっ!」
私は吹き飛ばされながらもなんとか体を無理やり回転させて、滑りながらもなんとか壁に叩きつけられるのを防ぐ。重い一撃が響くように肉体へと浸透し、私は我慢しきれずに軽く胃の内容物を地面へと吐き出してしまった。吐瀉物に少量だが血が混じっている……内臓にダメージが入ったのかもしれない。
「おやおや、頑強さはその剣術と身体能力ほど高くは無いのですな……」
ヴィーティーの小脇に抱えられた顔がニタリと笑う……そうなのだ、この体の身体能力や回復力はそれなりに高いのだが、私はノエルほどの頑強さは持っていない。
いや正確に言うのであれば、私はおそらくこの世界に転生した際に……この世界の人間のスペックにある程度体が合わせられていると考えている。
それでも普通の人よりも遥かに頑強にできていて、さっきの一撃も普通の人であれば即死しているくらいの衝撃はあったはずだ。それでも死んでいない、むしろ軽傷で済んでいるのは圧倒的に頑丈だからなのだけど、前世ほどの頑強さでは無いことは確かだ。
何発も食らうと一〇〇パーセント死んでしまうだろう……軽く心の底に死への恐怖心が首をもたげるが、私は首を振ってなんとかその恐怖心を押し殺す。
「いきますよぉお! 筋肉魔道……秘技! 剛腕ッ!」
倍以上に膨れ上がった左腕を奮い、私に向かって無造作とも言える拳の一撃を繰り出すヴィーティー。私はその一撃をステップして躱すと……日本刀を片手で奮ってカウンターを入れる。
カキィン! と甲高い音を立てて日本刀が弾かれ……私は手に感じた痛みに顔を顰めて思わず武器を握っていた手を離してしまい……地面へと日本刀が落ちていく。
「隙ありィィィッ!」
その隙を逃さずに右手の頭による攻撃を繰り出すヴィーティー……私はその攻撃をスローモーションでも見ているかのように見ている……そう、私をさんざん苦しめたレイブン流のドゥイリオの剣術は、実と虚を組み合わせた変幻自在な攻撃を繰り出すこと。
その意味をずっと考えていて……一つの答えはこういうことになるだろうという動きを何度か練習していた。
「隙なんてないわよ?」
肉を引き裂く感触が手に伝わる……私は左手で小剣を引き抜くとヴィーティーの突き出した頭へと突き刺した。いくら鎧のように鍛えられた肉体と言っても頭はそこまで固くない……まあ、頭にも筋肉をつけている奴もいたかもしれないが、ヴィーティーはよほど自信があったのか兜をつけていなかった。
「あ、あれ? なんでワタクシの頭に剣が……」
体が蹈鞴を踏んで後退し、小剣の食い込んだ頭を離してしまう……私の持つ剣に突き刺さったままの頭が私を見つめる。
「残念ね、頭までは筋トレじゃ鍛えられないものね?」
私はにっこりと笑って小剣を奮って頭を宙に飛ばすと、足で日本刀を蹴り上げて空中で握りなおし……一刀の元に頭を切り捨てる。
「かっひゅっ……」
真っ二つに切り裂かれたヴィーティーの頭が地面に落ちると、体は攻撃先を失ったかのようにウロウロと歩き始める。私はゆっくりとその体に近づくと無抵抗な体に向かって二度三度と日本刀を振るう。
今回は完全に無抵抗で日本刀が肉体を切り裂いていく……彼の目で斬撃を確認したり、攻撃が来ると分かっていれば筋肉を硬化させることができるのだろうが。
頭が既に機能していない首なし騎士など置物みたいなものだ、と前世の記憶も言っている。
しかし……この首なし騎士は筋トレとか、ボディビルに執着していたようだが……誰がこんなことを吹き込んだのだろうか?
それとも彼がこの世界の出身者だったとか? 疑問はものすごく感じるのだが、それはもう問いただす術がないな……。
ため息をついて、日本刀を鞘に戻し地面へと落ちた小剣を背中の鞘に戻す。
考えても仕方ないな……私はインカムに任務終了を報告することにした。
「あー、首なし騎士は倒しました。処理をお願いしますね〜」
_(:3 」∠)_ ポージング勉強したw
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