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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第一章 恐怖の夜(テラーナイト)編

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第三六話 剣聖顕現(インカネーション)

「ハハハ!! これはすごい! やはりミカガミ流、一筋縄ではいかんな! クハァアッ!」 


 剣の悪魔(ソードデーモン)の暴風のような連撃に、私は必死に攻撃を受け流しつつ徐々に後退している。勢いもさることながら、一撃一撃が非常に重く今の私の腕力では支えきれないためだ。

 ちなみに、相手の攻撃を受け止めようとしたら……おそらく今持っている日本刀は確実に折れ、私の体は簡単に両断されてしまう。それくらいの膂力で攻撃を放っている剣の悪魔(ソードデーモン)


 ぎりりと歯を食いしばって攻撃を受け流し続ける。だめだ今は耐える時間……反撃の機会を伺いながら私は必死に防御に専念する。

「く……ッ、こ……の……」

 ただ私も人間である以上、集中力には限界がある……受け流しが完璧でなかった攻撃が戦闘服を掠めて、切り裂かれ、肌に赤い筋を作っていく。

 何が三人しか斬ってないこいつに負けないだ……慢心がすぎるぞ、新居 灯……悔しさから歯を食いしばって肌に感じる焼けつくような痛みに耐えながら、必死に受け流す。


 ——ドクン。


 剣の悪魔(ソードデーモン)は攻撃の手を緩めることなく、歪んだ笑みを浮かべて私を挑発する。

「女よ、諦めてこの小僧に組み敷かれたらどうだ? 小僧が十分楽しんだ後に殺してやるぞ」

「い、いやです……お前なんかに私は負けない……ッ」

 私はジリジリと後退しながらも、反撃の機会を狙って隙を窺う……そんな私の苦しそうな表情を見て、剣の悪魔(ソードデーモン)はニヤニヤと笑みを浮かべたまま、剣を振るう。


 ——ドクン。


 防御を続ける私の中で、猛り狂う魂が脈動する……次第に私自身の心が獰猛な、彼の魂に塗り替えられていく。無理矢理に心と体が塗り替えられていくような、とても女性としては屈辱的な感覚を覚えて私の魂が震え、思わず悲鳴に似た感情を口に出してしまう。


「や、やめて、私を……私を汚さないで……」


 心臓が早鐘のように鳴り響き、とてもではないが抑えられない衝動を感じて、わたし……わ……いや、俺はぎらりと目を輝かせて笑みを浮かべる。

 ……たかだか剣の悪魔(ソードデーモン)如きで、何をしているんだ灯は……まあ、言うても目の前の魔族は、それなりに強い個体だから、この体では仕方ないのかもだが。

 まずは攻撃を止めないとな……こう言う時に相手の気を逸らすには、殺気をこめた反撃のイメージを相手に叩きつける、だ。

 防御の最中、俺が牽制のために放った殺気にたじろいだのか、剣の悪魔(ソードデーモン)が攻撃をやめて飛び退る。

「?! な、なんだ、反撃かと思えば動いてないだと? ……しかもこいつ……笑っている?」


「ンフフ……剣聖(ソードマスター)の技が欲しい? そんなこと言ってたなお前。お前にゃ無理だ」

 俺は普通の人が見たら失神するであろう獰猛な殺気を浮かべた笑みで剣の悪魔(ソードデーモン)を見る……いやあ、楽しみだ。

 目の前の個体はなかなかに良い腕を持っている、降魔(デーモン)と呼んでる魔物では剣と剣の勝負にはならないからな、腕が鈍っていないか確認してみよう。

 その目の輝きに剣の悪魔(ソードデーモン)……いや依代となった甲斐 雄一の魂が恐怖を覚えて勝手に後ずさる。


 日本刀——この現代の剣はなかなか作りが良くて感心する——を剣の悪魔(ソードデーモン)へ突きつけて、俺は口を開く。残酷だが……我が剣術を教えるにはそれなりの能力が必要なのだ。

「まず、お前の剣は力任せだ。スピードそれなり、パワーまあまあ、だが悲しいかな剣筋が乱れている。この女性……新居 灯の前だから、さっきまではお前が有利に見えたが……お前は初歩の型通りに素振りを毎日やるべきだ」


「……貴様馬鹿にしているのか?!」

 剣の悪魔(ソードデーモン)が必殺の一撃を俺に繰り出すが……俺は日本刀を軽く振って、斬撃を斬撃によって受け流し、地面へと衝突させる。もうもうと埃が舞うが、俺は動じずにじっと相手の目を見つめている。

 先ほどまでとは違う新居 灯の姿に、剣の悪魔(ソードデーモン)は何が起きているのか理解できない、という表情を浮かべる。

「それと、今受け流してわかったが全身の力をうまく剣先に伝えていない……衝突の瞬間にきちんと柄を握れていないな、握力は鍛えてるか?」


 俺は一瞬で剣の悪魔(ソードデーモン)の間合いに入り込むと、日本刀を軽く振って……剣の悪魔(ソードデーモン)の剣を握っていない左腕を肩口から切り飛ばす。

 少しの間を置いて、剣の悪魔(ソードデーモン)は肩口から血を噴き出して……悲鳴をあげた。


「咄嗟の防御もだめだな、目で見て防御するのではなく、予測を使えば良い。まあ、これではミカガミ流免許皆伝は難しいな……教えられんよ」

 俺は小馬鹿にしたような笑いを浮かべて、跪く剣の悪魔(ソードデーモン)を見つめる。俺を見上げる剣の悪魔(ソードデーモン)は体を震わせて魔力を集中して、必死に傷口から流れる血を止めながら、目から涙を流し……驚愕した表情で呟く。

「免許皆伝……? お前は、この世界の女が何を馬鹿なことを……」


「言わなければわからんか? お前は今、ミカガミ流最後の剣聖(ソードマスター)を前にしているのだ」

 その言葉の真意を悟って……剣の悪魔(ソードデーモン)は恐怖に包まれた表情へと変化していく。真っ青になり……こめかみに汗をだらだらと流して……いやこれは憑依されている依代の方の顔かな? 人間は絶対的な死の恐怖を感じると、こう言う表情を浮かべるのだよね。

「そ、そ、そんな馬鹿な。」


「馬鹿みたいだと思うだろ? 俺もそう思うよ。本当に馬鹿みたいだ、この状況そして今の世界は」

 俺は剣の悪魔(ソードデーモン)が反応できないレベルの超高速の斬撃……ミカガミ流の『泡沫(ウタカタ)』を放ち……一瞬で首を跳ね飛ばす。地面に恐怖の表情を浮かべたままの首が落ちると、首を切り離された胴体がゆっくりと地面へと倒れて、剣が音を立てる。


「……だからお前はここにはいらない、さっさと死ね」

 日本刀を軽く振り、鞘へとしまうと……俺は目の前の若い少年の頭に近づき……恐怖で見開いたその目を閉じてやる。この少年はとても真面目な剣士だった。この体の本当の持ち主、新居 灯も好感を抱いていた。

 剣士の死は新しい人生の入り口……だからこの迷える少年の魂がちゃんと神の御元に辿り着き、新しい生を得ることを俺は心から望む。


 おっと、そうだ……俺は落ちている剣に足を乗せて……力を込めてへし折る。ペキン、と軽い音がして……剣の悪魔(ソードデーモン)本体が絶命する。

 しかし……少し危ないかなと思って無理矢理出てきてしまったが……灯の魂が普通じゃない勢いで泣き叫んでいる……んー? なになに? おじさんが聞いてあげよう。


『おっさんに汚されたぁぁぁ!』

『もうお嫁にいけない〜』

『くっさ、加齢臭してんぞ、バーカ、バーカ』


 ……お前、ちょっと前まで結婚なんかしねえって言ってたじゃないか……ギャーギャー騒ぐ灯の魂の叫びに、俺はため息をつくと……インカムに声を掛ける。

「あー、その……任務完了です。迎えにきてください、お願いします」


 元の魂に体を返すにも少し……時間がかかるようだし、考え事もしたい。適当にどかっと腰を下ろすと俺は考え事を始める。

 さて、新居 灯に戻る前になぜ俺がここまではっきりと自分を認識したのか、これについて考えよう。

 今まで微睡むように俺の魂は新居 灯の中に同居していた。たまに呼び出されて、新居 灯かノエルなのかよくわからない状態で戦っていた。あの状態はとても……なんというか、中途半端でとても自分ではなかった気がする。


 きちんとした自我が生まれたのはこの体があの銀色の狼獣人(ウェアウルフ)に助けられて、新しく生まれた感情により灯が俺という魂を拒絶したことなんだと思っている。

 恋心のように灯は感じているが、俺にはわかるこれは俺の記憶に引き摺られた『憧憬』という感情だ。俺の記憶にある剣を志すことになった出来事と自分の感情を重ねてしまっている。

 結果的に恋のような感情を抱いたことで、灯は俺という男性の記憶を拒絶した、それ故に俺が独立してしまったという状況だ。


 俺の記憶と経験はそれまで確実に融合していたのに、魂の性別が違うだけでこんなことになるなんて……人間というのは実に面倒な生物だな。

 ふと……自分の胸をもにゅ、と揉む。うん、柔らかいし、おっきい。

 その行動に再び灯の魂が怒りの悲鳴をあげる。いや、悪かった、ごめんごめん、久々なんで思わず揉んだだけだって。

 さてどうしたら良いだろう。このままの状態が続くと良くない……俺は目を閉じて……心の中にいる灯の魂をイメージしていく。俺じゃなくて私、私は……新居……灯……。




「なんでノエルさんは裸なんですか……」

 黒い空間の中……目の前に栗色の髪、碧眼のおじさんが現れる。しかも裸だ。かなり長身の男性で年齢は……三〇代だろうか? そして恐ろしく鍛え上げられており、筋肉質だ……体のあちこちに刀傷や、矢傷だろうか、本当に傷だらけで歴戦の戦士、というのも理解できる。

 目の前にいる裸の変態おじさんはキョロキョロと周りを確認した後、私を見て『おお』という顔で手のひらを叩いて……真顔で答える。

「だってお前も裸だもん、いやあ眼福、眼福」


「ぎぃやああああ!!!! この変態!!!! 乙女の体を見るなああああ!」

 私は必死に前を隠して……泣き叫ぶ。そんな私の顔を見て呆れたように口を開く。

「おい、お前の裸なんか子供の頃から飽きるほど見てるんだ。今更それはないだろう」


「そ、それは……でも面と向かって見られるのに慣れてないので……」

 私は顔を赤くして……目のやり場に困りながら、それでもチラチラとノエルの方を見て、答える。ノエルはちょっと考えた後に()()()()()を指差しながら、ニヤニヤ笑ってて私に話しかける。

「なんだ、ここが気になるのか? どうだ実物を見た感想は?」


「……悠人さんレベルのセクハラ野郎ですね……」

 ノエルはンフフ、と笑って手を振ると前世の格好だろう……とても民族的な衣装を身に纏った。私も気がつくと、青葉根高等学園の制服になっている。

「これでいいか? お前と少し話がしたいんだ」

「話とは?」

 私は少し落ち着いた気分で目の前の……前世の姿に向き直る。ノエルは少し真面目な顔で……私に問いかける。


「この体……これはお前のものなのだから……俺がこうして別の自我を持ってしまったのはとてもまずいと思う。人間の体は魂の入れ物としては小さい……だからこの状態はとても良くないんだ」

 ノエルはかなり真面目な顔で……私にそう伝える。真面目な顔でそう言われると、不安感が心に広がる……不安そうな私の顔を見てノエルは、優しく笑う。


 なんだよ、そういう顔できるんじゃないか……少しだけ私の中に同居している魂の優しさに触れて……ちょっと前にみたシルヴィという女性に対する愛情も、こんな優しい気持ちだったんだろうな、と思う。

「このままいくと、最悪お前は人として完全に壊れる……それは俺としても悲しい」

 ノエルは何故か……****(大変卑猥な意味)を意味する両手の指の動きを見せながらその言葉を発する。

「だから……そうなる前に俺と合体して一つになろう! 灯!」


 その言葉に魂だけの私は思わず拳を振り抜き……ノエルの魂をぶん殴った。

_(:3 」∠)_  異世界最強ノエル ノーランドさん伝説


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