第二四三話 堕ちた勇者(フォールンヒーロー) 〇五
『……言うに事欠いてそれをいうか?! お前馬鹿なんじゃないのか?!』
全て破壊するものがめちゃくちゃ呆れたような声をあげるが……だってずるいじゃん! 私あなた一本しかないんだよ? なんで魔王は二本分なんだよ。
なんとなく頬を膨らませて文句を言いたくなるんだけど、そんなことはお構いなしに魔王はその左腕にもつ禍々しい大斧を振るう……剣と違ってその外見には血液が結晶化したように付着した赤い何かが不気味だな。
かなりの重量があるのか、風を破るような印象だな……迫り来る大斧を私は空中に身を躍らせて避けていく……大斧が私の眼前を通り過ぎていくが、私に触れることはできない。
「ヒハハハハ! 避けるねぇ! ノエルよりも身軽なんだなぁ!」
無造作なくらいに聖剣を振るう魔王……私はその攻撃を身軽に回避し、避けきれない攻撃を受け流しながら相手の出方を伺う。刺し貫かれた腹部がズキズキと痛むが、今はそんなことを気にしている場合ではない、私は表情を軽く歪ませながらもその攻撃を丁寧に防御していくが、それでも避けきれない風圧と、斬撃で細かい傷はどんどん増えていく……だが、引かない! 逃げない! そう決めたから。
今までの戦いで私も含めて不用意に相手に攻撃を仕掛け続けることの愚かさを散々身をもって覚え込まされている。だから無理に私は攻撃には出ずに、あえて誘うことにした。
「はっ、そんな攻撃じゃ今の私でも殺すことなんてできないわよ!」
「いうじゃねえか! ならこれはどうだ!」
キリアンの顔が歪んだ笑みを浮かべながら、地面に着地した私に向かって右手の腱を振り下ろす……これは避ける暇がない、受け止めて跳ね返すしかないだろう。
私は全て破壊するものでその上段斬りを受け止める……ミシリと全身の筋肉が軋む音と、傷口から軽く血が噴き出す……痛い……辛い……だが今は堪えろ!
ギリリと聖剣光もたらすものが押し込まれる……むぐぐ! 私は全身の筋肉に力をこめてなんとかそれを押し返そうとするが、ジリジリと地面へと押し込まれていく。
ふざけるな、私はこんなところで潰れたカエルみたいになって死ぬわけにはいかないんだ……私を待っててくれる人がいる、私を愛してくれる人たちがいる……私を好きだって真面目な顔で言ってくれる人がいる。
「私はちゃんとみんなのところへ……帰るんだ!」
「何を馬鹿な……」
ジリジリと剣を押し返し始める私に驚いた表情を浮かべるキリアン……最初のように焦点があっていないことはなく、むしろまともな印象へと戻りつつあるが、それでもその大きさと異様さは筆舌に尽くし難い。
私はある程度押し返したところで、体を回転させてその刀身を蹴り飛ばす……うまく力の入り具合が変わったところで蹴り飛ばしたため、魔王の予想を裏切る格好となったようで、彼は右手に握った聖剣を跳ね飛ばされないように抑えるので必死だ。
「おおおおおっ! ミカガミ流……彗星ッ!!」
私の技、彗星が魔王の腹部……と言ってもそこから下はまるで人間のものではなく巨大な蛇か竜のようにしか見えない造形なのだけど……ともかく私の高速突きが魔王の肉体を差し貫く。
以前の日本刀サイズであった頃であれば、この程度の刺し傷は大したものにならなかったかもしれない……だが今の全て破壊するものは大刀……私の背丈で扱うにはかなり大きいだんびらであるため、今の大きさの魔王であっても凄まじいダメージになるようで、キリアンの表情が大きく歪む。
「貴様……! この俺に攻撃を……ッ!」
「待っておれ……新居 灯ッ!」
アンブロシオの顔が私を見据えて左腕の斧を振るう……私は思い切り彼の肉体へと足をかけると、全て破壊するものを引き抜きその斧に向かって振るう。
グワキャーン! という凄まじい金属音を上げながら、横斬撃に対して私は攻撃をぶち当てることで相殺しようとするが、相当な勢いでぶつかったため比較的体重の軽い私は刀ごと大きく後ろに飛ばされてしまう。
「ッと……!」
空中で何度か回転しながら私は体勢を整えて、うまく着地をするとそのまま駆け出す……今このチャンスを逃すわけにはいかない。
魔王はその両方の顔に笑みを浮かべると私に向かって一気に向かってくる……ここで決めるつもりだな? 私は刀を一度鞘に叩き込むと、柄を握りしめてそのまま突進する。狙うは一点……叩き込む技は私が最も信頼する技だ。
「かかってこい! この世界を守るためにお前の命を燃やしてみろ! ノエル……いや新居 灯ーッ!」
魔王の叫びを聞きながら私は一心不乱に走り続ける、一歩一歩足を出すたびに傷が痛み、血でお腹周りの戦闘服がべったり張り付いている……気持ち悪いし、このまま倒れて仕舞えばずっと楽なのに、と思ってしまう。
足にも血液がついているから腿の辺りもヌメっとした感触を感じる……だけど私は倒れない、私自身がこの世界を守るためのミカガミ流最後の剣聖であるために……。
魔王は私を迎え討とうとその両手に持った二振りの聖剣を縦に振るう……異なる形状の光もたらすものであるその剣と斧が私に向かってくるが、私は一気に魔王に向かって跳躍すると渾身の技を放つ。
「ミカガミ流……絶技……不知火」
一瞬の交錯により、私は魔王の後背へと移動し、彼は地面へとその二振りの武器を振り下ろしたままの格好で固まっている。
私は耐えきれずに膝をつく……本気で走り、そしてこのボロボロの体で絶技を放ったのだから・…荒い息を吐きながら、私が抜き放った全て破壊するものを地面へと突き刺してそれにもたれかかるようにして立ち上がると、それまで動こうとしなかった魔王が私へと振り返る。
その二つの顔にはまだ余裕の表情が浮かんでおり、トドメだとばかりに彼は両手の武器を振り上げようとした……その瞬間、綺麗な切断面と共に、彼の両腕が地面へと音を立てて落ちていく。
「なっ……どういうことだ! 俺の両手がなくなっているぞ!」
「馬鹿な! こんなことがあるわけがない……!」
「はっ……ざまあねえな、このクソ魔王……どっちでいいんだっけ、キリアン? それともアンブロシオ?」
私は彼に軽く※※※なジェスチャーを繰り出すと、そのまま全て破壊するものを肩に載せるとゆっくりと両腕をうしなった魔王へと歩いていく。
両手を失った魔王はジリジリと焦った表情を浮かべながら後退する……両腕を失った彼が強力な再生能力を備えていない限り、出来なくはないけど復活にはかなり時間がかかる。
前世の世界でも両腕を失った戦士が、時間をかけてその肉体を治癒していくという物語もあったのだけど、それって実際にやるとしたら数年がかりのものだったりするし、前世のノエルが知っていた物語はその戦士が治療にあたっていた治療師の女性と恋に落ちて……みたいな話だったので、実際にそうなった場合はかなりの年月を治療に費やすものなのだろう。
「すぐには回復できないんでしょ? それは魔王であっても同じよね?」
「く、くそっ! 火球ッ!」
アンブロシオの口から魔法が放たれる……火球、エツィオさんも使っていたけど爆発する炎の球を発射する魔法……直撃すれば炸裂して肉体を損傷させることができるけど、今の私なら……。
私は軽く全て破壊するものを振るうと飛んできた火球を別の方向へと打ち返す……斬り飛ばすと爆発するかもしれないからね、剣の腹で叩くようにしたんだけど、案外うまくいくもんだわ。
『……我が黙っているのをいいことに……随分扱いがひどいな……』
愚痴のような声も聞こえなくもないが……私は片手で魔王に向かって全て破壊するものを突きつける。
急に困惑した顔を浮かべるキリアンと、アンブロシオ……私も自分が意識せずに涙が流していることに気がつくが、これは……ノエルの涙だな、私自身の感情じゃない。
彼も言いたいことはたくさんあるだろうけど、この世界を救うのが先よね……私が軽く頬を拭ってから、刀をぶらりと脱力したように構えたのを見て、その構えの意味を知っているキリアンの顔に恐怖の色が浮かぶ。
「無限……ッ! ミカガミ流最強の剣聖ノエルの構え……!」
「ええ、私はノエル・ノーランドそのもの、でも私は新居 灯でもあるわ……でも今までこの構えは使いこなせなかった。なんでかしらね……ずっと悩んでたんだけど……」
私はほっと息を吐くと、キリアンの顔を見て微笑む……でもそれは嬉しいからじゃない、悲しいからかもしれない。どうしてこの世界に生まれ落ちたのかずっと悩んでいて、降魔被害なんて事件に巻き込まれなきゃ、私は普通の女子高生として生きていられたのかもな、ってずっと思ってた。
だけど、この世界に危機が訪れ、私は戦うことになった……それが前世からの定めであったかのように。
「よせ、やめろ……! 俺は魔王……いや勇者だぞ?! お前の前世の世界を守った……お前の友達じゃないか!」
「見苦しいぞキリアン! まだ争う方がマシだ! 体の自由を奪うな愚か者が!」
私をそっちのけで逃げ出そうとするキリアンと、アンブロシオで体の主導権を争っているのかふらふらと体が左右に揺れている……もー少しだけ、がんばってね私の体……。
私は集中力を高めていく……この構えから放たれる技は、それそのものが絶望そのもの、ミカガミ流最強の絶技……私の姿が一瞬で一〇人ほどに分裂する……全く同じ姿勢で、魔王を囲むように出現した私は、軽く地面を蹴るように一斉に魔王へと飛びかかった。これが最後の、私とキリアン、アンブロシオの最後の別れになることを願って技を放つ。
「ミカガミ流絶技……無尽」
_(:3 」∠)_ クライマックス……!? だがっ……(疲労で頭が混乱中
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