第二三六話 武神流(バトルマスター)
「魔王様、万歳」
自動人形の鋭い正拳突き……速度も、威力も前世の仲間だったシルヴィさんとそれほど遜色はない……ギリギリで体を躱すものの、速射砲のような圧力に私のこめかみに汗が流れる。
少し距離を取らないと……私は回避の勢いをそのまま地面を滑るように体勢を整えるが、振り返った私の視界いっぱいに自動人形の顔が広がる。
「うひゃっ!」
「逃しま、せん」
メイド服のスカートを翻しながら横蹴りが繰り出される……その蹴りを引き抜いた全て破壊するものの腹を使って受け止める。
ガキャーン! という甲高い金属音とともに私は体ごと大きく跳ね飛ばされる……なんて威力受け止めたはずの腕に凄まじい痺れを感じながら私は何度か地面に叩きつけられながらも体を回転させながら姿勢を整え直す。
「がは……ッ……いてて……」
キリキリと関節が軋むような音を立てながら、シルヴィと同じ顔をした自動人形は首を傾げながら私を見つめている……どうやら結構必殺の一撃に近かったようだな。
あの横蹴りはシルヴィも使ってた武神流の竜脚か……ステップインと同時に横からの蹴りを繰り出して相手の頭をカチ割る割とエグい技の一つだ。
シルヴィが使うと小鬼族の頭が吹き飛んでミンチになるくらいの威力があった……その記憶をしれっと思い出した私は少し背筋がさむくなる、なんて技を繰り出すんだ目の前の自動人形は。
「エグいなあ……ゲホッ」
「魔王様、に、平伏しましょう、今なら、ほぼ殺し、で、終わらせ、ます」
言葉の選び方! ツッコミを入れたくなる気分を堪えて大刀を片手で肩に担ぐように構え、左腕はだらりと垂らしたようなそんな構えをとる。
あまりミカガミ流では推奨されない構えではあるが、一応これも獅子剣の型の構えではある。その構えを見て、自動人形が反対側へと頭を傾けると、少し考えるような動作を行う。
「ミカガミ流、獅子剣、隠し技あり、危険」
ぐ……キリアンめ……どこまでミカガミ流の技を調べてるんだ、ほとんどこの構え見たことないだろうに。
ちなみに、この独特な構えはノエルから数えて一〇世代ほど前の剣聖が考案した構えの一つで、彼はその構えから一撃必殺の剣を繰り出すことで勝利を量産したと言われている伝説的な存在だ。
ノエルのように体型に恵まれてなかった彼は、独自の技法を考案し実践することで天下無類とまで呼ばれることになる……そしてその彼が最も愛し、最後まで信頼していた構えがこれなのだが……その後の時代において彼ほど体型の小さかった剣聖がいないこともあり、この構えは廃れてしまったと伝えられる。
「よく知ってるわね……他にデータも持ってるの?」
「私の、データベースに、あなたのデータは、インプットされています、あなたの、スリーサイズ、は上から九……」
「おい、やめろ! パーソナルデータを勝手に喋るな!」
私の制止に応じて自動人形は言葉を止める……一応人のいうことは聞いてくれるのか、意外なことを発見したような気がするが、そんなことを考えている間にも彼女はゆらりと動き始める。動きはほとんど人間と遜色ない気がするが、やはり細かい部分の動きは作り物のように見えるな。
「では、あなたを、殺します、魔王様、万歳」
「やれるもんなら……ッ!」
次の瞬間、一瞬で姿を消した自動人形が私の真横に出現する……こいつは縮地、武神流でも使われる高速移動法だな。
空気を貫くような音を立てて、掌底……竜爪が迫るが私はその攻撃を紙一重のところで躱すと肩に担いでいた大刀を持つ手に力を込め体を一気に回転させる。
「ミカガミ流……竜巻ッ!」
一瞬自動人形の視界から私の姿が消え、横薙ぎに刀が衝突したように見えただろう……この構えの良さは恐ろしくスムーズに横薙ぎの回転切りが出せること、全身の力を刀に込められること、そして……今のように視界から技を繰り出す際に視界から一気に消えることにある。
私もそれほど体型が良くない、というか女性なんで仕方がないのだけど背丈はそれなりに高いと言われるが、やはり男性の背丈には及ばない部分が大きい。
それ故に記憶の中にある自分と似た体型の剣聖を考えていて、その彼が思い立った。
私の竜巻が自動人形を切り裂く……前にガンッ! という何か恐ろしく硬いものに当たった感覚がありそこで斬撃が止められる。
なんと腕による防御で斬撃を完全に止めている……だが、相当な威力だったようで片手では止めることができず、両腕をうまく使っての防御か……私の斬撃は彼女の腕を切断することができず、表面装甲に歯を食い込ませたところで止まっており、私たちはそのまま押し合いを始める。
「良い、攻撃、です。新居 灯の、データを更新」
「そりゃどうも! このまま押し切ってやるわ!」
ギリギリと食い込む刃先を押しとどめようと、自動人形の脚が軽い変形をおこなっていき、予備の脚が分離し変形しながら伸びると、そのまま地面に食い込み器用にバランスを保っていく。
まるで蜘蛛のように脚が四本となった自動人形は押し込む力を、変形した足を広げたスペースを利用してうまく受け止めていく。
引き込まれるような動作に、力で押し切ろうとした私の体勢が崩れていく。
「無駄です、変形開始、サブアーム展開」
「あ、あぶなっ!」
その言葉と同時に、背中の装甲が開き予備の腕が現れる……その腕は三本のカギ爪のような形状をしており刀を押し込もうとした私に向かって鋭い突きを繰り出す。この予備腕の攻撃すら武神流の格闘家と同じ速度か!
危険を察知した私は押し込む刀を一気に引いて、自動人形の胸の辺りを蹴り飛ばして一気に後ろへと大きくジャンプし、その突き攻撃を回避する。
予備の脚と腕を再び収納すると、二本足で武神流の構えをとった自動人形は少し作り物のように頭を左右に軽く揺する。その動きが本当に機械のようで薄寒い気がする。
「回避能力、予想より、一二〇パーセントほど、高速と認めます、補正開始、補正」
『人間ではなし得ない動きか……厄介だな。単なる力押しでは倒せないと思った方が良いな』
ええ、そうね……大きく息を吐き出して乱れ始めた呼吸を整えるが、全て破壊するものが感心するほど目の前の自動人形の戦闘能力が高い、というべきか。
彼女はオーソドックスに格闘戦スタイルではあるが、予備の脚や腕など人間にはない機構を兼ね備えており、一筋縄ではいかない能力を秘めている。
さらには拳や蹴りの威力はシルヴィと同じレベル……いや人間にあるはずの躊躇いがない分だけ容赦がなく、脅威だ。
「いきま、すね」
自動人形の言葉と同時に、一気に接近してからの乱打が始まる……ええとこれは武神流の竜舞か! 本当にどこまでデータ化してるんだよ! こいつは左右の連打、回転蹴りに前蹴り、そして回転肘打ちが五月雨で飛んでくる超高速連続攻撃だ。
だがギリギリで私はこの攻撃を回避することができている……なんだ、次に繰り出される技がわかる?
そうそう、次は右の拳、肘打ち、左の回転蹴り……右拳……掌底、回転蹴り……どこかで私はこのリズムを知っているような気がして、懐かしさすら覚えている。
目まぐるしい連続攻撃を避けていく私を見て不思議そうな顔をしている、いや機械的な表情なんで大して変わらないけどさ……自動人形が理解できないといった仕草を見せ始める。
『ああ、この技のタイミングは……お前の……』
そうか……この動きというか独特のクセ、そして技の流れはシルヴィと全く一緒だからか、私というよりもノエルの体に染み付いた何千、何万と積み重ねられたシルヴィとの思い出。
その記憶と経験、そして彼女をずっと見続けてきたからこそわかる動きの特徴のようなものが、目の前の自動人形から感じられるのか。
おそらくアンブロシオはシルヴィの動きそのものをそのままコピーしたのだろう……確かに彼女の動きは最適化されていて、人を倒すための最も効率の良い打撃を繰り出せる。
でも、彼女はそこに至るまでに凄まじい量の努力、試行錯誤、工夫を積み重ねてきておりその上での最適解を導き出している。
「なぜ、当たり、ませんか?」
「……模倣が綺麗すぎるからよ」
自動人形の疑問に私は彼女の腹部に片手で竜爪を叩き込みながら言葉を返す……反撃を受けると思っていなかったのか、まるで無防備な腹部に突き刺さった掌底に、自動人形の動きが完全に止まる。
別に苦しいとかではなく、反撃で自動人形の思考、おそらく演算だと思うのだけどそれが一瞬止まったのだろう……そのまま私はサイドステップからの横蹴り、竜脚を繰り出して彼女の胸へと直撃させる。
「理解、不能……損傷軽微」
竜脚の威力で跳ね飛ばされた自動人形はなんとか着地するがそこで動きが止まる……恐ろしく重い、蹴りの瞬間にその重さに少し驚いた。
あれだけ細身なのに軽自動車くらいの重さがあるらしく竜脚でも数メートル跳ね飛ばすのがやっとだ。だが彼女のボディにもダメージが入るのだろう、明らかに衝撃で動きに狂いが生じているのがわかる。
私は再び両手で全て破壊するものを構え直すと、無表情でこちらを見ている自動人形へと刀を向ける。
「さあ、かかってらっしゃい……いくらシルヴィさんと同じ顔してても、私は容赦しないわ!」
_(:3 」∠)_ 格闘戦難しいよぉ……でも頑張る……
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