第二三五話 自動人形(オートマタ)襲撃
「……大変申し訳ございませんでした! 何なら我々を性奴隷としてお使いください……姐さん!」
「……い、いや……そういうのいらないんで……ってかそれ得するのアンタらよね? 私そういう経験ないんで」
私の目の前にはボコボコにぶん殴られて、武器をへし折られた三人の豚鬼がそれはもう見事な土下座をかましてくれている。
正直言えば彼らの戦闘能力は恐ろしく高かった……単純な能力であれば先輩よりも強いかもしれない、だけど全て破壊するものの力を得ている私にとっては赤子の手を捻るレベル……まあつまりは大した相手ではなかったということだ。
「姐さんは処女……? であればなおさら我ら兄弟を初体験にお使いください! ぜひ! さあこの※※※を使っていただければ! 我々、処女には優しく接しますぞッ!」
「うるせえーッ、そのグロいものをしまえ! 何でお前ら相手に初体験しなきゃいけないの! 初めては、優しい男性とそういうことはしたい……選ぶ権利があるでしょ!」
そうそう、私初めてだったら多分先輩がいいな、と思う……お互いそういうのに慣れてなさそうだし。い、いやオレーシャがいるからもしかして既に先輩はそういうことを経験済みの可能性だってある訳だが、彼の性格を考えると多分拒否をし続けている……と信じてる。
先輩とムードのある場所でお互いを見つめあってですね……そんなことを考えただけでもめちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。
『……うわあ……転生前おっさんだったやつが初体験とか……うわあ……』
何やらドン引きする声が聞こえるが、聞こえなかったリストへと叩き込むと私は目の前で土下座を続ける豚鬼たちを改めて見直す。
こいつらは魔王の部下だろうか? なんか襲ってきたから返り討ちにしてしまったけども、何かを守っているとかそういう形なのだろうか。
「ねえ、貴方達はどこの所属なの?」
「はい、姐さん。俺たちは背教者……オレーシャの姉御の部下でございます」
ん? 背教者?! じゃあ人類の味方じゃないの? 私は頭が痛くなってきて思わず呆れ返ってしまう。こいつらもしかして背教者に所属している意味をわかっていないのでは。
私が頭を抱えて、急に呆れ始めたのをみて豚鬼たちは不安そうな顔を隠しきれない、最初は私を完全に舐めてかかってきて手持ちの武器は全て破壊されている丸腰の状況にしているからだと思う。
戦士の性だが、愛用している武器の存在がなくなるというのは彼らからするととても心細いものなのだ、それ故に武器をまず狙ったのだけど、それにしたってね……・。
「あのさ……何で背教者に所属してるのにKoRJの私を襲うのよ……」
「ええっ! 姐さんはKoRJの方なんですかい? でも姉御からは関係ないから好きにしろって言われてるんですが……それに我々豚鬼の本能は繁殖でございまして……その」
まあ、確かに産めよ増やせよは彼らの種族の本能だろうが……配下になった降魔を全くコントロールしてないってオレーシャの管理方法にも問題が大きすぎるだろう。
困ったような顔を浮かべた豚鬼たちは、お互いに顔を見合わせた後に媚を売るように両手を擦りながら私に向かって頭を下げている。
「私たちは相互不可侵の契約を結んでいるはずよ、契約違反だわ」
「それはその……姐さんの心の中に納めてくださいませんか……代わりに俺の※※※を使っていただいて、さあ! どうぞ俺は逃げも隠れもしませんので! さあ!」
「だからそっちに持って行くな! ちょっと待って今対策を考える……」
さてどうしたもんか、ここで解放したところでこいつらは同じように種族本能に従う気がするし……とはいえ、降伏して戦闘意欲のない相手を殺すなんて私の主義に反する。
とはいえこいつらを放置したらどうにもならんな……ここは回収地点にオレーシャがいて彼らを掣肘してくれることを願って同行させるべきだな。
私は懐からスマートフォンを取り出すと地図アプリを開き、みんなが集結しているはずの地点までのルートを検索し、彼らに見せる。
「……この場から離れてKoRJの改修地点に向かって、女性が多いけど、オレーシャもいるから彼女に今後の行動を決めてもらって。私は魔王の元に行かねばならない、貴方達に構っている暇は正直ないの」
「姉御もいるんですかい? わかりやした……姐さんは魔王の元へと行かれるんですか? それであれば情報提供程度は我々できますが……元々斥候として動いておりまして」
「……は? 今なんて言った?」
「ええ、ですから斥候として魔王の近辺の状況について情報収集を……」
「先に言えよ……第一斥候の仕事を放り出してなんて婦女暴行なんかやらか……散れッ!」
本当に頭が痛くなってきた……元々豚鬼は戦士に向いた種族で、斥候とか偵察業務に全く向いていない、こいつらに斥候やらせるくらいならそこらへんの犬を放した方がまだ何か持ってくるかもしれない、そういうレベル。構成員のミスマッチも甚だしいじゃない……マジでオレーシャ全然仕事してないな。
その瞬間、上空から飛来する影に私たちは気がつき私が警告を発した直後、大きくその場からジャンプして、豚鬼たちはそれぞれ別々の方向へと飛び退る。
「大丈夫ですかい、姐さん!」
「大丈夫……ってなんだ……人?」
濛々と立ち込める煙の向こうに人影のようなシルエットが見える……女性だろうか? スカートを履いているのが見えて私は目を凝らしてその姿をみるが……煙が晴れてくるとその異様な姿が次第に明らかになっていく。
その人物は所謂メイド服のような格好をした女性だった……人間のような姿だが、異様なのはその肌だ。まるで人のものとは違い、何かの金属を塗装したかのような少し明るめの色をしており、作り物としか思えない質感だ。
髪の毛の色は緑色をベースとした明るめの色合いで……顔を見て私はひどく息を飲み込みたくなるような衝動に駆られる……私の記憶に強く刻み込まれた女性の顔。
「シルヴィ……嘘……」
そのメイド服を着た何かの顔は、前世でノエルが愛したただ一人の女性であるシルヴィ・ヴィレント・ヒョウドーを模したものだったからだ……だがその表情はまるで機械のように無表情で、恐ろしく冷たい。
シルヴィに似た何かは、表情を変えずに懐から水晶玉を取り出すと私たちに向ける……するとその水晶が淡く光ったかと思うと、空中をふわりと舞い、そこから映像が映し出されると魔王アンブロシオの姿が浮かびあがる。
「やあ、驚いたかい? ノエルが愛したシルヴィ……その模倣品だよ、自動人形と言ってね。異世界の魔法技術の進歩とこの世界の協力者のおかげで擬似生命体を作り出すことに成功したんだ。これは試作品にして最高傑作の一つさ」
「自動人形?!」
メイド服を着た自動人形は恭しくスカートを摘むと、前世の世界で行われていたような礼を見せる……その動きはほんの少し違和感があるもののかなりスムーズな動作を見せている。
映像だけのアンブロシオは私の表情を楽しむかのように、邪悪に歪んだ笑みを見せて口元を歪める。私は目を見開いてほんの少しだけ思考が止まっていたが、すぐに気を取り直すと背中に背負っている大刀の柄を握る……。
「あんた達、早く逃げなさい。私はこいつを倒さなきゃいけない……」
「へ、へい……姐さんも気をつけて……」
豚鬼たちは慌ててその場から走って逃げていく……目の前の自動人形は明らかにあの三人よりも強い……不気味すぎる雰囲気と、その圧力は尋常ではないのだ。
だが、自動人形はその様子を見て少し首を傾げると、空中に浮かぶアンブロシオの映像に向かって話しかける。
「……魔王様、逃して、よろしいの、ですか? 追撃が、可能、です」
その声はまるで記憶にあるシルヴィと同じ……ほんの少しだけ作り物のような違和感があるものの、私はその声を聞いた瞬間に自分の意志とは全く別に、目から涙が溢れ出していることに気がついた。
軽く頬に手を当てると、ボロボロと涙がこぼれ落ちている……これは私じゃない、魂の奥底に眠るノエルの涙か? 手で拭うとそれを見たアンブロシオがくすくすと笑い声を上げる。
「逃していいよ、それとノエル……寂しかったんだろう? 僕は君のためにこいつを作った……態々シルヴィに似せてね……僕が覚えている限りの記憶で君のために作ったんだよ。この自動人形は僕の最強の盾になる」
「貴様……趣味が悪すぎるぞキリアン……」
私の意志に反して、勝手に言葉が口を注いで出る……ノエルの怒りのような感情が心の奥底から湧いで出てくるような気がする。
目の前の自動人形は違和感のようなものしか感じないが、声も姿も同じようなものとなってくると、やはり動揺は生まれるのだろう、何か怒りだけではなく焦りの感情のようなものすら感じるのだ。
目の前の自動人形はシルヴィさんとは違うかもしれない、と思いつつもその姿に胸が締め付けられるような悲しみと、猛烈な怒りが渦巻いている。
「おや? 随分と怒ってるね……シルヴィを汚されたとか思ってるのか?」
アンブロシオの言葉に私は奥歯を噛み締める……俺のシルヴィを、その姿を勝手にお前が使うな……俺の大事な、愛している……ずっと好きだった……あの美しく……可愛いシルヴィをお前が汚すな! 強い衝動に私の表情が怒りで歪む……今はこの感情も前に出るための勇気になる。
全身の毛が逆立ったような感覚、憤怒に近い感情が私を支配し始める……こんな、こんなことは許してはいけない、愛するものを汚すような真似を、そんな汚い真似を私は許すべきではないだろう。
構えを解こうとしない私を見た自動人形は表情を変えずに、キリキリと何かが動くような音を立てながら、口を開く。
「……危険分子と、判断いたしました、目の前の、人間の、女性を、排除します。アンブロシオ様、魔王様、万歳」
_(:3 」∠)_ 本人レプリカ登場……高槻さんを以前登場させていたのは格闘戦の表現を確認してたから(都合の良い言い訳
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