第二三三話 魔王(ハイロード)
「……話はわかりました……エツィオさんがこちら側に戻ったというのも本当なんでしょうね……」
「ええ……で、あの人何してんのかね……」
めちゃくちゃ頭が痛そうな仕草をしながら心葉ちゃんは私の話を聞いてくれている。当の本人は灰色の幻影の各部を楽しそうな顔でペタペタ触りまくってるが……なんだあのキラキラした目と満面の笑みは、畜生男の子ってやつはよ! ロマンなのか? ロマンなんだろ!?
確かにエツィオさんが台東さんと一緒にこの機体を作っていたのも知ってるし、実際にアイデアが形になっていくというは楽しいだろうけどさ……。
エツィオさんは満面の笑みで灰色の幻影に取り付けられた装備を指して、心葉ちゃんに話しかけてくる。
「四條君、ここの機能を教えてもらっていいかい?」
「……ええと……その……私が説明するよりも……Orla説明を」
『……困ったときに私を使うのは感心しませんね、でも創造主の一人からの依頼とあれば喜んで』
「ええええ?! Orlaを実用化したのかい?! 台東君さすがだなあ……性格の設定は僕と台東君で色々決めたんだよなあ……ちょっと口答えしちゃう気の強いメイドさんをモチーフにしようってまとまったんだよねえ」
その言葉に心葉ちゃんの顔がビキッと固まる……あ、あれ? なんか心葉ちゃん心なしかキレてない? 青筋立ってるし……私は手元の水筒……これも心葉ちゃんが灰色の幻影の拡張パック内に内蔵してくれていた応急キットから出してくれているやつなのだけど、そこから栄養ドリンクを軽く啜りつつ、心葉ちゃんの表情を見ているが……絶対キレてる。
「……エツィオさんと台東さんのどちらの意見が強いのですか?」
「あー、Orlaの性格については僕の方から出して……ん? なんで急に拳銃を取り出してるんだ?」
「ストップ! ストップ! 今エツィオさんしばいても何にもならないから、ね?!」
心葉ちゃんが殺意剥き出して大口径の拳銃を取り出しているのを見て、私は慌てて彼女を止める……エツィオさんは彼女の行動を不思議そうな顔で見つめているが……相当クセの強い性格に仕上げているのだろうな、この反応を見る限りは。
エツィオさんがあらかたOrlaへの質問を終えると、満足そうな顔で戻ってくる……うう、なんで私がここまでフォローしないといけないんだ。
「さすがだな……僕がいなくなってもきちんと開発を進めているのは、さすがだと言わざるを得ないな……」
「満足ですか?」
私の問いに満足そうに頷くエツィオさん……なんかすごくキラキラした目になっているけど、少年じゃないんだからさ……。
そりゃあ自分が参加したプロジェクトがちゃんと形になっているなんて素晴らしいことだと思うけど、あなたさっきまで敵だったからね? そのあたりすっかり頭から飛んでるんじゃないか?
「僕がいない間にここまで形になっているなんて……さすがKoRJ開発部だよ。……なんか不満そうだね?」
「……別に不満じゃないですけど、なんか腹立ちますね……あ、ちょっと何して……」
「可愛い教え子にスキンシップさ、恥ずかしがるなよ。こうされなくて寂しかったろ?」
私が膨れっ面を浮かべているのを、苦笑いを浮かべて優しく頭を撫でてくるエツィオさん……思わず声を荒げてしまったが、なんとなく憎めないキャラなんだよな。
その時、少し離れた場所で大きな振動が起きる……見ると、その方向にあったはずの望楼がゆっくりと倒れていくのが見える。
どうやら別の方向にあった望楼を別に動いていた誰かが破壊したのだろうか?
「望楼が……」
「こちら銀狼、目標を破壊したよ。それと保護したい人員がいる、KoRJより回収班を送ってくれ、回収地点へと向かう」
志狼さんの声が聞こえる……どうやら彼も望楼を破壊することに成功したのだろう、そして保護したい人員……? 誰かこの場所に民間人でもいたのだろうか? とはいえ無事だったのはよかった。
だが次の瞬間、少し離れた場所にあった望楼……エツィオさんが守っていたものだが、それが震え始める……その震えが地面に伝わってまるで地震のように辺りを震わせている。
「キイアアアアアアアアアアアアッ!!」
「な、なんでいきなり……」
私たちが驚いてその望楼を見ると、いくつも幹に生えている口から、まるで悲鳴のような叫び声が辺りに響くと、まるで自壊していくかのようにその黒い巨体が真っ二つに裂けて黒い液体を噴き出して地面へと倒れていくところが見える。
だが、その二つに割れた幹から激しく輝く光球が生み出されると、その光の球は煉獄の花へと向かって空を飛び、まるで栄養を与えるかのように蕾の中へと吸収されていった。その様子を見ていたエツィオさんが、軽く舌打ちをして頭をボリボリを掻いた。
「……そうか、残り一本になったら強制的に煉獄の花を起動するように仕掛けてたのか……僕たちのことは捨て駒とはね、恐れ入る」
「煉獄の花が!」
目の前で煉獄の花が光り輝く……光が収まると、混沌の植物は身を大きくくねらせるとそれまで地面に向かって垂れたような格好をしていた葉や蕾が生きているかのように動きはじめる。
そしてその向きを天空へと、力強くしっかりと直立させていくのが見える……まるで一つの生き物のように、湖の上へと葉を広げると、不気味な色合いへと表面を変化させていく。
「な、何で……急に成長しているかのように……止めたはずじゃ……」
「……もうすでに開花に必要な準備は整っていたんだよ、ほんの少しの時間稼ぎ……望楼はあくまでもその時間を稼ぐだけの設備、そして最後の起動用の鍵だったんだな」
不気味な色合いの煉獄の花の蕾が大きく花開く……まるで生きているかのように、身をくねらせながら天空へとその雌蕊を伸ばすとそこから大きく強い光を放ち始める。
前世の知識においても煉獄の花が完全に開くという記録は残っていない、だから今大きく花開いた混沌の植物がどのような方法で世界をつなぐ橋を構成していくのか、その真実が明らかとなるだろう。
開花した煉獄の花は空に向かって光り輝く柱を打ち出す……それはまるで世界と世界をつなぐ橋のように、そして天を割り、空間を切り裂く剣のように真っ直ぐに空の彼方へと光の柱を伸ばしていく。
その彼方に何があるのか……別の空間、そして異世界の魔王の軍隊……神話では成就しなかった異世界の軍隊がこの世界へと傾れ込むのか。
『……この場にいるKoRJ、および離脱者の諸君に告げる……私はアンブロシオ。君たちの概念で魔王と呼ばれるものだ』
「な、なんですか? 頭の中に声が……!」
四條さんが急に入ってきた言葉に驚いて頭を抑える……そりゃびっくりするよな。私も思わず体がビクってなったよ。これは念話の一種か。
前世ではあまり使わなかったんだけど、口を動かさずに考えたことを伝えられる便利な魔法で、音を立てずに作戦を伝えたりとなかなかに役立つものだった。
とはいえそれほど距離は届かないし、限定された対象にしか届かなかったはずだが……広範囲の敵に対して届けることができる、というのは規格外の能力だな……。
『君たちの勇戦に敬意を表する……だが、君たちは時遅く、すでに煉獄の花は開花し、この世界の滅亡は時間の問題となった、だが抗おうとする意志は尊重する』
まさに誇り高く、尊厳に満ち溢れた声だ……四條さんはその念話ですら負担になっているようで、頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべている。
エツィオさんは表情ひとつ変えていないが、だがこめかみに軽く汗を流しているところを見ると、プレッシャーは感じているらしい。
だが次に届いた念話の内容で私は思い切り驚いた……。
『……私が戦いたいのは一人だけ、剣聖よ我が元へ来い、一対一で戦おう……これは命令である』
「命令? 何言って……あぐうううああああっ!」
まさかのご指名……ふざけるな、私たちが合流して数で押し切るってこともできるってのに、何でわざわざ一人で行かないといけないんだ?
第一命令とか……と私が考えた瞬間に、凄まじい痛みが胸に走る……思わず胸を押さえてうずくまるが、何だ……この痛みは。
エツィオさんが私の様子を見て血相を変えてそばによると、着直していたブレザーの前を思い切り開ける……な、何しやがる! ……といきなりのセクハラ攻撃に抵抗しようとした私だが、思わずその手を止める……自分の胸元に不気味な黒色に輝く紋様が浮かび上がってくるのが見えたからだ。
「布告……! そうか直接会った時に呪いをかけていたのか……! 最後の最後に逃げられなくするために……!」
え? え? 私はことの次第が理解できずに胸元に輝くその紋様を見ているが……スクールシャツの上に浮かび上がるように現れたその紋様は、禍々しい恐怖を感じさせる怪物をモチーフとしたものだ。
そしてその周囲に浮かぶ文字は、現世に転生した私では理解できないが、おそらく何らかの強い呪詛を象ったものだろう。
そしてその紋様が輝くたびに私の心臓が締め付けられるような痛みを発している……痛みに耐えきれずに私は呻き声を上げてしまう。
「い、痛い……痛いよ……何なのこれ……」
『布告……私は剣聖に呪いをかけている、彼女以外の人間が煉獄の花、いや我へと近づいたら、彼女だけでなく、事前に選別してあるこの国の民衆が死ぬことになる』
「大変だ! 都内の各所で一般市民が次々と倒れているという通報が入っている! それに伴って都内の交通機関や、通信網の一部が麻痺した! KoRJの職員の一部にも発生していて、彼らの胸の位置に不気味な紋様が浮かび上がっている」
インカムに八王子さんの焦るような声が響く……確かに山の近くにある街で何か騒ぎが起きているのか、悲鳴や救急車が走り回っているようなサイレン音などが響いている。
胸の痛みが強く、締め付けるようなものへとなってきている……このまま逃げたり、仲間を引き連れていけばみんな死ぬということか……。
「発症した病人や怪我人は次々と死んでいる……生命力がある程度強くないと生き残れないのだろう、まずいぞこれは!」
インカムに入ってくる状況は限定的だが、いろいろな場所で混乱が起きているのだろう……別の方向にあるはずの街からも似たような喧騒の音が小さいながらも伝わってくる。
私は怒りで奥歯をギリリと鳴らしながら立ち上がる……痛みは我慢できる、辛いのも我慢できる……だから、私は一人になっても逃げるわけには行かない。
「くそったれ……こんな罠を最後に用意しやがって……」
『もう一度伝えよう……これは命令だ、世界を守る可憐なる剣聖よ、この世界を代表し、我と最後の戦いに挑むのだ……伝説に詠われるような、魔王と勇者……その戦いを再現しようではないか』
_(:3 」∠)_ ということで最終決戦は1on1なのです……だってその方が楽しいじゃん的な
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