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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

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第二二六話 望楼(ウォッチタワー)の戦い 〇六

 ——少し前から記憶が溶けていた、まるでふわふわした何かに包まれていくような、そんな一体感を感じる。


 結構な時間、この中途半端な意識でいたために楽をしてる気にはなっていた。

 自分の後を、そして意思を継いでもらった少女は強くなった……俺が生きていた世界とは別の世界に生まれ落ちた一つの生命、俺の意識は男性だが、女性として性を受けたことで二つの意識が融合し、溶け合いそして時折姿を見せる。中途半端な意識の中、俺は一度ならず何度か彼女のために魂の不文律を破った。


 新居 灯……それが新しい生の名前、そして美しい黒髪の少女の名前だ。

 俺の記憶が、経験が、そして身体能力の一部が彼女に引き継がれた……どうしてそうなったのか俺にもわからない、神様の悪戯と言われればそうかもしれない、と笑うだろうか。

 古い仲間の記憶ももうずっと遠くなのだ、果てしないほど遠くに感じるが、肉体のない俺には昨日のことのように記憶の断片を拾い上げることができるようになっている。


 灯の記憶も俺に共有されている……少女らしい恋心や、憧れ、そして俺の記憶に引き摺られながらも必死に生きようとしているこの世界の少女のことが俺は結構気に入っている。

 俺の記憶に引きずられることはない、自由に生きてほしいと願ってはいたが、ある時この世界を脅かす存在と遭遇してしまった……俺は彼女を守るために能力を貸し与えた。

 いや正確にいうのであれば、彼女自身が自ら戦いを望んだから、能力を引き出せたと言ってもいいだろう。


 彼女は筋が良かった……いや俺と同じ存在なんだから当たり前なんだが、ミカガミ流剣術を使いこなし、成長し続け敵を倒していった。

 何度か俺は彼女を助けていたが、魂の不文律を破る行為は自らの魂の消耗を招いている……融合が進むにつれて俺は安息の中に微睡むことが多くなっていた。

 そのうち俺という存在は彼女の中の記憶の一つとして消え去り、同化していくのだと、そう思っていた。しかし……異変が起きている……しかもその発端は俺の昔の仲間の記憶を継いでいるものが起こしているらしい、ちなみに今まで全然気が付かなかった。ちょっと似てるなーくらいで魂が宿ってるなんて、全然思ってもいなかったのだ。


 エリーゼ・ストローヴ……勇者(ヒーロー)パーティ最強の魔法使い。

 ちんちくりんで成長全然してない、つるぺったんな幼児体型のくせに結構な年齢で、見た目は幼女なのに異世界で最強の大魔道(ソーサレス)だった女性。

 その破壊的な魔法は天空より隕石を降らせ、爆発魔法はこの世界の核兵器にも等しい……その女性の転生した姿がエツィオ・ビアンキという青年だったはずだ。


 俺は言った、「彼女を頼む」と。

 俺は言った、「彼女に優しくしてほしい」と。

 俺は信じた、「こいつなら頼れるのだ」と。


 だがこれはなんだ……彼は彼女に欲望をぶつけようとしている……それがエリーゼの意思だと信じてその声に従って動こうとしている。

 俺が彼女を傷つけたら絶対に許さない、とわかっているはずだ、そんなことすら忘れてしまったのか……。

 俺が死ぬ時から何百年経ったのかわからない、でも……エリーゼはそんなやつじゃなかった、ずっと純粋で俺はシルヴィという愛するものがいなければ、彼女の好意を受け止めたのかもしれないとずっと思っている。


 だから、これは違う……あいつの意思じゃない、あいつは何かに操られている。

 本音ではキリアンに会うまでは出るつもりはなかった、だけど……いまエリーゼを止めなければ、お前の心は壊れてしまうだろう……愛するものと結ばれる、それは俺でも望んでいることなのだから。

 俺はそれまで心地よく浸かっていた場所から抜け出そうとする……痛い、苦しい……辛い……あらゆるネガティブな感情が俺の魂を包み込む。

 だが、俺は今ここでお前を助けるために前に出る。

『……俺が道を訊さなければいけない……灯……俺はお前を守る、だから力を貸せ』




「ウフフ……こんな無粋な制服は脱がさないといけないよね……」

 気を失っている新居 灯を地面へと下ろすと、エツィオは彼女の制服に手をかけ、上着をそっと脱がせる……ついでに彼女の首筋にそっと唇を落とすと、ピクリと反応をするのがとても可愛い。

 ああ、僕がこうやって愛でる度に君はこんなにも細かい反応をしてくれる……首筋にそっと舌を這わせると、その動きに合わせてピクピクと体が震えている。

 どうしてこんな簡単なことをしなかったのか、今までずっと手が届く位置にいたのに……魂から囁く声が聞こえる。


『ノエルを我が物に……この少女を陵辱して、貴方のものに……それで私は救われる』


「待っていてください……エリーゼ……僕の前世よ、貴方の声に従って僕は今から彼女を手に入れます……僕と彼女はここで結ばれ、愛の結晶を授かったら……その存在を捧げます」

 エツィオの心に暗い暗い、ドス黒い欲望が首をもたげる……エリーゼの残した最後の思念、強い思慕の情、報われない愛情、そしてその強い想いが何らかの形でねじ曲がった存在。

 それがもうエリーゼだったのかは既に誰にもわからない、だがその存在はエツィオ・ビアンキという青年の心を歪めている。彼自身はずっとその強い衝動に抗い、誘惑を振り切ってきた、だがその心は次第に蝕まれ、変質していったのだ。

 ブレザーの上着を脱がせ終わると、白いスクールシャツと大きな胸の存在が顕になる……ああ、今まで手に入れてきた女性よりも遥かに美しい……。

「灯……僕は君を手に入れる……だから、君も僕を愛さなければいけない」


「……ねえよ、馬鹿野郎……お前を愛してくれている女にそれを言え」

 目の前の新居 灯が目を開ける……その凄まじいまでの存在感と威圧感に思わずエツィオは飛び退き、距離を取る。な、何だ? エツィオの全身に冷や汗がどっと吹き出す。

 先ほどまで気絶をしていた新居 灯がふらりと立ち上がる……どうして? 意識を完全に飛ばしたはずなのに……電撃で彼女の脳に直接攻撃を仕掛けたのだ、廃人にならない程度に……それなのにもう立ち上がる?! そんなはずはない!?

 驚き慄くエツィオを尻目に、新居 灯は打ち捨てられていたブレザーを拾い上げると、軽くマントのように肩へと掛け直し、彼へと向き直る。

 その立ち姿があまりに美しく、そして雄々しいとエツィオは素直に思った……何者? 新居 灯の姿をしているが……。

「……エリーゼ、お前か」


「……っ!」

 その言葉を聞いた瞬間、内なる魂からの強い衝動に耐えきれずエツィオの両目から涙が溢れる……なぜその名前を……新居 灯が喋ってるようで、全くの別人が話しかけているような気がする。

 それまでの新居 灯の持っていた明るさや女性らしい印象とはかけ離れた、ずっと凛々しく雄々しい印象を持って、エツィオの前に彼女は立っている……目の中にある炎は微かな怒りと悲しみを讃えている気がする。そしてエツィオ自身も自らの意思ではなく、魂の奥底から搾り出すように口を開く。

「……ノエル? ノエルね……私貴方を手に入れたくて……ずっと好きだったのに、ずっと愛してたのに……何で先に逝っちゃうの!」


「……そりゃあんな攻撃を受けて死なない方がおかしいだろ。あんな死に様だけど、俺は生き抜いたことには満足しているぞ。お前を泣かすつもりはなかったがな」

 新居 灯の姿を借りたノエル・ノーランドの魂と、エツィオ・ビアンキの姿を借りたエリーゼ・ストローヴの魂が直接対話を続ける。

 お互い憎からず思っていたが、ノエルには心に思い描いた女性が、エリーゼはその宿命のためにずっとすれ違ってきた二人が、この世界に置いて転生者として出会い、そしてようやく話をする機会を得たのだ。だが、その会話は微妙にすれ違っている……。

「……私はその女の胎を使って、この世界に顕現するの! 貴方の意志を継いだ子供として生まれ変わる……だから邪魔をしないで! 私はあなたを手に入れる! キリアンだって祝福してくれるわ!」


「……言っている意味が理解できないが……そりゃ困る、新居 灯には心に決めた男性がいて、俺はそれを望んでいる……こいつにとってエツィオ・ビアンキは単なる友人の一人なのだから、素直に諦めろよ」

 ノエルはかなり嫌そうな顔で目の前のエツィオへとはっきりと伝える……エツィオのことは嫌いではない、というのがこの体、新居 灯の意思でもある。

 だが、全てを預ける気にはならない……秘密を共有する間柄であっても、愛する対象ではないというのが本音のようだ。だからこそ友達として接したい、信頼できる仲間として付き合いたい、先生として尊敬したい。

 それが彼女の気持ち……愛する対象としては見れないのだ、少し前のエツィオ・ビアンキならそれを理解しているはずなのにどうしてだ? その微妙な関係を楽しむようなふりをしていただけなのか?

 目の前のエツィオは憤怒に顔を歪ませて怒り狂う……ああ、こういうところの表情はエリーゼそっくりだな、とノエルは感心してしまう。

「友人じゃない! エツィオは私の転生者はずっとその女のことを見ていた……他の女を抱いていても心の奥底では愛していなかった! だから私がお前を手に入れるの!」


「……なら本気で奪いに来い、俺がお前を教育し直してやる」

 新居 灯の中にいるノエル・ノーランドが凄まじい殺気を放つ……彼女が虚空へと手を伸ばすと空間を切り裂くように全て破壊するもの(グランブレイカー)が姿を表す。

 その刀には新居 灯がふるっていた時よりもはるかに強い力が、そしてその刀身はまるで前世のノエル・ノーランドがふるっていた時のように日本刀ではなく大刀(ブレイド)と同じ長さへと変化している。あれ? ちょっと前までもう少し短くなかった?


『……お前はこの方が使いやすいかろう? 灯も使いこなせるだろうから気にするな』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)の声が響く……なら心配ないか、でも使いにくいって言ったら元に戻れよ?

 俺は何度か大刀(ブレイド)の感触を確かめるように振るうが、確かにまあこの体には少し大きい気もするけどなんとかなりそうだ。

 本気に近い殺気を叩きつけられたエツィオ、いやエリーゼのこめかみに汗が流れる……前世ですらここまでの殺意を当てられたことはない……本気で怒っている、それ故に目の前にいる少女、いやノエルを屈服させて仕舞えば……。


「やれるものなら、やってみなさい! 異世界最強の大魔道(ソーサレス)の名が伊達じゃないことを教えてやる……その後は好きなように嬲らせてもらうわ!」

_(:3 」∠)_ 次回から魔法使いvs剣聖の仁義なきバトルをですね……以下略


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