表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/247

第二一七話 友人同士(ホーミーズ)

「……やはり魔素の影響なのか、結界の強度がかなり落ちているな……」


「まだギリギリ数値上は問題ない気もするのですが……どうしますか? 数ヶ月後には張り直すことになりそうですが」

「不確定要素があればすぐに崩壊する数値だ。安全を取るなら今対応した方が良さそうだな」

 とある路地裏……KoRJの職員と、仮初の姿で調査をしているリヒターの姿がそこにはある。この場所では以前、降魔(デーモン)との戦いが行われた場所でもあり、その後処理班の手により綺麗に片付けはされているものの、普通の人間がここへと足を踏み入れることは少ない。


 ——ここへは入ってはいけない気がする、とても不気味な場所だ。


 普通の人間ならそう思うだろう、二度目の襲撃事件を起こさないように、リヒターによる魔物払いの結界が張られているが、その副作用でこの場所は『何かありそう』という不安感を掻き立てる効果を生んでいる。

 この場所を維持する触媒は、壁に貼られたトランプのカード……その小さなカードにリヒターが特殊な付与(エンチャント)を行ったことで、結界が維持されていると言っても良い。

 今まで事件の起きた場所で、いくつかの地点にはこのような結界を生み出す触媒を設置しており、KoRJの仕事を増やすことなく降魔(デーモン)被害(インシデント)の発生回数を減らすための試みだ。

「呪物……例えば奇妙な形の石像とかにした方が維持は楽なのだろうか……私の世界ではそういう物品が多かったのだが」


「西洋の悪魔像……キマイラっていうらしいですが、あれは似たような効果を期待されてますね、日本では狛犬とかが似たようなイメージですが……流石に街中に狛犬は置けないですしねえ……」

 職員が少し苦笑いを浮かべてリヒターへと話しかけているが、リヒターは幻術で作った顔の顎をさするような仕草で、ふむ……と考え込む。

 街中に狛犬が置いてあったら不自然なのか……それは勉強になる、と誰に聞かせるわけでもなく独り言を呟いた後、彼は周りを観察し始める。

 既に血液や戦闘の痕跡はほぼ残っていない……だが、魔素の流れは存在していて、その流れに多少の違和感を感じてしばし動きを止める。


「……これは……」

 リヒターの感覚には魔素の流れを動かした形跡がはっきりと見えており、その痕跡を辿って他の職員からは見えない何かへと視線を動かしている。

 不自然なくらいの細工……そしてバレても問題ないと言わんばかりの改変を前にリヒターはその細工を施した人物の顔を想像して大きくため息をついた。

 そしてリヒターにわかるように細工をしている、ということは今回自分がここへ来ることすら予想して、メッセージとして残していたのだろう。

「……時間切れ、ということか……全く周りくどい手を……」


「リヒターさん、どうされました?」

 職員の不思議そうな顔には構わず、リヒターは軽く手を上げて黙っているように仕草で伝える……それと同時に、コツコツ、と革靴でこちらへと向かってくる音が聞こえ、職員含めて全員がその音の方向へと目を向ける。

 そこへと姿を現したのは、金髪を綺麗に整えまるで東欧貴族風の整った容姿をしている男性だった……仕立ての良いスーツは高級ブランドのオーダーメイド品であり、職員たちはその姿を見てどこかの金持ちがやってきたのかと軽くため息をつく。

 だがリヒターだけは……少しだけ緊張した面持ちで、周りの職員へと声を掛ける。

「……知り合いのようだ、皆はここから離れてくれるか? 少し遅れて私は帰ることにするよ」


「知り合い? ……まあ、良いですけど現場を荒らさないでくださいね」

 職員たちは訝しげるような表情ではありながらも、リヒターの言葉に従ってその場から離れていく……その間も東欧貴族風の男性は、職員たちへとニコリと整った顔で笑顔を浮かべて頭を下げており、彼らは特に気にすることもなくその場を離れていく。

 この場所に、新居 灯がいれば……彼らを返すことはなかっただろう、なぜならばその東欧貴族風の男性は、今現在進行形でこの世界を侵略している魔王アンブロシオその人なのだから。

「……仕事は忙しそうだな、リヒター……その姿になっても忙しいことだな」


「なんの用だ? 殺しにきたのであれば黙って殺せばいい、それともお前はそこまで優しかったか? 魔王アンブロシオよ」

 リヒターの返答にクスッ、と笑ってから懐より缶コーヒーを二つ取り出し、一つを軽く放ってリヒターへと渡すアンブロシオ。缶コーヒーを受け取ると、幻術を解いて不死の王(ノーライフキング)としての素顔へと戻り、プルタブを起こして開けると軽く中身を飲んでから、残念そうにカタカタと揺れるリヒター。

 そんな彼を見ながら、アンブロシオも缶コーヒーの中身を飲むが、やはりなんだこれは……と言いたげな表情を浮かべる。

「甘すぎるな、微糖と書いてあったんだが……こんなはずではなかったんだ」


「お前が買ってきたんだろう? だが甘いな……お前の選択肢はいつもどこか抜けているな」

 顔を見合わせてからアンブロシオは軽く苦笑を浮かべ、リヒターは困ったようにカタカタと揺れながら缶コーヒーを啜る……お互いの間には殺気はなく、仲の良い友人同士の邂逅にすら感じる暖かい空気が流れている。

 そのまま数分会話もなくお互いの距離感も縮まらないままの時間が過ぎていく……だがそんな沈黙に耐えきれなかったのか、リヒターはカタカタと小刻みな揺れを生じながら口を開く。

「……私を倒しても、お前は新居 灯に殺されるだけだ。あれは本物の剣聖(ソードマスター)……ノエル・ノーランドの魂を受け継ぐ者、私は彼女がこの世界を守る勇者(ヒーロー)になる、と考えている」


「……ノエルは勇者(ヒーロー)としての資質はあっただろうが、彼自身はそれを望んでいなかった」

 アンブロシオは缶コーヒーを片手に口を開くが、リヒターはその言葉に黙って頷く……ノエル・ノーランドの伝説は異世界において有名な英雄譚だ。

 彼の死後、こぞって吟遊詩人達は彼の伝説を美化して伝えた……それからいくつもの時を超えてなお、異世界においては剣聖(ソードマスター)の伝説は人々の勇気を掻き立てたこともあった。

 リヒター個人はノエルと直接の面識はない……だが、異世界においてキリアンという勇者(ヒーロー)とは面識があり、アンブロシオへと堕ちる時も彼の傍に存在していた過去が、思い出と共に存在している。

 その彼から死ぬ前のノエルの逸話はたくさん聞かされているが、新居 灯とは全く違った存在のようにすら思えている。パフェを楽しそうに頬張る新居 灯の笑顔を思い出して、リヒターは苦笑しながらアンブロシオへと語りかけた。

「私個人としては、彼女はこの世界の女性として、平和な生活を送らせてやりたい……だが、お前は違うな?」


「……既に私の部下が何人も彼女に殺されているからな、決着はつけなければなるまいよ、そのために君らの戦力を削ったのだからな」

 アンブロシオの言葉に、リヒターは改めて大きなため息をつく……理解はしている、最後まで殺しあわなければいけないのだとは。

 神に仕える存在であった異世界、そしてこの世界においてもリヒターはなお彼の信じる神への愛を捨てたことはない……それ故に思うのだ、友人同士であったはずのアンブロシオと新居 灯が殺し合うのは自然の摂理に反するのだと、声を荒げて主張したいと。

「なあ、()()()()……今からでも遅くはない、殺し合いの連鎖を俺は見たくないのだ。水に流すことはできないか?」


「無理だな……わた……いや、僕はもうこの世界の敵でしかない。そして彼女は僕の敵だ」

 アンブロシオは飲み終わった缶コーヒーを軽く握ってぐしゃり、と潰すとそのつぶれた缶を軽く放る……金属が壁に衝突する音が路地裏に響く。

 リヒターも缶の中身を飲み干すと、骨だらけの手で缶を潰して地面へとそっと置き直す。その様子を見ていたアンブロシオがリヒターの目の前へと改めて立つと凄まじいまでの殺気を放つのを見て、覚悟を決めたリヒターは彼に向かって優しく語りかける。

「……友よ、手加減はしないぞ」


「そうだな……君はまだ友と呼んでくれるのだな」

 リヒターの赤い眼がぎらりと輝く……アンブロシオが不死の王(ノーライフキング)を前にして、軽く腕を振るうとその手の中に直剣(ブロードソード)が空間を切り裂くかのように現れ……そして眩い光を放つ。

 光もたらすもの(ライトブリンガー)……異世界で勇者(ヒーロー)が携えた聖なる剣、そしてキリアン・ウォーターズの代名詞となった武器でもある。その剣を片手にアンブロシオが赤い眼を輝かせつつ、リヒターへと向かって振るった。

「ああ、友よ……ここでお別れだ。古い友人である君を殺したくはなかった……さらばだリヒター、地獄が本当に存在するならば、君は先に待っていてくれ……僕もそのうち行くよ」




「……何? 雷かしら……」

 ふと耳元で、知っている声が響いた気がして私は下校途中の道端で後ろを振り返る……遠くの空で雷が鳴っているかのように、雲の間が煌めきそして静かになっていく。

 ほんの少しだけ不安のような感覚を覚えて、そっと胸に手を当てる……まあ、大きいんですけどね、私。

 胸に手を当てたまま、そんなことを考えているとミカちゃんと心葉ちゃんが、何してんだよと言わんばかりの顔で私を見ていることに気が付き、私は慌てて笑顔を浮かべて二人の元へと駆け寄る。

「ごめんごめん、なんか耳元で囁かれた気がしたの、でも気のせいだと思う!」


「虫の知らせ、ですかね?」

「わかんない、でもなんかゾワゾワしたんだ……気のせいかな」

 私の答えに軽く首を振って、わからないという仕草を見せる心葉ちゃん……ミカちゃんも気のせいならば、と笑って私の腕に軽く自分の腕を絡ませて微笑む。

 まあ、気のせいだよね? 私はそっと先ほど光が見えた空を見つめるが……既にその方向は黒く雨の降りそうなくらい大きな雲がかかっているのが見える。

 予報は晴れだったんだけどな……私はほんの少しだけ胸のざわめきを覚えるものの、軽く首を振って自らの懸念を頭から消し去ると、みんなと一緒に歩き始める。


「……多分気のせい……大丈夫、明日も変わらない一日が始まるから、本当に大丈夫……」

_(:3 」∠)_ ホーミーズってスラングなんですね、知らんかった……


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ