第二〇四話 黒竜(ブラックドラゴン) 〇七
——新居 灯の戦闘が始まる一五分ほど前……。
「四條殿……こいつはまだ試作機です! 武装も完全ではありません! 今から動かしたところで戦いには間に合わないですぞ、ゴポォ!」
KoRJ開発部台東 博士の声が強化外骨格を格納している格納庫に響く……職員たちはなんだ? とその声の方向を見ているが、そこでは強化外骨格に乗り込もうとしている四條 心葉とそれを必死に止めようとしている台東の姿がある。
四條は制服を模した戦闘服のまま、試作機と呼ばれた型式番号『FAU-111 灰色の幻影』の各部の最終チェックをおこなっている。
「……これなら間に合うのでは? それと装備は竜にも通用するのですよね?」
「それはそうです、開発部が威信をかけて作り上げたこの灰色の幻影はどんな巨大な降魔にでも対抗できますぞ、ただ実験がまだ終わってないのです!」
灰色の幻影……KoRJ開発部が作り上げた飛行ユニットを装着した強化外骨格で、体高は約四メートル程度、胴体に当たる部分に搭乗員が直立した形で乗り込むセミオープン型のコックピットを採用している。
背中には交換式のバックパックが装着され、小型ジェットエンジンと巨大なデルタ翼を有し、各部のハードポイントには小型のミサイルポッドや強化外骨格の強化腕で使用する巨大な爆炎砲などの各種武装が取り付けられており、試作機とはいえその戦闘能力は開発部のお墨付きだ。
「……で、あれば私が試作機のテスト運用を行なっても問題ありませんね?」
「そ、それは……その通りですが……」
四條が無表情のまま、起動シーケンスを進めていく、灰色の幻影の始動が開始され、超小型のメインエンジンが独特の甲高い音を立てている。
武装はデルタ翼についているミサイルポッド二門、右腕に添えつけられた爆炎砲と左腕にはバランスを取るための巨大な盾が装備されている。
「武器がついていれば十分です、これなら私も竜と戦えます、今行けば彼女の助けになる」
「ま、待ってください、そこまでして四條殿が行く理由はなんなのですか?」
台東の問いに、四條はあくまで無表情のまま各部のチェックを終わらせ軽く灰色の幻影を腕や脚をその場で動かして状態を確認する。
そして台東に離れろ、と手で合図をすると職員たちもその場から離れていくのを確認してから、飛び立つために射出用エレベーターを起動させる……KoRJが入っているビルの屋上に灰色の幻影がゆっくりとその姿を表していく……地上からは見えにくい場所だが、ジェットエンジンで飛び立てばかなりの問題にはなるだろうな……四條は軽くため息をつくと、インカムで台東へと語りかける。
それと同時に灰色の幻影の小型ジェットエンジンが甲高い音を立てて噴射を始める。
「新居さんは私の友達なので……私は友達を助けたいだけです……灰色の幻影……行きます!」
『……よかろう、剣聖。お前の心意気に免じて、一思いに殺してやる』
ルドフィクスがグルル、と再び威嚇を始める……口元から噴き出している炎は先ほどまでよりも少し大きくなっている気がしており、紅血を使用した弊害なのか、それまで冷静そうだった目の光も多少変わっている。
私は全身に力を込める……痛みはある、頭も割れそうに痛い、腕も震える、足はなんだか自分のものではないような感じだ、でも私は逃げないと決めた。
「ここで逃げたら、今までが無駄になる!」
私が気合を入れ直したのを見てからルドフィクスは無造作なくらいの勢いで距離を詰めると、首をくねらせながら大きくその鋭い牙の生え揃った口を開けて私に噛み付くような動作を見せる。
私が一瞬そちらに気を取られたのを見たのか、ルドフィクスはその巨体を想像もできないくらいの素早さで回転させる……見た目によらず動きが恐ろしく早い。太い尻尾が凄まじい速度で私に迫る……受ける? それとも避ける……いや、これは受け流して反撃をッ!
「ミカガミ流……螺旋ッ!」
刀を回転させるように振るうと、その重く鋭い攻撃を後方へと受け流す……いや、受け流すには受け流せたが一〇メートル近い巨体を生かした竜の攻撃は想像よりも重すぎた。
なんとか踏ん張ろうとするものの、刀を構えたまま数メートル後ろに衝撃で飛ばされてしまう……が、私は体勢を大きくは崩さずに、地面へと着地すると雄叫びを上げて突進する。
「おおおおおおっ!」
『……猪でもあるまいに……当たらなければどうということはないぞ!』
私の突進からの斜め袈裟斬りを身を翻すように交わすルドフィクス……だが、私はお構いなしに何度も斬撃を振るい、その度に竜は攻撃を躱すためにずるずると後退して行く。
私の斬撃は相手にとってはかなりの迫力のある攻撃のようで、竜は防御に専念するかのように、攻撃を避け、避けきれない攻撃を爪を使って弾いている。そのまま流れるような動作で私はルドフィクスへと連続攻撃を仕掛けていく……今攻撃を止めると押し切られる可能性がある、前に出るんだ!
「ミカガミ流……竜巻ッ!」
『ぬうっ……ちょこまか、と! グオオオオオッ!』
咄嗟に放った竜巻……体を回転させながら繰り出す横薙ぎの斬撃をルドフィクスがなんとか右手で受け止めようとするが、私の斬撃は彼の受け止めようとした手を切り裂き寸断する。
だが竜が私と距離を取るために羽ばたき、後ろへと跳躍しながら再び咆哮すると、斬り飛ばされた右手の切傷から肉が盛り上がるように生えていく。
私はルドフィクスが着地しようとする瞬間を見逃さずに全力で突進すると、まだ空中に浮いたままの竜に向かって思い切り刀を振るった。
「ミカガミ流……絶技、月虹ッ!」
私は身を踊らせる……まるで月に輝く虹の光のような軌跡を辿って、私の刀は巨大な竜の左腕を肩ごと斬り飛ばす……肉を引き裂き、血飛沫をあげ、左腕を斬り飛ばされたルドフィクスがバランスを崩したまま、凄まじい音を立てて地面へと叩きつけられる。
遅れて斬り飛ばされた左腕が音を立てて地面へと落ちるが、すぐに切り裂かれた傷口から紅血の触手が一気に伸びると、伸びたゴムが元に戻るかのような動きで一気に傷口同士を接着させて、そのまま煙と嫌な刺激臭を周りに振り撒きつつ傷を癒していく。
『……この小娘がッ! 私を地面に叩き落とすなど……!』
だが、紅血だけでなく竜魔法を消費させ続けることができるのであれば最終的には私が勝てるはず……そこまで考えた私の足が露骨に力を失い、私は体勢を崩しながらもなんとか倒れないように足を踏ん張る。
こんな時に体力切れ!? ……とにかく相手を攻勢に出さないようにと、無理にでも前に出続けた私の体力はほぼ限界に達しようとしている。自分が感じていた以上に、竜の圧力が大きいということなのだろうか?
露骨に速度の落ちた私を見て、ルドフィクスは訝しんだ表情で私を見ていたが、その原因が私の体力切れにあると気がついたのか、口の端から炎を軽く噴き出すように咲うと、あたりを震わせるような咆哮を上げる。
『ハッ! 所詮は人間の雌……我と戦うには体力が足りないようだな!』
ルドフィクスはそのまま私に向かって突進する……まずいまずい、思うように動かない恐ろしく重い脚を必死に引き摺りながら私はなんとかその突進を横っ飛びに身を投げ出すように躱す。
なんとか立ちあがろうとする私の視界にルドフィクスの巨大な右腕が一気に広がる……あ、これまずいやつだ……ギリギリで腕による防御が間に合ったが、私は思い切り振り切られたルドフィクスの攻撃で大きく跳ね飛ばされる。
「ガハッ……!」
凄まじい衝撃と痛み、そして浮遊感を感じながら視界が何度もくるくると回り、そのままの速度と勢いで地面へと叩きつけられてしまい、私は全て破壊するものを手放してしまう……さらにそのまま何回転も回りながらごろごろと転がっていく。
なんとか吹き飛ばされた衝撃に耐えて、体を起こすが視界が赤黒くぼやけており視点が定まらない、身体中がさらに痛む……何度も立ちあがろうとして、その度に地面へと崩れ落ちるが私は必死に立ちあがろうと努力する。
刀はどこへ、全て破壊するものはどこへいった……。
「……まだ、まだ……よ……ひっ!?」
私がなんとか立ち上がり、どこかに落ちている全て破壊するものを探しながら、ふと顔を前に向けた瞬間、目の前に巨大な竜の顔と、熱風にしか感じられない鼻息がかかり私はギョッとして後ろへと下がろうとする。
だがルドフィクスは逃さない、と言わんばかりに私の細い腰を思いきり掴んで動けなくすると、ゆっくりを羽ばたいて月夜の空へとふわりと浮き上がる。
なんとか拘束を解こうと力を込めるが、うまく力が入らない……腕も脚も恐ろしく痛む……武器が、武器がない……もがく私を見つめてさらに逃げられないように両手で拘束を強めるルドフィクス。
締め付けで私の全身が凄まじい痛みを発する……私は悲鳴を上げながらなんとか耐えているが……意識が飛びかけている。
「がああっ……や、やめ……い、いや……」
『……やってくれる……私の攻撃で肉体が四散しない、意識がある……さらにまだ抵抗できる能力を有している……お前は本当に危険で、哀れな剣聖だ』
メリメリと私の全身に凄まじい力が加わる……体が軋み、痛みを発し私は短い悲鳴をあげながらそれでもまだ生きている……この世界に生まれて、ここまで追い詰められたのは初めてかもしれない。
視界がどんどん黒く変色していく……全て破壊するもの! どこ?! 私はまだ負けたくない!! 必死に争う私を見て、ルドフィクスはこれでもまだ諦めないのか? と言わんばかりの困惑した表情で私を見ている。
「い、いや……だ! ま、負けたく……ないっ!」
『な、なん……なんだお前は……』
全身に力を込めていく……まだだ、まだ私は負けられない……歯を食いしばって拘束を強める竜の両手を全力で押し戻していく。
力と力のせめぎ合い……押し潰そうとするルドフィクスと、押し戻そうとする私……必死に争う私のインカムに女性の声が聞こえ、あたりに甲高く轟くようなジェットエンジンの音が響き、私もルドフィクスも慌てて辺りを見回す……。
「攻撃します……相手が怯んだらうまく飛び降りてください、その後受け止めます……私を信じてください」
_(:3 」∠)_ 頭の中で表現したいイメージと文章が噛み合ってない……
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