第二〇〇話 黒竜(ブラックドラゴン) 〇三
「……これは気がつきませんでしたな……まさか東京近郊の島を使っているとは……」
「政府も気が気ではないだろうな……埋立地なども含めても大小結構な数の島があるからな……繁殖地になっていたりすればいくらでも戦力補充ができることになる」
今私たちはKoRJの部長室に緊急で呼び集められ八王子さんたちと一緒にモニターを見つめている。部長室に私、八王子さん、江戸川さん、台東さん、青山さんがいて……なかなかに暑苦しい光景ではあるのだ。
偵察用ドローン……KoRJでは中東のメーカーより購入した軍事用のドローンをベースにしたものを使用しているが、リアルタイムでモニタリングできるようにバッテリーの強化やカメラの改良などをおこなったものを使用している……日本近海の小さな無人島の模様を写している。
モニターにはその島に体を横たえるように巨大な黒い蜥蜴のような怪物……伝説にも謳われる竜の姿が映し出されている。怪物は睡眠中のようで、軽く尻尾を振りながらも寝息を立てているのが写っている。
「しかしいくら偵察用ドローンって言ってもそんなに静かに飛ばせるものなのか?」
「ステルス性を高めるためにメインプロペラに特殊な改造をしたりしましたが、寝ている降魔が起きないレベルであれば合格ですな、ゴポォ」
台東さんは別の意味で満足しているようでモニターを見ながら、ドローンのコントロールをしている江戸川さんの質問に答えているが、本当に音が出ていないのだろう……モニターに映る竜はドローンに気がつきもせずに寝たままだ。
市販のドローンって言うと結構音が大きいイメージもあるし、軍事用ならそれ以上に派手な音を立てているイメージだけど……KoRJの開発部は相当にレベルが高いのか、魔改造が好きなのか、どちらかなのだろう。
「……先日の飛行機の墜落事故もこいつのせいかな?」
江戸川さんの言葉に八王子さんがおそらくな、と答えて頷く……旅客機を一撃で叩き落とすくらいこのサイズの竜なら朝飯前だろう。
以前星幽迷宮に出現した個体よりもはるかに大きく、鱗はぬらぬらと黒く光っている……いわゆる黒竜ってやつだ。
竜はいくつかの種類……例えば真竜や下位竜などの種類が存在しているが、鱗の色がさまざまなのは真竜の大きな特徴だ。
下位竜は基本的に巨大な蜥蜴プラスアルファという認識でしかないが、真竜はそれよりも大きく賢く、そして領域の外へと出る個体はほぼ存在していない。
「……なんで東京に……」
記憶の中にある真竜は思慮深く、人間との交渉も積極的に行う個体が多い。本能で動く怪物としての下位竜とは違い、自らが古竜に連なる存在だと理解しており、他種族を無差別に襲うような個体はそう多くない。
というかそんなことをしたら成長して古竜になる前に多種族に襲われて殺されてしまうリスクがあるし、そんな無駄なことをするべきではないという考えを持っている。
それ故に人間やその他の種族との交流は限定的ながら、できるだけ揉め事を起こさずに静かに生きていようという思考の持ち主が多く、言い方は悪いが『隠居の爺さん種族』という印象でしかなかったのだ。
しかしこの個体は明らかに真竜でありながら、積極的に人類への攻撃をおこなった可能性がある……それが原因で彼自身が滅ぼされてしまう可能性すらあるのに、その危険を冒してまで魔王に従うのには何か理由があるのだろう。
「とはいえ……真竜を相手にするのか……」
下位竜ですらかなり厄介なんだぞ……真竜なんてどうやったら勝てるのか想像すらつかない。大きさも恐ろしくデカく、前に見た下位竜より一回りは大きいだろう……体高も一〇メートル以上あるだろうか。
『基本的には竜はその巨体を生かした攻撃と、息吹への対応が必要だな……それと前と違うのは我がいると言うことだぞ、鱗にも傷をつけることは可能であろう』
そういや前は開発部謹製の日本刀で戦ったのだっけ……あの時は鱗に傷をつけることすら困難で、技を駆使してなんとか対応してたんだっけかな。
全て破壊するものはあの時使っていた日本刀よりもはるかに切れ味というか攻撃力が高い……竜相手にも十分な戦闘能力を発揮することが可能だろう、多分。
うん、そう考えてみたらなんとかなりそうな気がしてきたぞ……動きでかき回して一気に首を叩き切る、ノエルもよく使っていた戦法で立ち回ればいい。
『……竜が空を飛んだらどうするつもりだ?』
……頑張って降りてくるまで逃げ回る。頑張ってジャンプする……後は……降りてきてって頼む。
『……もういい、お前に聞いた我が愚かだった』
とはいえ私は空を飛べる訳でもないからその質問をされても対処のしようがないのだよね……。困ったな、前はある程度限定された空間内に竜がいたのでどうにかなったけど、今回は野外だからな。うんうん唸っている私をみて江戸川さんが何してんだこいつって顔で見てる。
ある程度話が進んだ段階で、八王子さんがモニターを見つめながら攻撃に関する流れを説明し始めた。
「島にいる竜に接近、攻撃するのは新居くんにやってもらおうかと思ってる」
「……は? 私一人ですか?」
私が驚いた表情をしていると、さも当たり前だろと言わんばかりの顔で八王子さんは頷いた……まじか。こんなにか弱い女の子を一人で竜に立ち向かわせるのか。
KoRJのコンプライアンス問題は昔からちょっとおかしいと思ってたけど、本格的にどうかしてるぞチクショー! そんな感じで私が不満そうな顔をしていると、江戸川さんが端末を操作するとフォローを入れてくる。
「あ、朱雀の言葉が足らんな……竜に君を向かわせる前にまず遠距離射撃による攻撃を実行する、弱ったところに君が斬り込むという順番だ。最初から君一人で向かわせる訳じゃない」
「……最初からそう言ってくださいよ……」
ジト目で八王子さんを睨みつけるが、八王子さんはしまったな、という顔で別の方向を向いて誤魔化そうとしている。相変わらずこの人は……台東さんがまあまあ、と言わんばかりの表情で白衣のポケットから袋に入った飴玉を出して私に渡す。
……飴を受け取って口に放り込んだ私は黙ってソファーに座る、まあどちらにせよこの支部で戦闘能力が高いのは私だし、結果的にそうなるのは仕方がないのかもな。
「わかりました、援護があるのであれば私も頑張ります……ただ竜に勝てる保証がないのも確かなので、無理だと思ったら離脱できる体制を整えてほしいです……」
——魔王様の部下と名乗る金髪の若い男性が姿を現した……随分と手の込んだ悪戯かと思っていたが、男に付着した魔王様の匂いが彼に敬愛する魔王様……アンブロシオとのつながりを確信させた。
『……先にこの世界にお越しになられた陛下は息災か?』
ルドフィクスは金髪の男性……エツィオ・ビアンキと名乗ったが、内に秘めたる魔素の強さから魔法使いであることが理解できるが、少し軽薄そうな笑みを浮かべている彼に尋ねる。
見た目よりもはるかに経験値の高い魔法使いなのだろう……大魔道と言っても良いレベルだ、まともに戦って勝てる保証がないと思える。
「元気だよ、この世界では自分の会社……組合のようなものを作って経営を行ったりしている。僕より先にこの世界で魔王様の部下になった者達は既に剣聖に殺されてしまったけどね」
『剣聖? この世界に存在するのか?』
「ああ、しかもまだ年若い少女の姿さ……とても美しくてね、君もきっと気にいるんじゃないかな?」
エツィオは笑みを浮かべたままルドフィクスに話すが……その言葉の奥に、深い愛情というか少し歪んだものを感じて、比較的年若い真竜はほんの少しだけ表情を歪ませる……人間とはかくも複雑で変わったものなのか、第一真竜である彼には美醜は理解できないのだから。
そんなルドフィクスの感情に気がついていないのか、理解できなかったのかエツィオはそのまま言葉を続けていく。
「君らにはわからんかもだが、この世界の剣聖は特上の女性なんだよ、だから殺さずに戦闘不能にしてほしいな」
『人間の生命力はわからん……手足がもげる程度なら生きれるのか?』
「それは無理だね……あとは大きな胸や顔に傷をつけないでほしいな」
『……くだらない……戦士が傷を気にするか? 気にする時点で其奴は戦士ではない……美醜も私には理解できぬ、お前が治療すれば良かろう?』
「それができれば苦労しないよ、この世界では四肢欠損を治せる治癒師は存在しないのだから……」
厄介なものだな、とルドフィクスは嘆息する……面倒なことだ。この世界は非常に高度な技術があると思えば、便利な魔法などの技術が存在していない。
不思議な世界だ……魔法技術が発達すればもっと生活は豊かになるのだろうに、頑なに魔法の技術を磨くことはないのだという。
魔王様も珍しい世界に目をつけたものだ……黙って話を聞いていたルドフィクスだが、エツィオの話がひと段落した段階で、うんざりしたような顔で彼に言葉を投げかける。
『大魔道、私はお前の希望を全て叶えることは出来ん、だが……剣聖には興味がある。死なない程度に痛めつけて、お前にくれてやろう……交尾がしたいならその後で、我の目がない場所でやれ』
_(:3 」∠)_ 二〇〇話到達〜、開始前に思ってたよりも執筆難易度が高い……w
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