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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

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第一九五話 超加速(アクセラレーション)

空蝉(ウツセミ)を消失させるだと……」


 前世含めてこんな経験はないぞ……理論上は確かにそうだけど、空蝉(ウツセミ)の衝突に合わせて斬撃を合わせて尚且つその威力をきちんと測ってぶつける。そんなの普通できないって……私は自分のプライドが傷つくというよりは逆に八家さんの神業に驚いている。

 少しでも強ければダメだし、弱かったら押し切られるからな……正確に威力を合わせるなんて恐ろしい腕前だ。

「理論上は可能だけど、狙ってそんなの出せるもんなの……?」


「できるんだな、これがッ!」

 驚いている私が意識を一瞬そらした隙に、私の目の前へと突然姿を表す八家さん……まずい……咄嗟に後ろへ下がろうとした私に振るわれる八家さんの斬撃。

 刀を使ってなんとか受け止めるが、想像以上に重い衝撃に私の体が軽く浮く……女性としては羨ましがられるくらいの体型だが、体重は筋力に比例してそれなりに重く、平均的な女性よりも数値の上では重いはずなんだが……咄嗟に彼の胸を足で蹴り飛ばして無理やり距離を取る。

「く……」


「いい、いいぞお前……」

 滑りながら着地する私を見て、八家さんは本当に嬉しそうな顔で私を見ている……生粋の戦闘狂だな。少し離れた距離にいるにもかかわらず八家さんはすぐさまジグザグに走って距離を詰めて刀を振るう。

 振るわれる斬撃は特に技名などはないようだが一撃一撃が必殺に近く、私は必死に刀で受け流しながら後退していく……まずい押し切られる! 前にでなければ!

「いやいや、それは浅慮……そうやすやすとやらせんよ」


「うぐぅ……っ……」

 咄嗟に前に出ようとした私の隙を狙うかのように、八家さんの掌底が私の腹部へとめり込む。軽く数メートル飛ばされるが、姿勢を空中で制御して倒れることは拒否したものの、衝撃は凄まじく何度か咳き込んだ私は軽く左手で口元を拭う。まずいな、出たとこ全部迎え打たれている……。


『ふむ……お前が打ち負けているというよりは後の先、攻撃の出鼻をくじかれて、そこへ攻撃を入れられている感じだな……』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)が冷静に批評をしているが、前世でもこういう相手はいなかったわけではない、主導権を握り返さないとこれはずるずるとこのまま削られていくパターンだとも、ノエルの記憶は言っている。

 確かにめちゃくちゃ強いけど、八家さんの斬撃は私には見えているし、先ほどの掌底も出どころはわかっている……ただ咄嗟の行動で体がちゃんとついていっていないだけだ。

 私は刀をくるりと回すと鞘に入れ、腰を軽く落とした姿勢で軽く刀の柄に手を当てて身構える……こういう時は自分が一番信頼する技を信じるしかない。

「私はこの技を信じる……」


「……それがお前の信じる技か、よろしい」

 八家さんが笑顔のまま腰を深く落とした構えを取り直す、不気味な構えだが一気に突進して私の首を掻き切るには最適な構えなのだろう。

 先ほどまでの攻撃の応酬ではなく、一気に静かになった私たちを見て、白マントの人物は感心したようにこちらを見ている。どうやらこちらにちょっかいを出す気はないようで、本当に立ち会い人なのは間違いないようだ。軽く息を吐く……深く、深く……私は対峙している八家さんのみに神経を集中させていく。

 先日、高槻さんが本気を出す時に使っていたように、深く息を吸い込み吐き出す……その繰り返しによって私の意識が恐ろしくシンプルにかつ、凄まじいまでの集中力に満たされていく。


『集中しろ、目の前の敵のみに……大丈……夫……お……な……』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)の声すら届かないただ一点、目の前の敵のみに私の意識は集中していく。じり、じりとお互いの距離を詰めていく。確かに八家さんは強いけど……剣士だ、刀を使って攻撃するのが最優先、先ほどのような掌底はあまり選択肢にはないと信じたい。

 集中力がほぼ限界、極限まで研ぎ澄まされた瞬間、お互いがお互いの考えを理解しているかのように、ほぼ同時に技を放つ。


「ミカガミ流……絶技不知火(シラヌイ)ッ!」

「フハハハッ!」


 ほぼ同時に斬撃が目の前の空間で衝突する……こ、この攻撃をも合わせられるのか! 甲高い衝突音と衝撃……私の驚いた顔を見て八家さんがニヤリと笑みを浮かべる。

 だが、私の目に映ったのは……ほんの少しだけど彼の剣速もしくは威力が足りなかったのか、私の不知火(シラヌイ)によって八家さんの体勢が大きく崩れた姿だった。だが、私の手が恐ろしく痺れている……当たり前だ、お互い全力に近い攻撃を繰り出しているのだから。


「何……っ? この私が押し負けただと?! 前情報と違う?!」

 笑みを浮かべていたはずの八家さんの表情が驚きと、そしてすぐに屈辱に塗れたものへと変化していく。うん、彼の予想よりも私の攻撃の方が強かった、それだけなのだがその一撃が意味するものは非常に大きい。彼の想像、そして斬撃よりも遥かに強い斬撃を私が繰り出した、という事実がそこにはあるのだ。

「……前情報……? どういうこと?」


 私は八家さんの顔に浮かんでいる困惑気味の表情の意味を考えているが……彼に私のパーソナルデータや技の情報を流している人物がいるのか。……今そこにいる白いマントの人物がその該当者に当たるのだろうか? いや魔王も私の技を見ているだろうから、そこから算出でもしたのかもしれない。

 私の視線に気がついたのか、マントの人物はキザったらしく指を軽く振る。


「誰かに似ている……」

 その仕草を見て私はなんとなくだけど、どこかで見た人物なのではないか? と考えている……フードは深く降ろされていて顔は見えないが、八家さんをどうにかできたら彼が襲いかかってくるかもしれないな。


『それはそうとくるぞ』


「キィエエエエエエッ!」

 警告が聞こえた瞬間、体勢を立て直した八家さんが奇声を上げながら一気に突撃を仕掛けてくる。少し荒い攻撃だ……私は目で見ながらその攻撃を避けていくが、急にラフな攻撃になるってどういうことだ? だがこの攻撃は一撃一撃が恐ろしく力強く、油断ができるようなものではない。

 困惑しながら私が避けていくと、一瞬背筋がゾクリと震えた気がした……なんだ? 何か違和感が……無造作に振るわれる刀……私は咄嗟にその刀を受けようと身構える。


「かかったな……秘技、影抜き……」

 まるで魔法のように、私の防御をすり抜けるように八家さんの刀がすり抜けて迫る……この軌道は、私の首を切り落とすための……一気に私の集中力が限界まで達する。

 そうか、わざとラフな攻撃を繰り出して反撃を誘って……私はまるで動こうとしない体をどうにか動かそうとするが、八家さんの刀がじわじわと私の首へと迫っていく。


『意志と肉体を加速させよ! 無尽(ムジン)と同じ要領で……やるのだ!』


 ほんの一瞬の合間、私の細い首に到達しようとした斬撃がスローモーションへと変化していく。限界まで高まっていたはずの私の集中力がさらに限界を突破して……その言葉の通り、私の体は囁く者(アルラウネ)との戦いで見せたような稲妻のような一瞬の加速で、数メートル離れた場所へと一気に滑るように移動する。


「な、何……?」

 必殺の一撃を放ち私の首を切り落とすはずの一撃が空を切り、さらには私自身が数メートル離れた場所にいるという事実に八家さんは驚きの表情を隠せない。

 荒い息を吐きながらだが、私はこめかみに流れる汗を軽く拭うと、再び刀を構え直す。め、めちゃくちゃ疲れる……この一瞬の高速移動、まあ超加速(アクセラレーション)といってもいいかも知れないが、体にかかる負担が半端なものではない。どっと襲い掛かる疲労感に大きく肩で息をしながら、私は悪態をつく。

「はぁっ……はぁっ……何これ、マジ疲れるんだけど……」


『だが、次第に体が慣れてきているだろう……使い方さえわかってしまえば、お前なら使いこなせるのではないか?』


 そうね……私は刀を担ぐように構え直すと、一気に八家さんに向かって飛び出す……袈裟斬りを繰り出した私は一気に加速(アクセラレーション)で彼の背後へと移動し、横薙ぎの斬撃を放つと、彼の背中に刀が軽く食い込む感触が手に伝わる。


「うがっ……攻撃が見えんとは……」

 ん? 浅い……超加速(アクセラレーション)で移動した際に、間合いを間違えたのか。慣れてないからな……八家さんの背中につけられた切り傷からじわり、と血が滴る。

 彼は咄嗟に懐に手を入れて何かを取り出すと、私に向かって放る……避ける? いや切り裂く方が早い! 私が刀を振るってその物体を切り裂くと、衝撃で破裂し凄まじい閃光を放った。

「うっ……目が……」


 私が目を押さえて後退する……強い光が私の視界を完全におかしなものにしており、慌てて刀を振るうが私の斬撃は空を切る。

 視界に強い光の焼き付きが見える……所々が白と黒に彩られており、私の視界で見えるのは彼の足元だけだ。だがまだ八家さんの気配はしている……だが襲いかかってこない。

 そうか、私の一撃は軽かったと思っていたが、それなりに大きな手傷を負わせているということか。

「……剣聖、か。確かにお前の力量を認めよう……だがその加速、覚えたぞ」


 次の瞬間、八家さんだけでなくもう一人の人物の気配が消える……私は少しの間刀を構えたまま警戒を続けるが、完全に気配が消えたこと感じてホッと息を吐く。

 次第に視界が戻ってくる……まだ少しチカチカしているが当面の脅威は去ったな。そこへカタカタと音を立てる存在……リヒターが歩いて寄ってくる。

「大丈夫か? あの二人はもういないぞ、お前に危害を加えるようなら加勢しようと思ったが……案外すんなりと引き下がったな」


 大きく息を吐いて私は刀を鞘へとしまう……いやいや、死んだかと思ったわ。軽く首に手を当てると、皮膚一枚だけ傷が入っており軽く血が滴っていた。

 あっぶねー! あそこで超加速(アクセラレーション)できなかったら私本当に死んでたな……それはそうとリヒターに私は思った疑問をぶつけてみる。

「ねえ、リヒター……もう一人観戦してたあの人物、雰囲気が知っている人に似ているんだけど……」


 その言葉にリヒターはカタカタと動くのを止めて、少しだけ考えるような仕草をした後……再び赤い目を輝かせてから手を横に振る。

 まるでわかんねーな! みたいなジェスチャーをした後、リヒターは顎に手を当てて軽くさすりながら口を開いた。


「さあ、私にもわからんな……ちゃんと見ておらんかった、だから私にはわからなかったよ」

_(:3 」∠)_ チョー加速ッ! 戦闘シーンの立ち回りはかなり悩み中……書いても書いても難しいなって思いますね、ほんと。


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