第一九四話 立会人(ウィットネス)
『三日後の深夜オダイバにて、個人にてこられたし。八家』
高槻さんとの模擬戦の後から数日経過した後、帰宅するために教室で鞄を開けた私の目に、いつの間にか入っていた小さなポストカードがあるのを見つけて目を通してみるとそんなことが書かれていた。
い、いつの間に鞄に……私は慌てて鞄の中身を調べてみるが、特に盗まれたりしたものがなかったのでホッと息をつく。まったく……どこでこれを入れたんだ、油断もできないじゃないか。
「あかりん、どうしたの? 随分可愛いポストカード持ってるね」
ミカちゃんが不思議そうな顔で私が手に持っているポストカードを見ているが、私は鞄にさっさとポストカードを放り込むと肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
その反応を見てミカちゃんが、ああ、と言う顔をしている……と言うのも私がそういうお手紙を受け取ることは結構多いため、彼女は交際希望のラブレターか何かだと思ったのだろう。
「いやあ、モテモテですなあ……あやかりたいくらいですぞ、ヌフフ」
「ミカちゃんそういう言い方どこで覚えてくるの……」
鞄を閉めた後、私はミカちゃんに尋ねるが彼女は笑いながら口元に指を当てている。まあ私よりもはるかに色々なことに興味を抱く子なので、そう言う言葉遣いも面白ければ使うんだろうなあ。
私とミカちゃんは他愛もない談笑をしながら校舎を出て、途中まで一緒の方向へと歩いていく。
「そーいや婚約者になった人ってどうなったの?」
「ん? 一応私気になっている人がいるからごめんなさいって伝えたよ」
その言葉にミカちゃんがすごい興味津々な笑顔を浮かべると私の前に立ってじっと私を覗き込む……な、なんだ? 私は少し気恥ずかしくなって目を逸らすが、彼女はそんな反応すらも楽しいらしく、そっと私の頬に手を当てて無理やり視線を戻させる。
「気になってる人って、青梅先輩だよね? ね?」
「う……あ、は、はい……」
ミカちゃんの視線に耐えきれずに私は解放されたい一心で頷く……そうなのだ、あのとき博樹さんから聞かれた時に、私の思い浮かべた男性は……先輩だった。
なんだろうなあ、やっぱり彼自身のことが気になるというか、一緒にいてホッとする人物であることは間違いないし、私自身信頼している男性の一人だからだ。彼と一緒にいる、と思えば安心できるし、なんていうかその……うん。
「で、先輩にはいつ伝えるの? ねえ? 立ち会っていい?」
「み、ミカちゃん気が早いよ……え? なんで立ち会うの?」
どう言うことだ……私の驚いた表情を見たミカちゃんがなぜか残念そうな顔をしているが……いやいや、絶対立ち会いとかないでしょ! なんでミカちゃんにそんな場面見られなきゃいけないんだ! え? どう言う趣味なの?? ミカちゃんは私の表情を見てにしし、と悪戯っぽく笑うと軽く肩を叩くと満面の笑顔を浮かべる。
「冗談だって、あかりんの告白が成功するといいねえ。ま、私の見立てだと一〇〇パーセント成功するけどねー」
「……いつ言うかはちょっとまだ先だと思う……」
私の言葉にうんうん、と笑顔で頷くミカちゃん。ふとその顔を見て、私はふと思った……ずっと一緒に遊んでいるし、いろいろなことを相談してきたけど、もしかしたらこのタイミング、この会話が人生の分岐点になるかもな、と。
前世のノエルもそう言う分岐点とも呼べるタイミングを見てきている……そういった分岐点のあと、それまで一緒にいた人間と別れて別の道を歩んだりした記憶があるのだ。
「それでいいよぉ、くぅー! あかりんもついに素直になったか……私もちゃんと決着をつけないとな」
「え? それ初耳、ミカちゃんちょっと教えてよ」
あれ? ミカちゃんが今狙っている人って誰なんだろう? 惚れっぽいというか少し謎に包まれているんだよなあ。私の問いにミカちゃんは少し恥ずかしそうに笑うと、だめ! と言わんばかりに指でバツを作って舌を出す。うーん、ちょっと気になっちゃうな……。
「あかりんには後で相談しようと思ってたんだ〜、そのうち言うよ、そのうちね!」
『で、ここが待ち合わせのオダイバだな……この時間だとほぼ誰もおらんのだな』
深夜……東京の中にはあるとは思えないほど、ゆったりと風が吹く静かな広場の中私は石造りのオブジェクトに腰を下ろして相手を待っている……本当は、家で寝ているはずの私がここにいるなんて知ったらお父様もめちゃくちゃ怒るだろうな。
門限自体はないのだけど、夜間外出はダメって言われてるし。
腰に下げている全て破壊するものが感心したような声を響かせる……そういえばこの刀を持ってここに来たのって……なかったんじゃないか?
『そういえばないか……お前の知識から、何度かここで大きな降魔との戦いが起きている、とは理解している』
今私は戦闘服に身を包み、背中に小剣を差した完全武装の状態でここにいる。さすがにこの武装を持ち出すのにKoRJに言わないわけにはいかなかったため、リヒターが少し離れた場所の影に潜んで……潜んでるよね? 多分、という万全の体制だ。
ちなみにリヒターは基本的に手を出さない……私が死にかけたりしたら別かもしれないけど、この戦いは自分でなんとかしろ、と言われているしな、私もそのつもりだ。
「ま、このくらい一人でなんとか出来ないと世界なんか救えないって話よね」
独り言を呟きつつ、少し肌寒さを感じて私は少しだけ震える……うう、私の方が既についていて相手が来てない、と言うパターンは正直辛いものがある。
だがそんな私の小さな不満はゆっくりと近づいてくる足音のおかげで即座に解消する……来やがったな。私が音の方向へと顔を向けると、先日であった妖刀の化身である八家さんが笑みを浮かべてこちらに向かってきているのが見える。
そして意外だったのはもう一人……白を基調としたスーツとまるで中世にでも戻ったかのような白い仕立ての良いマントを羽織った人物が彼の隣にいたからだ。
「そっちは二人? 私は約束を守って一人でいるわよ?」
「……いるではないか、立会人が。安心しろこいつも立会人だ」
八家さんはつまらなさそうな顔でハッ、と失笑する。立会人ね……リヒターの存在は既にバレているってことか……白マントの人物はフードを深く下ろしており顔は見ることができないが、ほんの少し知っている人物の雰囲気にも似ている気がして私は眉を顰める。誰だ? でもとても懐かしいような、それでいて……。
私の視線に気がついたのか、その白マントの人物は黙って私たちが対峙している場所から離れると、そこで木にもたれかかり腕を組んで顔を背ける。
「まあいいわ、私は負けないわよ、もちろん死ぬ気だってない」
「ふむ……いい顔になったな。それでこそ斬る価値があると言うもの」
八家さんは何もない場所から刀を、私は腰の鞘から刀を抜き放ち同時に身構える……軽く息を吐いてから、相手の様子を伺う。
八家さんの構えはオーソドックスな正眼の構えだ、驚いたけどちゃんとした立ち会いで構えると恐ろしいまでの圧力を放っているのがわかる。
うなじのあたりがヒリヒリする……強敵だ、それも刀を使う相手としては今までで一番の使い手かもしれない。一瞬の間を置いて、私たちは同時に動き……鍔迫り合いの恰好になった。思っていたよりも強い安くて匂いの強い煙草の残り香を感じて私は顔を顰める。
「ムフフッ! いいな、これはいい……」
「ぐ……随分安い煙草吸ってるんですねッ!」
前蹴りを繰り出して、八家さんを無理やりに間合いの外へと叩き出す……ド直球な蹴りがくるとは予想してなかったようで、前蹴りはそのまま八卦さんの胴体に入ったが、感触が恐ろしく硬い。
私のように特殊繊維でできた戦闘服を着用しているわけでもなく、黒いスーツなんだけどな……私は息つく暇を与えないようにそのままダッシュで距離を詰めると、片手の斬撃を連続で繰り出す。
「煙草と酒が中年の嗜みでな!」
私の連撃を苦もなく片手で捌いていく八家さん……やはり私と同じで恐ろしく目が良い。そして反射神経も人よりも優れているのだろう、彼の顔には笑みが浮かんでいる。
まだ速度が遅いか……私と八家さんの間の空間で火花が散る、不意打ちがなければほぼ互角か、ある程度打ち合った後に私と八家さんは同時に間合いを離す。
「異世界の剣術と聞いたが、なかなかどうして基本となる姿勢は一緒だな」
「これだけの腕なのに、なんで魔王に……」
私の問いにニヤッと八家さんは笑う。まあ愚問ではあるのだけど、彼が刀の化身ということであれば、以前いた鴉天狗の社家間さんや鬼貞のように、伝承を復活させた魔王側につくというのは理解可能なレベルだしな。私は再び刀を構え直すと、彼になさそうな攻撃へと移ることにして刀を振るう。
「ミカガミ流絶技……空蝉ッ!」
体を回転させるように振るった刀から放たれた衝撃波が、地面を引き裂きながら八家さんへと迫る。こんな技古流剣術にはないだろう?
だが八家さんは笑顔を浮かべたまま、空蝉の衝撃波に向かって刀を振るう……衝撃波に斬撃が衝突し、一瞬せめぎ合うが、八卦さんがそのまま刀を振り切ったことで打ち負けたのか衝撃波が霧散する。
な、なんだと……?! 私が唖然とした表情を浮かべているのを見て、八家さんはムフフッ! と満足げな笑顔を浮かべ、私に刀を向ける。
「これは飯綱……だな、だが距離を飛ばす分攻撃力は低い……であればそれ以上の斬撃を叩きつければ消失させることも不可能ではない、理解したか? ムフッ!」
_(:3 」∠)_ ま、読んでる人にはバレバレの立会人
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











