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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
堕ちた勇者(フォールンヒーロー)編

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第一九三話 龍使い(ロンマスター)

「まずは、これッ!」


 笑顔のまま高槻さんが一気に距離を詰めると、ノーモーションで速射砲のような左の拳が飛んでくる……あまりの速度に私は体勢を崩しながらもその拳を避ける。

 凄まじい迫力の拳が顔の真横を通過していく……返すように全く同じ軌道で左の拳による連打が繰り出される。さっきは速射砲と思ったけど、これ超大口径の機関銃みたいなレベルだな。

「おお、ええなぁ。反応は超一級や」


「速いけど……これなら……がッ!」

 なんとか目が慣れてきて、高槻さんの拳を避ける余裕が出てき……パァン! と音を立てて私のこめかみに衝撃が走る……。な、なんだ? 目眩を感じて片膝をついてしまうが、高槻さんの拳は軌道を柔軟に変化させており、避けたと思った拳が裏拳の形でこめかみに直撃したらしい。

「避け方が素直すぎるな。刀で戦うてると、そうなるとは思うけど」


「高槻さん、女性を普通に殴るのやめた方がええよ、サイテー」

「何?! 俺がDV野郎みたいな言い方をせえへんでくれ!」

 高槻さんは片手でちょいちょい、と立ち上がるように促してくる……傍で観ている四條さんは少し呆れたようにため息をついて彼へと苦言を呈しているが……ミカちゃんから学んだな、あの言い方。

 四條さんの言葉に慌てて弁解をしている高槻さんだが、変幻自在というかストレートに拳を繰り出した後に、裏拳で軌道を変化させるとか、今までの相手には存在してなかったので新鮮だ。

 私は立ち上がると、ズキズキと痛むこめかみを抑えながら、高槻さんに軽く頭をさげる。

「大丈夫です、続きやりましょう」


「お? ええね、ほな続きをやろ」

 高槻さんは軽くフットワークを使って私との距離を測っている。そういえば悠人さんが言ってたっけ……高槻さんは格闘戦術のスペシャリストで、化け物みたいに強いし素手で相手の武器をへし折ったり銃弾を受け止めたりもする、と。

 そんな人間いるのか!? と思ったけども、模擬戦とはいえ戦ってみるとその話も眉唾ではなさそうな雰囲気だ。

 刀を片手で構え、少しだけ腰を落とした体勢で私は前に出る……打って出ないとこの人に押し切られる可能性が高いからな。

 技ではないが、得意の横斬撃を繰り出した私の攻撃を高槻さんは手のひらと腕の回転を使って受け流すと、空いた左拳を私のガラ空きになったボディへと叩き込む。まるで大砲のような拳の一撃に私の体が衝撃でくの字に曲がる。


「ゲフッ……」

 蹈鞴を踏んで後退する私に追撃をばかりに超高速の回し蹴りが迫る……咄嗟に刀を使ってその蹴りを受け止めると、高槻さんは感心したような顔でステップして距離を取り直す。

 模擬戦ってわりに本気の攻撃が飛んでくる……当たりどころ悪かったら死んでるぞ、この攻撃! まるで容赦のない攻撃だが、私の集中力は次第に研ぎ澄まされてきており、何度か息を吸って吐いて……高鳴る鼓動を抑えつつ目の前の相手へと集中していく。


「タフやなあ。予想以上に頑丈やさかい、奥の手見してもいけそうやな」

 高槻さんが私の顔つきが変わってきたのを見て、嬉しそうに笑うとそれまでの軽やかなステップとは違って、少しだけ腰を落としたような姿勢へと変化させる。

 な、なんだ? 高槻さんの呼吸がそれまでのものと大きく変わる……まるで何かを練り込んでいくかのような、殺気とも違うが、不気味すぎるくらいの圧力を感じて私は刀を構え直して出方を伺う。

龍使い(ロンマスター)……そう呼ばれてるのは、俺が体内を巡る(ロン)を操るからや」


 (ロン)? 体内を巡る? どうやら単純な格闘戦以外にも彼には隠し球があるようだ。とはいえ格闘戦だけでも十分彼は強いが……刀の一撃を手で受け流したところを見ると、武器を持った敵との戦闘に慣れている感はあるな。だが、前に出ないとこの人にすら勝てない気がする! 私は一気に刀を構えて前へと飛び出す。

 あえて前進を選んできた私を見て、高槻さんはめちゃくちゃ嬉しそうな顔を浮かべると、彼自身も一歩前に出て構を取り直す。

「ええなぁ! それでこそ戦士や!」


「ミカガミ流……紫雲英(レンゲ)!!!!」

 私の超高速連撃が高槻さんへと迫る……本気も本気、この攻撃は手加減抜きで繰り出している。高槻さんはニヤリと笑うと巨人(ジャイアント)(ドラゴン)ですら身体中を切り裂かれるレベルの斬撃を次々と受け流していく。

 嘘だろ……前世の記憶でいくとシルヴィくらいしか紫雲英(レンゲ)による高速連撃を捌く能力を持った格闘家は存在しなかった。

「素晴らしい攻撃や。せやけどまだ迷いがあんねん」


「ゲフゥっ……」

 連撃の合間、ほんの少しの間隙を縫って高槻さんの左拳が私の腹部へとめり込む……動きの止まった私に向かって、高槻さんの右拳……打ち下ろすような一撃が迫る。

 左で丁寧に動きを止めて、右で止め……教科書に書かれているかのような攻撃だが、次の瞬間……私のボディに鈍い痛みというか衝撃が強く走り、私はそのうち下ろしの右を避けることができない。

 なんとか受け止め……刀を使って咄嗟に防御をするが、お構いなしに打ち下ろしが迫る……そこで気がついたが、高槻さんの拳は鈍い光のようなものを纏い、防御したはずの模造刀を苦もなく打ち砕く。


「うわ、サイテー……」

 四條さんの呆れ返った声が聞こえるがそれくらい無慈悲で、容赦のない一撃だ。そのままの勢いで叩き込まれた拳を受けて、衝撃と共に私は地面へと倒れるが……なんだこれ……初めてみた攻撃だ、あの光る拳が彼のいうところの(ロン)ということだろうか? 高槻さんは飛び散った刀の破片を拾い集めて、脇へとどかしている。

 いてて……私がなんとか立ち上がるのを見て、彼は軽く頷くとゴキゴキと関節を軽く鳴らして私に問いかけてくる。

「まだ動けるか?」


「大丈夫……です」

 私がふらつきながら、立ち上がると高槻さんはニヤリ、と笑ってから壁にかけられていた模造刀をもう一本手に取ると、そのバランスを確かめるように何度か振ってから、私へと投げて渡してくる。

 私がその刀を受け取り、何度か軽く振るうと先ほどの刀とほぼバランスの同じ個体を選んで渡してきているのが理解できた。

 私が軽く身構えると、高槻さんが準備ができたな、とばかりに一気に距離を詰めてくる。

「参ったって言うまでボコボコにしたるさかいな、覚悟しなはれ」




「参りました……」

 私が地面にぶっ倒れたままようやく降参を口にしたことで、一時間以上続いた模擬戦は終わりを告げる……まあ、最初ほど一方的にやられたわけでもなく、途中何度か高槻さんの体に攻撃を叩き込んだし、無我夢中で刀を振ったこともあってスッキリした気がする。

 高槻さんは先ほど攻撃を叩き込んだ腕をさすりながら、少し苦笑いを浮かべて私の隣にどかっと腰を下ろす。

「まったく……もう少し手加減しようとしてもでけへんかったやんけ……」


「結構本気だったんですか?」

 天井見ながら息を整えつつ、高槻さんに問いかけると彼は黙って頷く。顔にも私が叩きつけた斬撃の跡などが残っており、彼自身もそれほど余裕がなかったのが理解できる。

 私は身を起こすと、深々と頭を下げる……いや、本当に彼は強かった……無心で攻撃を、防御をしていたがなんとなく抱え込んでいたモヤモヤした部分が解消された気分だ。

「ありがとうございます、高槻さん……なんかスッキリしました」


「ええで、ええで。俺も君の実力を間近に感じられて、もっと強ならなあかんなってわかったさかい」

 高槻さんは苦笑いを浮かべているが、それでも相当に苦戦したので……彼は悠人さんが話すように相当な実力者であることは疑いようがない。

 しかし……模擬戦の最中気になったのだが、なぜ彼は素手で刀を受け止めたり受け流したりできたのだろうか? 私が彼の手をじっと見ていると高槻さんは、私が疑問に思っている部分を理解したらしく笑顔で話し始める。


(ロン)とはな、体内を巡る気のこっちゃ。気は龍のように体内を巡り、肉体や精神を強化するってわけ」

 高槻さんによると、気を練ると言うことは呼吸……息吹(プラーナ)を意識する必要があり、その息吹(プラーナ)を習得することで、体内に巡る(ロン)を活性化させ自在に操るようになった人を、龍使い(ロンマスター)と呼ぶのだとか。

 全ての人がこの恩恵に預かれるわけではない、あくまでも体内から湧き出る(ロン)を扱うには修行が必要だし、下手に暴走させると肉体の損傷などにもつながるため、秘伝とされているのだという。格闘技はその過程で身につけた彼なりのコントロール方法、なのだとか。


 前世では格闘戦を得意とする一部の戦士が、その能力を高めていった先に到達できる存在と言うのがあったらしいのだが、シルヴィもそこまでは達していなかったし、その存在がなんなのか? と言うのはノエルが知っている知識では不足していて流石に理解できていなかった。

 もしかしたら、高槻さんのいうところの龍使い(ロンマスター)と言う存在がその終着点に近いのかもしれないな。

「ま、俺は天才やさかいガキの頃からわりかしコントロール出来たけど、普通なら何十年もかけて到達する極地らしい」


「その割にゃあ新居さんの刀結構ブチ込まれとったよね」

「なんて冷たい女なんや、えげつないぞ」

 四條さんが私と高槻さんにタオルを渡しながら、話しかけるがその言葉に高槻さんは大袈裟に驚いているが、なんとなくこの二人の関係性がわかる気がするな。

 ああやって口では騒いでいるけど、めちゃくちゃお互いを信頼しているし仲も良いのだろう、ちょっと羨ましい気もするな……私にはあそこまで仲良く憎まれ口を叩ける相手っていないので。

「どないした? 急に寂しそうな顔して」


「あ、いえ。お二人とも仲が良いのだなって」

 私の返答に珍しく四條さんが少し嫌そうな表情を浮かべるが、高槻さんも似たような表情で私を見ている。あ、本人たちはそう思ってないやつか。

 私はちょっとおかしくなってくすくす笑ってしまうが、それを見て四條さんはため息をついてから、さっさとその場を離れて壁際に設置されている自販機の方へと歩いていく、私は改めて高槻さんへと深く頭を下げる。

「高槻さんありがとうございます、ちょっとモヤモヤしてたんですけど吹っ切れた気がします」


「ええって、困った時はお互い様。俺がモヤモヤしたときは付き合うてくれたらそれでええで」

 すごく爽やかな顔で高槻さんが右手を差し出してくる……私もこういうタイプは嫌いではないな。笑顔で彼と握手を交わす。なんというか本当に良い戦士だ。

 四條さんが自販機で飲み物をまだ買っているのを確認すると、高槻さんは耳打ちするように小さな声で私に話しかけてきたのだが、彼のジェスチャーとその内容を聞いて私は思わず無防備な高槻さんの顔面に全力の拳を叩き込んだ。


「ところで青梅君とはどこまで進んでん? もう最後まで行ってもうた……ああああーっ!」

_(:3 」∠)_ 気と龍の関連とか、息吹とかこの辺りをメインにした作品作りたい


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