第一九〇話 確固たる意思(レザルートゥネス)
「灯さん! こっちです……」
博樹さんが私を見つけて手を振って笑っている……先日久しぶりに連絡をとった私は、彼から久々に顔を見たいという話を受けて休日に会う約束をしており、遊園地の最寄駅の改札で待ち合わせていた。
わかってる、私今何やってんだろ……と前日まで悩んでいたものの、電話口で熱心に話をしてくれる彼に『行かない』ともいえなかったのも事実だ。
『うっわー……それって……あかりん正直チョロすぎるから気をつけてよ?』
『どういうこと? 私別になんかしてるわけでは……』
『いや、ちゃんと断ったり、ダメってあんまり言えてないじゃん……いつか勘違いされちゃうよ』
『……うーん……でも断りにくいしなあ……』
ミカちゃんと電話で話した時にそう言われたけど、私別にチョロくないんだけど!! 身持ちはめちゃくちゃ硬いと思っているんだぞ、個人的にだけど。博樹さんが本当に嬉しそうな顔で私の方へ歩いてくるが、改札から姿を現す前からなぜか私に向かって男女問わず突き刺さるような視線が私に向けられていたが、私を読んだことで博樹さんにもそういった視線が向けられる。
『なんであんな綺麗な子が……』
『ちょっと年齢離れてない?』
『どういう関係なんだろう……』
『でも男性の方もいい服着てるよね……』
血を吐きそうだ……私の感覚に妬みや悪口が聞こえてくる……。博樹さんはそんな声など聞こえていないかのように、私の元へと駆け寄ってくる。
博樹さんを改めて見るけど、この人清潔感もあるし背も高いし、よく見たら普通にイケメンなんだよね。うーん、先輩とどっちがと言われると甲乙つけ難いのではないか?
「灯さんいきましょうか」
「あ、はい……」
私と博樹さんは遊園地の入り口に向かって歩き始めるが、うーん……それでも遊園地なんて久しぶりだからなあ。羽目を外さない程度に遊ぶか。ふと彼を見ると私を見てニコニコと笑っている。
う、下心すら感じないなんて眩しい笑顔……多分あれだ、先輩と出会っていなかったらこの人との交際も視野に入れていたかもしれないな。
先輩のことを考えた際に、ふとチクリと胸の奥が痛むような気がしたけど……まあちゃんと最後に答えを出してあげれば問題ないだろう。私たちはたわいも無い会話をしながら、並んで歩き出す。
「遊園地って僕ほとんど来てないんですよね……最近は研究室に籠る方が多いので」
遊園地の入り口に並んでいるときにふと、博樹さんが口を開く……そういえば私は遊園地って最後にいつ来たきりだろうか? 中学生の頃にKoRのスカウトを受ける前に何度か家族で来た気がする。
初めて遊園地というのに来た時は正直驚いた……この世界では娯楽を提供する施設が普通に運営されていて、そこにいる人たちは笑顔で幸せそうにしていたから。
剣聖としての記憶や、戦いに明け暮れていた前世の世界にはこんな娯楽施設なんて存在していなかったし、生きるだけでも精一杯という人が多かった。
「そうなんですか? でも私もあまり来てませんね……」
「灯さんはあまりこういうところには来ないのですか? お友達とか……」
私は博樹さんの質問に苦笑いを浮かべながら、首を振る。正直言えば遊びに行きたいと思っててもここ最近は仕事で潰されているし、おおよそ普通の女子高生が楽しむような娯楽に手を出せていない。
いや、最低限は手を出していると言えるけど、買い物や食事、多少の音楽鑑賞……映画も最近見に行けていない。家と学校とKoRJの往復……降魔被害の拡大に伴って遊びに行くという発想が薄れてきているのは確かだ。
「私学校でもお友達多い方では無いので……あ、でも今度友達とバンドのライブ行きますよ」
「そうなんですか。音楽とか好きなんですね!」
少しぎこちないながらも私と博樹さんはデートしている初々しいカップルのような会話を続けていたが、ふと周りのカップルとかを見ると、そこには笑顔が溢れている。
幸せそうだな……世界を守っている、という自負は多少あるけど本当に良くなっているのかどうかわかっていなかったので、普通に笑顔が溢れる光景というのはそれはそれで実感があって良いことかもしれないな。
「灯さん、お疲れになるといけないので……」
私が他のカップルを見ながら少しだけ嬉しそうな顔をしているのを見て、少し考えた後博樹さんが腕を出した……ん? とは思ったがああ、そっかと私は気がついてそっと彼の腕に手を添える。
博樹さんは少し驚いたような顔をしていたが、まあこのくらいまでならね……私は黙って彼に笑いかける。そのまま私たちはアトラクション乗り場へと歩いていく。
「今度はあっち行きましょう」
「結構楽しいですね、私遊園地久しぶりなんで……」
私と博樹さんはいくつかのアトラクションを楽しんだ後、園内にあるレストランで小休止も兼ねて食事をしている……ちなみにふだんバカみたいな量を食べている女、というKoRJや友人からの扱いではあるが、こういう場において私はちゃんと我慢ができる女性なので人並み程度の食事しか目の前には並んでいない。まあ、家帰ったら足りない分はちゃんと食べるんだけどね。
「実は僕も久しぶりなんで……結構楽しいですね」
博樹さんも笑顔で私の前に座って食事を取っている……そういえば私人生で初めてじゃないか? こういうデートって……先輩と会う時は仕事か喫茶店くらいだったし、男性とこうやって遊びにいくなんて実は経験がなかったりもする。ミカちゃんは何度か男の人とデート行ってきた! って話をしてた気がするので、彼女の方が少し進んでるのよね。
「博樹さんは女性とはこういう場所に来てないんですか?」
「僕は学生時代にお付き合いしてた人と来ましたけど、就職の際に別れてしまいまして……それ以来研究だけしかしてないんですよ」
彼は食事をする手を休めると、少し寂しそうな顔で笑顔を浮かべている……もしかしたら本当にその人のことが好きだったのかもな。でもまあ私というか前世のノエルも本当に愛していた女性とは結局最後までは進むこともできなかったわけだし、結婚まで至るとかそういうのも巡り合わせやタイミングでは意図したものにならないかもしれない。
「すいません、何か悪いことを聞いてしまったかもしれません……」
「いえいえ、僕こそもう何年も前の話を引きずっているわけじゃないんですけどね……灯さんにも申し訳ないです」
お互い少し気まずい空気が流れてしまい、少しの間無言の時間が増える。しかし困ったな……私は彼と話をしているときに先輩では感じていない満足感というか、充足感のようなものを感じ始めている。
場に流されている気もしなくもないけど、このまま何度も会うのは良くないな、とも少し感じているのだ。思い切って正直なところを話した方が良いのかもしれない。
言いにくいなあ……なんか彼を傷つけるのが本意ではないので、こういう話をどのタイミングで切り出せばいいのかよくわからないのだ。
博樹さんが何か言いたげな私に気がついたのか、笑顔のまま私に優しく話しかける。
「食事終わったら少し歩きましょうか、近くに公園があるので……」
「この公園もいいですね……海の音が綺麗だし、何より静かです」
私と博樹さんは遊園地に併設されていた小さな公園の浜辺を歩いている……波は静かに打ち寄せているが、おそらくシーズンになれば海水浴ができるレベルでそれなりの綺麗さを保った海だ。
子供が砂遊びをしたり、親と戯れている姿を見ながら私たちは少し黙ったまま歩いていたが、博樹さんが意を結したように急に口を開いた。
「あの、灯さん……あれから数回しか会ってないですし、年齢も離れていますけど……灯さんが学校を卒業をされた後結婚を本気で考えていただけないでしょうか?」
「え? こ、結婚……ですか?」
私は驚いて彼の顔を見つめてしまう……なんか恥ずかしくなって頬が染まる……い、いやちょっと待て。結婚って言ったらあれだ、博樹さんと私が夫婦になるってことだ。うん、あれ? 結婚したらどうなるんだ?
いやいや、ちょっと待ってほしい……私は少し思考が止まったままボケっと考え込んでいる。博樹さんの目は真剣そのものだ。
「あ、あの……何で私なんか……私何も取り柄ないですよ?」
「僕は初めて見た時からあなたのことが好きです、話してみても魅力的な女性だって思ってます……僕はあなた以外の女性を考えたくないです、あなただけを見ていたいのです……」
うーん、うーんこれは困ったぞ……どうやって断ればいいんだ……私は頬を掻いて少し誤魔化すように笑顔を浮かべているが、そんなことはお構いないとばかりに博樹さんは私の返事を待っている。
とても情熱的な口説き文句で……正直私が普通の女性だったらオーケー出しちゃいそうな空気感だけどさ、私普通の女性じゃないから……助けてミカちゃん! 私結婚迫られてるよ!
心の中でミカちゃんに助けを求めても答えが返ってくるわけでもなく、私は一度深呼吸をしてから、少し冷静な気持ちで頭を下げる。
「……すいません、お気持ちは嬉しいのですが、今お受けするのは難しいです」
博樹さんは黙ったまま少し悲しそうな顔を浮かべてその場に立ち尽くす。私は彼の顔を少し真面目な顔で見ながら、様子を伺っているが、どうして断られたのか考え込んでいるようにも見えるな。
でも私は……彼とは一緒になれない……さっき少し深呼吸をしたときに、一人の男性の顔が心に浮かんだからだ。それはいつも笑顔で優しくて、少し奥手だけど私のことを真っ直ぐに見てくれている人。
好きかどうか、と言われたら多分好き……、一緒にいたいかと言われたら多分一緒にいたいと思う……でもちゃんと言葉にして彼には伝えていない。
「前にお付き合いしている男性はいないって話しましたが、気になっている男性はいます。その人のことが好きかどうかと言われるとまだ自信はないです……ちゃんと自分の言葉で伝えて……ちゃんと決着をつけたいです」
博樹さんは意外なほどはっきりと意見を述べた私に少し驚いたような顔をしていたが、私の意思を汲み取ってくれたのか何度か軽く頷くと、頭を掻いて笑顔を浮かべる。
私もその人に告白したとしても受け入れられるかどうかはわからない、いつ言えるかすらわからない……でもちゃんと私は自分の意思で、自分の未来を決めたいと思ったのだ。わがままかもしれないけど……それはちゃんと意思を伝えるべきだと今は思った。
「……そっか……なら、僕は結果を待つよ。決着をつけてなおかつダメだった時、もう一度僕が君にアプローチするのだけは許してほしい」
_(:3 」∠)_ ちゃんと意思表示はちゃんとしようね!(博樹くんからすると、それまでの灯ちゃんの印象はクッソ大人しいお淑やかな娘、なのです)
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