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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一六五話 奇襲攻撃(サプライズアタック)

「エツィオはさ、新居さんのこと気にしてるよね?」


「え? な、何言ってるんだ? アーネスト……」

 鬱蒼と不気味な植物の繁る森の中を歩きながら、狛江・アーネスト・志狼は少し微笑みながら隣を歩くエツィオ・ビアンキに唐突に話しかけた。

 その言葉に対して、エツィオは彼には珍しく動揺した表情を見せる。それなりにエツィオと付き合いの長い狛江は彼の声色が普段と違うことに気がついている。

 狛江はくすくす笑うと、少しだけ上気した顔で彼を見ているエツィオの肩をポンポン叩く。

「相変わらずごまかす時は目が泳ぐよな……僕は別に非難してるんじゃないよ」


「……アーネストっていつもズルいよね」

 エツィオは寂しそうな顔で少し下を向くが、そういう仕草もかなり女性的な感じになってきている。狛江がイタリアでエツィオ・ビアンキが見せた女性的な表情の理由を、先日彼自身から打ち明けられていた。

 彼自身が継承(インヘリタンス)で女性としての魂を呼び起こされていること、それまでの男性としての記憶との相違で苦しんでいること。


 どうして荒野の魔女(ウイッチ)……アマラから彼に継承(インヘリタンス)が発生したのか、ずっと疑問に思っていたがエツィオから打ち明けられて納得した。

 アマラから、荒野の魔女(ウイッチ)という特性は一族の女性にしか受け継がれない、と聞いていたのに男性であるエツィオ・ビアンキに受け継がれたことは本当に不可思議だったのだから。

 でも今では彼に継承(インヘリタンス)されたことは不幸な事故だった、と思っている……彼自身がその差異に苦しんでいることを知ってしまったから。

 結果的にアマラを殺してしまったことは狛江の心に傷を与えたが、それ以上に他の人間に対しても大きな苦しみを生み出していることを改めて理解する。

「ズルくないよ、僕としては君がそばにいて新居さんを守ってくれていることは知っているし、信用だってしているんだよ?」


「……僕は、別に彼女を守っているわけじゃない……むしろ……」

 エツィオが急に口籠ったのを見て、不思議そうな顔で彼の顔を見つめる狛江。エツィオの顔には明らかな怯えと、後悔のような表情が。狛江の鼻にもエツィオが何か恐怖のような感情を持っていることが匂ってくる……どうしたのだろうか?

 狛江は少し訝しげるような表情でエツィオの肩に再び手をおこうとするが、その仕草に反応してエツィオはまるで怯えるような顔で狛江から離れようとしている。

「……何かあったのか? 僕でよければ話を聞くよ」


「……話したら君は僕を軽蔑する……言えないよ……いたいっ!」

 狛江は逃げようとしたエツィオの肩を両手で掴み自分の方へと向ける。獣人(ライカンスロープ)形態ではないと言っても狛江の腕力は常人のそれではない。

 エツィオはいきなり捕まれて驚いたのか、女性的な悲鳴をあげる……その声に驚いて狛江は掴んでいた手を離してしまう。ったく……その顔と声でその悲鳴は驚くだろ……狛江はどうしていいのかわからないまま、とりあえず彼へと謝罪の言葉を伝える。

「す、すまない。痛かったら許してくれ」


「……痛くはない……でも本当に僕を、僕のことを軽蔑しないでくれる?」

 エツィオは少しだけ恥ずかしそうな顔で、少し節目がちに狛江の顔を見ている。うう……エツィオは元の顔がとても整っているし、美しいと言ってもいい容姿なのだ。

 そんな艶のある表情を浮かべられるとこっちが恥ずかしくなるな……狛江は高鳴る心臓を抑えつつ、黙って頷く。大丈夫僕は彼のその妙に色気のある表情に惑わされているだけだ、大丈夫。

「大丈夫、君は僕の友達(マイフレンド)だし、僕にとって大事な荒野の魔女(ウイッチ)の継承者だ。軽蔑なんかしないよ」


 その言葉に嬉しそうに微笑むと、エツィオは身振り手振りを交えながら自らが今新居 灯に対してどういう気持ちを持っているのか、を話し始める。

 継承(インヘリタンス)により女性の魂を呼び起こされた彼が、今その魂が暴走気味で新居 灯を女性として手に入れたいとエツィオ本人へと働きかけていること。

 男性としてのエツィオ本人は新居 灯には特段感情は抱いていないはず……彼女の内面は好みじゃない、魅力的な少女だとは理解しているが。

 でも彼女を見ていると、魂が安らぐような気がしている……自分の中にいる女性の魂も、彼女を見ている時には少しだけ大人しくなる。

「……どうしたらいい? アーネスト……」


「内容がその……重すぎて今考えをまとめてる……」

 狛江は頭が痛くなってきた……それって恋してるだけじゃないのか? ってか女性の魂がなんで新居さんを手に入れたがっているんだ?!

 全然理由がわからない……エツィオ本人が新居 灯を女性として見ていて、彼女が気になっているとか話すのかと思っていたのに……よりにもよって本人はそうではないという。

「つまりエツィオは新居さんは好みじゃないけど、気になっているということでいいのかな?」


「……彼女は正直内面がその……男性的なんだよ。僕の男としての本能が彼女を恋愛対象として見ることを拒んでいる。それなのに僕は彼女を手に入れたいと願ってしまう……」

 エツィオは少し困ったような顔で狛江へと答える。そうなのだ……新居 灯は見た目も仕草も、言動の大半は女性として洗練されている部分も多いのだが、内面というか細かい部分で男性的な要素が見え隠れしている気がする。

 でもまあ、戦闘で戦っている彼女を直近で見ているとそう思うのは仕方ないかもしれない……痛みへの耐性も強いし、腕力も強力だ、ついでに満腹中枢が完全に壊れてて……あんなの見せられたら引いてしまう。

「まあでも、生物学上彼女は女性だしな。KoRの調査でも女性としての機能はきちんと持っていると判明しているし……まさか彼女は裏でそんな検査されたなんて知らないだろうけど」


「そ、そうなんだ……ねえ? アーネスト……僕はどうしたらいいの?」

 エツィオは再び狛江へと尋ねる……正直言えば、どうにもならないと言いたい気分ではある……気楽な気持ちで相談に乗るなんて言ってしまった自分の軽率さを呪う。こういう場合ってどうしたらいいんだ?

 狛江もそれほど恋愛経験があるわけじゃない、正直言えばアマラ以外の女性に心を奪われたことはなかったし、コレからも女性に心を開くことはないのだと思う。

「どうしたらいいんだろうな……とりあえず正直に新居さんに話して見たらどうだ?」


「……全然解決になっていないじゃないか……君だから相談したのに僕がどれだけ勇気を……え?」

 二人ともまるで気がついていなかったが、エツィオの足元にまるで黒い汚泥のような……不気味にのたうつ沼地が出現しており、エツィオはガクン、と体勢を崩してその沼地へと飲み込まれ始める。

 いつ攻撃を受けた?! 狛江は咄嗟に獣化すると、周りをその超感覚で索敵する……その間にもどんどんとエツィオの体を飲み込んでいく黒い沼地。


「びっくりしちゃったよ、まるで無防備なんだもん……アハハッ♪」

 頭上から声をかけられて声の方向を見上げると、そこには褐色の肌と尖った耳を晒した、まるで魔法使いのようなローブに身を包んだ闇妖精族(ダークエルフ)であるララインサルが枝の上に立っていた。

 狛江はエツィオを見るが……彼はそのままの体勢でじりじりと地面にできた沼地へと引き摺り込まれており、すでに腹部までが飲み込まれた状態だ。

「アーネスト、僕はいい……君だけでも脱出しろ」


「し、しかし……」

 狛江は少しだけ悩む……エツィオを引き摺り出すには全力で引かないと難しいかもしれない。その間にララインサル……敵の首魁の一人に攻撃された場合無防備になってしまう。

 しかし、そんな考えを読んでいるのかララインサルはニコニコと歪んだ笑みを浮かべて笑いながら、ふわりと地面へと降り立つ。

「彼を殺す気はないよ……魔王様に言われているんだ、エツィオ・ビアンキを招待しろって。だから直接迎えにきたんだ」


「どういうことだ?」

 ララインサルの言葉に狛江は完全に混乱する……言っている意味が分からない、招待? エツィオを?どうして彼を。

 言葉の意図を理解できず狛江が悩んでいる間に、エツィオは完全に沼地へと飲み込まれ完全に姿を消す。地面に出現していた黒い沼地はまるで存在すらしていなかったかのようにゆっくりと姿を消していくが、狛江は焦燥感を感じつつも目の前の闇妖精族(ダークエルフ)の異様な雰囲気に飲まれつつあった。

「さて、お仕事完了……で、君は招待されていないんだ〜、ごめんねぇ? だからこの辺りで御退場願おうかって思ってるよぉ」


「そうかよ、そいつは残念だな」

 狛江は唸り声をあげて全身の筋肉に力をこめて威嚇を始める……銀色の狼獣人(ウェアウルフ)である狛江の体は以前よりも少しだけ大きく成長している。

 凄まじい威圧感と、圧力……下手な異邦者(フォーリナー)では勝てないね、海外で活動してた狛江に誰か入れ知恵をしたのがいたんだろうけど、ここで彼を殺すことができたなら……敵戦力が低下するはず。

 そしてそれは今の僕らがぶつけられる戦力として最高の一手を打つ。ララインサルはぐにゃりと笑顔を歪めると、パチンと軽く指を鳴らした。

「お待たせ貞ちゃん、出番だよ」


「応ッッ!」

 その声に呼応してか、ララインサルの横から鬼貞の巨躯がいきなり出現したのを見て、狛江はいきなりの敵の増加に驚く。そうか……この闇妖精族(ダークエルフ)は汚泥のような何かを使って人や物を自由に出し入れできるのか。

 鬼貞はメリメリと全身の筋肉を盛り上げつつ、まるで力比べをするかのように狛江とがっぷり四つに組み合う。両者の両腕がお互いの力を図るかのようにそれまで以上の盛り上がりを見せる。


「犬神どの、お手合わせ願おう! ワシは鬼貞……この国に生まれ、そして人類の敵である鬼だッ!」

 凄まじい力だ……気を抜いたらやられる。狛江はそれまで他にも意識を向けていた感覚をもとに戻すと、両腕に力をこめて何とか相手を押し返そうとしていく。

 狛江の意識が自分へと向かないことを確認したララインサルはヒラヒラと手を振って、まるで地面へと溶け込むようにその体を崩していく。


「じゃ貞ちゃん、その狼獣人(ウェアウルフ)を殺して戻っておいで。あとは頼んだよ」

_(:3 」∠)_ 他人の恋愛事情には完全ポンコツ野郎のアーネストさん


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