第一六四話 丘巨人(ヒルジャイアント)
「……想像以上にひどいですね……」
不気味な植物が鬱蒼と茂る中を私と四條さんは歩いている。
前世でもみたような光景だが、一つだけ違うのは明らかに日本には自生していないであろう、不気味にねじくれた黒色の蔦や、明らかに食肉を栄養源とする鋭い牙を持った花弁などを持つ植物が蠢いていることだろうか。
不気味すぎるが、大きさ的にはまだ人を喰うようなものではないな、小型の動物はちょっと危ない気がするが。
「でもまあ、今の段階で止められれば影響は最小でしょうし……」
「とはいえ、あまりここにいるのは気分が良く無いですね」
四條さんは淡々とした表情で私の横について歩いているが、少しだけ不安を感じているのか少しだけ目の奥の色が違う気がする。私はそっと彼女の肩に手を触れると、彼女が驚いたように私を見上げる。なんとなく、不安が少しだけでも解消したのか、軽く微笑むと彼女は再び前を向いて歩き始める。
うーん、最近ちょっと感情が見え隠れするというか、表情が少しづつ豊かになってきている気がして、灯ちゃんちょっと嬉しい。彼女は学校でも有数の美少女だからな……綺麗な女性が微笑んだりするのは、そりゃちょっと嬉しいのだ。
さて、周りに胞子は出ているっちゃ出ているが、少し息苦しいような暑苦しようなそんな感じなので、影響は最小かな。そういえば少しだけ思い出したが、ノエルが学者として学んだ記憶の中に増殖する森というのがあった。
森全体が巨大な一つの生命体として存在しているが、その実全ての植物は別々の生命体だ。そしてその生命体として統率する巨大な生命が存在しており、それを滅ぼすと増殖する森は生命活動を停止する、だったかな。
前世では闇妖精族とはほとんど会ったことがない……数人記憶にあるが、本来魔王の部下になるような種族じゃないんだ。
排他的で秘密主義……古代の知識をずっと伝承していて利己的。そんな種族だったはずだ……記憶ではね。ララインサルはなんというか普通じゃない感が凄まじく、あれが闇妖精族と言われるとすごく違和感が強い。
そんなことを考えていると、ふと私の感覚に接近してくる何か、が伝わり私は四條さんに軽く合図を送る。合図に気がついた彼女も手元の拳銃に手をかけて警戒体制をとった。
次の瞬間不気味な森の木をかき分けて、身長約五メートル程度の粗野な衣服を身に纏った巨人が姿を現す……丘巨人か。
私たちを見た丘巨人は面倒臭そうに頭を掻きながら、あくびを始める。
「……おんな……てき、ころす……」
相変わらずの知能の低さか……人間に近い容姿だからこそ、余計に不安感を感じる相手だ。前世でも巨人というと、丘巨人から討伐を開始して、単眼巨人まで倒せると一流とか言ってたな。
とはいえ今このタイミングでこの敵はあんまり嬉しくない……丘巨人の特徴はそのあまり余るパワーと、多少の怪我では怯まない痛みへの耐性だ。刀の柄に手を当てて、相手との距離を測る……。
『丘巨人か……距離をとって完封できるのではないか?』
一人ならね……四條さんは森の中ということで、対物狙撃銃は背中に抱えたまま拳銃を構える。
多分拳銃程度では傷はつかないだろうな、とはいえ距離を取るためには私が囮になる必要があるだろう。するってーとやれるとしたら速度でかき回す、か。
「四條さん、私が囮になります……十分距離を取れたら、射撃でとどめを」
「わかりました、無理はしないでくださいね」
四條さんは丘巨人の視線から隠れるように、私の後ろへと身を隠していく……そんな彼女を気にもとめず丘巨人は再びあくびをしてから耳に指を突っ込んで穿っている。
多分私と四條さんの能力を理解できていないのだろうな……私は刀を引き抜くと、片手で構えて少しだけ低めの構えをとる。
交戦体制となった私を見て、丘巨人はニカッと笑い全身の筋肉を一気に盛り上げて、やはり身を引くくして攻撃体制をとる。
「うふふ……おんな、たべる……おまえ、まるかじり」
『丘巨人はいつもこうだな……全く品性を感じないぞ』
全て破壊するものの呆れたような声が心に響くが……私も同感、丸齧りは流石に嫌だなー……私は丘巨人を前に出さないように、自ら一歩前に出ると軽く横斬撃を放つ。
だが、動物的な感なのか、丘巨人はまるでその攻撃を予測していたかのように一気に距離を取ると、ニカっと笑って地面へと手をつくと、影から漆黒の槍を無造作に引き抜き構えをとる。
「お、おで……ぶきつかえる……あたまいい」
『あの丘巨人が……驚きだ……しかもあの槍、低級だが魔法の武器だぞ』
う、うん……丘巨人って武器を使うっても、岩とか木を引き抜いて振り回すくらいしかしない記憶なんだけど、よりにもよって魔法の武器だと?!
そんな知能があるとは思え……ああ、ララインサルがなんか吹き込んでるのか、説得したのか、命令したのか。どちらにせよ丘巨人のパワーで武器を振り回されると厄介だな。
私は一気に相手の懐に飛び込むように加速すると、体を回転させて再び刀を振り抜く。
「ミカガミ流……竜巻ッ!」
だが丘巨人は私の攻撃に合わせて槍を使って斬撃を受け止める……甲高い音を立てて槍の柄に食い込むが、切断することはできなかった。
なんて硬さ……いや、魔法の武器の特性が防御に特化したものの可能性が高いな。私はゆるりと反撃を繰り出そうとする丘巨人の動きを見つつ、少しだけ距離を取る。
四條さんは……チラリと後ろを見ると彼女は攻防の間に距離をとっており、背中から対物狙撃銃を下ろして射撃準備を進めている。
彼女に意識を向けさせない……私はフラフラと槍を振り回している丘巨人に向かって再び加速するように突進する。
突進してきた私を見て、下卑た笑みを浮かべたまま槍をそのまま横薙ぎに振るってくる……コレじゃ棍棒とあまり変わらないな、だが速度は十分に早く威力も凄まじいだろう。
咄嗟に私は空中で回転するように身を躍らせるが、ぎりぎりの位置を槍が通過していく……そのまま着地した私は連続した斬撃を繰り出す。
「ミカガミ流……紫雲英!」
複数の斬撃が丘巨人へと迫るが、槍を不器用ながらも回転させるように振り回して防御していく。見た目は不恰好だし、正直いえば危なっかしい防御方法だが、腕力と速度は十分あるらしく、私の斬撃をことごとく阻んでいく。
嘘だろ?! 前世で丘巨人にこんな防御をされたことないんだけど……。
『……くるぞ』
全て破壊するものの言葉と共に、丘巨人がそれまでよりも早い速度の突きを繰り出す。もしかして三味線引いてたのか? 突きを刀身で受け止めるが、受け流すだけの余裕はなく、そのままの勢いで私は後ろに大きく飛ばされる。
地面へと着地した私は追撃を警戒してすぐに立ち上がるが、予想と反して丘巨人の追撃はなく、彼は先ほどまでの場所で槍をただ振り回している。
「おでつよい! おでかっこいい!」
「なんなのあれ……」
流石に呆れ顔になってしまうが……パワーは本物だ。受け止めた手が痺れていて、連続で攻撃を受けていると防御が難しくなる可能性もある。何度か刀を握り直して握力を確かめると、私は再び突進を開始する。
とにかく前に出しちゃダメだ、こういう手合いは勢いに乗せるとどこまでも押し込んでくる、そうやって勢いに呑まれてそのまま敗退する戦士もいるのだから。
「下がれえっ!」
私は相手の反撃を封じるかのように斬撃を繰り出していく……だが先ほどと同じく槍を回転させるように斬撃を防御していく丘巨人。
下品な笑みを浮かべて私の攻撃を防御しているが、十分に時間は稼いだかな。私が待ち望んでいた瞬間が訪れる。インカムにそっと囁くような声が聞こえた。
「……新居さん、避けてください」
私はその声と同時に大きく横へと文字通り跳んだ。いきなりの行動に驚いたような顔で私へ視線を動かした丘巨人の頭に四條さんの放った対物狙撃銃の弾丸が突き刺さる。次の瞬間、巨人の体がゆらりと揺らいだ後、その大きい頭がまるで風船のように軽く膨らむと、血液と脳漿を撒き散らせて破裂する。
そのまま丘巨人はゆらゆらと何度か前に進んだ後、地面へと轟音を立てて倒れ伏した。
「……大丈夫です、倒しましたね」
私は刀をくるりと回した後、鞘へ収めると四條さんに親指を立てて合図を送ると彼女は膝立ちで構えていた体勢を解いてこちらへと駆け寄ってきた。
しかし……丘巨人にこんな武術の初歩みたいなことを教え込むなんて、普通じゃ考えないようなことをしているな。
「……もっと厄介な怪物にこういう知恵をつけさせると、手がつけられないかもしれないわね……」
_(:3 」∠)_ そのうち外宇宙からやってきた正義の心を持つ巨人がモンスターと戦う話を作ろう(オイ
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











