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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一六一話 混沌の胞子(ケイオススポア)

「神様のおかげで……こちらには気がついていないようだね」


 ララインサルは遠くの方で響く銃声や、破壊音を聞きながら月の綺麗な夜空を眺めている。その手には白い胞子の塊のような何かが握られており、その胞子はまるで意志を持つかのように軽く蠢いている。

 混沌の胞子(ケイオススポア)……この胞子はララインサルの住んでいた世界、既に滅びてしまった暗闇の中に蠢く森林を作り上げたその元となる胞子だ。

「さて……貴重な胞子なのだからちゃんと育ってほしいなあ……」


 ララインサルの手から、胞子がふわりと地面へと落ちると生きているかのように土をかき分け何事もなかったかのように消えていく。

 失敗か? それとも……黙って地面を見つめているララインサルの目に、土中から呻き声のような声を上げながら、毒々しい色合いを纏った不思議な植物が姿を現す。

 その姿を見て、ララインサルは満足そうに頷くとその植物に手に持った水筒から赤い液体を注ぐ……植物の中からまるで生物のような牙だらけの口を持った花弁が姿を現し、低く醜い声で鳴き声を上げる。

「後はこの世界の魔素を取り込んでくれ、好きなように増えて、好きなように食い散らかすといい」


 ララインサルの言葉に呼応するように植物の根に当たる部分から、今度はシダのような葉が触手を伸ばして近くの木へと絡みついていく……触手は次々と土中より伸び、周りの木へと絡みつくが、その度に木の枝や葉がこの世界では見ないような不気味な色合いと、形状へと変化していく。

 混沌の胞子(ケイオススポア)は順調に成長を続けるだろう、そして一定以上の領域を支配するにあたって一体を瘴気と混沌に満ちた場所へと変化させていく。


 混沌の森(ケイオスフォレスト)……古くはララインサルたち闇妖精族(ダークエルフ)の聖域を守るための防衛機構であり、何千年という長きにわたって不可侵の領域として種族の安寧の地として君臨した森林でもある。生きている森、という言葉がふさわしく侵入した生物を捕食し維持と成長を無限に行う。

 魂を獲得した森はさらに多くの胞子を吐き出し、瘴気を吐き出し通常の生物の生態系を狂わせる……。ララインサルは怪しい笑みを浮かべて、その植物が徐々に成長をしていくのを見守っている。

「ま、ここで根付かなければ諦めようと思ったけど……いいね、これは期待しちゃうなあ」





『昨日外縁の高速自動車道路が全面封鎖された件について政府は降魔被害(デーモンインシデント)の認定を行い、破壊された道路、機材の補修に政府の責任のもと速やかな復旧と支援を……』

 朝のテレビで昨日の夜の大百足の事件が報道されている。実は対応した後、大百足に追われていた区間を戻ることになったのだが……その区間は丸々全て作り直さなければいけないくらいの破壊っぷりだった。どのくらいかかるのかまだ判断がつかない、とニュースキャスターは話している。

 オダイバの事件でも損失額が途轍もない状況だというニュースはよく流れていたのだが、この調子で事件が多発すると今後の経済が恐ろしいことになりそうだ。


『まあ、この国だけでなくこの世界の一部の国は裕福だ。我は情報に触れてびっくりしたぞ』


 そうだよねえ……前世の記憶からするとこの国の経済水準や、生活レベルは本当に高い。私の生活も前世であれば貴族と言われてもおかしくはない水準だしな。

 ノエルも十分に財力を得た後は、貴族的な生活を楽しんでいたようだが彼自身はやはり冒険者でしかなく……一部の保守的な貴族からは成り上がりと揶揄されていた……のは記憶にある。


『まあ、あいつも粗野だった……ああ、すまんお前のことを言っているわけじゃないぞ』


 わかってるよ。私と彼は記憶を共有して、魂が同一というだけでこの世界において私という個性はノエルとは全く違う人格として構成されているのだから。

 ノエルを馬鹿にされてもそれほど痛痒など感じないなあというのが正直なところだ、なのでお前は海水につけて放置の刑な、一年くらい帰ってこないでいいぞ。


『……怒ってるじゃないか……しどい』


 子犬のような全て破壊するもの(グランブレイカー)の声が響くが……私はそろそろ学校の時間だ。ソファーから立ち上がるとカバンを持つと、コーヒーを飲んでいるお父様とお母様に頭を下げて家を出ていく。

 二人は私の顔を見てニコニコ笑って手を振っている……いつもの朝の光景だ。

「では、行ってまいりますね」


『とはいえ、ララインサルやアンブロシオの出方が少しラフだな……もっと策を弄するタイプに見えるのだがな』


 そうねえ……私は通学の電車に乗りながら全て破壊するもの(グランブレイカー)と心の中で会話をしつつ考える。ララインサルは明らかに策士というイメージだが、アンブロシオはそういうタイプには見えない。何というか……力を信奉するタイプに見えるのだよな。

 何というか……戦士なんだよ、アンブロシオのイメージは。そして私が考えるあの魔王様のイメージに一番近いのはキリアンなんだ。

 記憶にあるキリアンは真っ直ぐに、そして正直に戦うタイプで俺やシルヴィ、エリーゼやウーゴといった仲間が作戦を考えて、キリアンに合わせて調整をしていたことが多い。

 布告(プロクラメイション)の時に私は彼自身がとても正々堂々と真正面から宣言をしてきたことで、少しだけ考えを改めた。


『……お前がそう思うならそうなのだろうな、だがまずはララインサルの出方が気になる』


 そうねえ……今どこで何をしているのか。何を考えているのかすら分からないからな……。

 私は少しため息をついてから窓の外を眺める。車窓から見る街並みはいつもと変わりのない光景だ、ところどころ痛々しい工事の跡などもあるがそれは降魔被害(デーモンインシデント)による傷跡なのだろう。いつもの平凡な朝の風景を見ながら私は、今までのことを思い返していた。


「おはようございます」

 あの後学校の最寄り駅に降りてすぐ……四條さんが私に声をかけてきた。……私結構昨日の仕事で疲れてるんだけど、四條さん全然疲れてなくね?! どういうことなんだ。

 四條さんは私の顔を見ると、カバンから五〇〇ml入り缶のカフェインや添加物が満載されたエナジードリンクを取り出すと、私に手渡す。

「……効きますよ、それなりに」


「……あ、ありが、とうございます?」

 複雑な表情で五〇〇ml入り缶を受け取るが、私はこの手の飲み物がひどく苦手だ……味が強いし、ちょっと無理矢理な甘さがあるからな。とりあえず鞄にもらったドリンクを入れると、私は彼女と一緒に歩き始める。

 とりあえず気になったので、私はそっと四條さんに耳打ちをする……。

「……疲れてないんですか?」


「疲れてますけど……でも、今日も仕事かもしれませんし」

 至極もっともだな……東京の戦闘メンバーはかなり疲労の色が濃い。私だけでなく四條さん、先輩、エツィオさん、ヒナさんも別行動で仕事をしていると話していた。

 メンバー中、不死人(アンデット)であるため疲労を感じないリヒターだけは元気そうに走り回っているそうだが……まあ、彼は別格だと思いたい。

「このペースだとバイトって誤魔化すのもそろそろキツい気がします……」


 確かにな……怪我も増えたし、お父様もお母様も不審がってるので、このペースで連れ回されると家族NGが出てしまいそうだ。ただでさえこの間の太腿の傷も言われてるからな……職員さんに夜食作ろうとして包丁落としたって言い訳は流石にキツかったようだ。

 当分バイトは行かないで欲しいって言われてるし、八王子さんにもそれ言えてないんだよな……。今日も多分来てくれって言われそうで、内心困っている。

「どうしようかな……」




「お疲れー、今日はどうするの?」

 本日の授業が全て終わり私と四條さん、そしてミカちゃんは一緒に校門の外へと出てきた。そうだなあ……それでも八王子さんに電話ではい、当分無理ですよ、というのは仁義に反するしな。一旦はKoRJで相談する時間をもらうか……。

 うーん……正直このタイミングでバイト行けません、は結構クリティカルな気がするんだよねえ。私がうんうん悩んでいると、ミカちゃんが驚いたような声をあげる。

「あれ? あの人……」


 私はミカちゃんの声に反応して彼女の視線の先を見て……大きく目を見開く。笑顔で立っている男性、銀色の髪に榛色の目をした懐かしい顔が近づいてくる。

 あまり背丈の変わらない私を懐かしそうな目で、そして少しラフな感じで着こなしたスーツ姿は以前の印象よりも遥かに、大人びた姿のように見える。

「やあ……久しぶりだね新居さん……」


「し、志狼さん……」

 私の言葉にミカちゃんが驚いたような顔で私と志狼さんを交互に見ている。私は少しだけ懐かしさと、少しだけ感傷に浸ってしまい少しだけ目が潤む。

 四條さんは相変わらずの無表情で彼を見ているが……志狼さんは少し恥ずかしそうな笑顔を見せてから、私の前に立つ。ドキドキしてしまう……だって憧れを感じた初めての男性なのだ、胸が高鳴らないわけがない。

 だが彼は急に表情を引き締めると、少し申し訳なさそうな顔で私に話しかける。


「そっちは四條さんか……すまない新居さんと四條さん、KoRJで少し話がしたい。」

_(:3 」∠)_ ちなみに自分はエナドリ、コーラ大好きです(早死にコース


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