第一五四話 獅子女皇(スフィンクス)
「はぁ……戦乙女、とりあえず行動開始しますね……」
「……灯ちゃんなんか疲れてません?」
先日のバタバタから解放されて、最初の任務に着いて私は戦闘服に身を包んで現場となった路地に立っている。お見合いの後、博樹さんからメッセージアプリのアカウントなどを教えてもらい、少しだけやりとりをしている。
直接メッセージをやりとりする男性はKoRJのメンバー以外では初めてで、一般の男性ってこんなメッセージ送ってくるんだと感心したりもしている。
というか博樹さんのメッセージは歳の割にファンシーで少し頭痛えなって感じにはなってるけど。まあ、そんなことをやっていたらミカちゃんに速攻で見つかってことの顛末を説明させられることになったわけだけど。
『あかりん! 青梅先輩はどうするの?!』
『んー……博樹さんはまあ、親の都合でお見合いしただけなんで……』
『博樹さん!? あかりんがいきなり名前呼びって……ど、どんな人だったの? 好きになっちゃったの?』
『良い人だけど……そもそもまだ婚約するって決まったわけじゃないし……』
『青梅先輩が悲しむだろうなあ……いいの? あかりん?』
『……先輩は恋人じゃないし……』
ああ、疲れる……そもそもこの年齢でお見合いっておかしいじゃん! そこからつっこめよ! とは思ったけどさ。
KoRJにはそういったプライベートの情報は伝わっていないのが救いだ。絶対に伝わっちゃいけない人が一名いるからな……。
さて、今回のお仕事はというと四足歩行の怪物、という話を教えてもらっているが、情報少なすぎませんかね、ちょっと!! 最近KoRJに入ってくる情報が雑で仕事受けてる私としてもちょっと困るんだけど。
「私は問題ないです……で、敵の情報ってどのくらい分かってるんですか?」
「んー、四本足です! それとすごく不思議な能力を持ってるそうです」
だめだこいつ、早くなんとかしないと……私は大きくため息をつくと、黙って歩き始める。今回の相手は四本足、不思議な能力持ちと……ふざけんな! たくさん対象がありすぎて絞り込めねえよ、こんなの! どうしてこんなことに……。
ああ、イライラして少し頭が痛くなってきた私は、こめかみに指を当てながら歩き出す。
『まあ、見たこともない怪物を説明しろと言われても難しいかもしれないぞ? 』
まあ、ね。前世でも見たことがない、と言う敵はいたがある程度魔物の生態や特性は学問化されてたからなあ……最近出現してくる敵が私の想定外のものも多く、正直言えば昔出てたような私の前世の知識を役立てる敵が出てきてほしいな、と思う次第である。
昔倒した首無し騎士のヴィーティーなんか、あれでもまだマシな方だったんだなあ。
「ま、そんな都合のいい展開なんか無いわよねえ……」
『はっはっは、ある訳なかろうよ、でもまあ最近は安定して強さを増しているのだから安心して戦うと良いぞ』
「そうよねえ……ま、強くなってるならいいけどねえ」
側から見たら独り言を呟く危ない女性にしか見えない会話を全て壊すものとしながら、路地を歩いていくが、ふとこのあたりの路地ってこんなに長かったっけ? と違和感に気がつく。
言うても路地裏だぞ? こんなに直線が続く場所なんてギンザくらいしか……どう言うことだ? もしかしてこれも簡易的な領域に引き摺り込まれてるのか?
『……無駄話で気がつくのが遅れたな……これは……』
重量感のあるズシッという音を立てながら、目の前の暗闇から巨大な影が歩み出る……その顔は、美しい褐色の肌を持つ女性だが体は黄金の毛並みを持つ巨大な獅子、そして背中には鷲によく似た翼を持つ怪物。
美しい顔立ちの顔が私を見ると獲物を見るような獰猛な笑顔を浮かべて笑い、そして詠うような美しいが不気味に響く低音ボイスで朗々と問いかけを行う。
『赤き炎から生まれ、赤き血を生み出し、その身が赤く染まるものを答えよ』
獅子女皇……現世ではエジプトやメソポタミア神話などにも記載されている女性の顔に四肢の胴体を持つ怪物で、古代ギリシア神話ではテーバイの近くに住み着き、捕らえた旅人に謎かけを行い、答えられなかったものを殺して食べていたと言われる。
前世では比較的ポピュラーというか一つの種族としてきちんと確立した存在で、会話ができるくらい知能が高く魔法も使いこなす強力な怪物だ。
体の黄金色の毛皮は高値で売れることから討伐対象としては結構人気で、貴族が使うマントの素材なんかにもこの怪物の毛皮が使われるケースも多い。
ちなみに今私がされているように謎かけを行うという習性があって、別に答えられなくても良いのだが伝説では答えたものに富や名声を与えると噂が流布されており、この怪物へと挑む冒険者が後を絶たなかった。
ちなみに答えようが答えまいが、最終的には襲いかかってくるのでその噂は単なるデマであり、単にこの怪物が暇潰しをしているという考え方が一般的だ。
しかし……問いかけにある赤き炎から生まれ? なんだそれは……私は少し眉を顰める。
『……答えよ』
獅子女皇は明らかに苛立ったような顔をして前脚をダンッ! と叩くような動作をしている。そういうところだけ動物っぽいなあ……しかし炎から生まれるんだろ? で血を生み出して赤く染まる? うーん。
炎魔法でぶちかましたら血なんか出ないしなあ、赤……赤……そういえば赤といえば、あの後博樹さんから真っ赤な薔薇の花束が家に送られてきてびっくりしたんだよなあ。
薔薇の花言葉を調べてとても情熱的な意味があると知って思わずドキッとしてしまったが、年も離れてる相手に普通ここまでするか? と思ったのはここだけの話だ。
答える気を感じさせない私の態度に獅子女皇はその翼を大きく広げると、怒り狂った顔で咆哮する。
『よかろう、ではその身を持って答えの代わりとしようぞ』
「やれるもんならやってみなさいよ」
私は腰に下げた全て壊すものの柄に手を当てると身構える……さて、獅子女皇の能力をおさらいしていこう。
基本的にその獅子の体から分かる通り、鋭い爪による攻撃が主だ。そして背中についた鷲の翼から分かる通り、飛行することもできるがこの路地では機動性は発揮できないと考えるべきだ。
つまり目の前の個体が選ぶ選択肢は接近戦か、魔法による射撃戦のどちらかに絞られるはずだ。
獅子女皇の背後に複数の炎の球体が突然出現する……火球か。生み出された火球は不規則な軌道を描きつつ私へと高速で飛んでくる。
狭い路地だと普通に避けたり受けるとそのまま釘付けになってしまう、私は上方向……壁を駆け上がるようにジャンプして火球の直撃を避けていく。
「横に逃げれないなら上への移動ならに……ンガッ!」
上に逃げた私の頭が思い切り見えない壁のようなものに衝突して、私は思わず潰れたカエルみたいな悲鳴をあげてしまう。
頭を押さえながら私は壁を蹴って尚も迫る火球を避けつつ、上を見るがそこは遠くに空のような光景が見えており、物理的に存在する何かにぶつかったと考えるのは難しい。
「いたた……こぶが出来ていないと良いんだけど……」
『上方の空間はそれほど広くないな、むしろ最高速でぶつからずに済んで良かったな、お前の速度だとミンチになるぞ』
全て壊すものが冷静に状況を伝えてくるが、私は上方向ではなく縦、獅子女皇の後ろ側への移動を開始する。
怪物は尚も火球をミサイルのように打ち出して空間ごと私を爆発に巻き込もうとするが、私はその攻撃を緩急をつけて壁を蹴りながら回避していくと、一気に速度をあげて獅子女皇の懐へと潜り込む。
「ミカガミ流……閃光ッ!」
電光石火の斬撃が獅子女皇に迫る……怪物は身を捩ってその斬撃を避けようと動くが、それよりも一瞬早く私の刀が怪物の肉を断ち切っていく……。
私は振り抜いた刀をくるりと回して刀に付着した獅子女皇の血液を払うと鞘に収めていく……あ、答え解っちゃった。
「さっきの答え……剣ね。炎で鍛えて、斬ると血が出て、今みたいに血が着く」
『……お美事』
獅子女皇は口から血をゴボゴボと噴き出しながらニヤリと笑うと、傷口から大量の血を滴らせながら地面へどうと倒れる。
まだ痙攣をしているものの、命はすでに無く私は今回の仕事が案外あっさり終わったことに安堵する。怪物が展開していた領域が薄れ始め……場所にふさわしいじめじめとした空気や、少しすえたような匂いの路地裏の広場へと変化していく。
うーん、前世に関連する敵がいいなあとか考えちゃったから出てきたのかしら……死体を眺めながらまるで関係ないことを考えていた時、全て壊すものが警告を発する。
『……!? いかん避けろ!』
「なっ!」
上方向から凄まじい殺気を感じて私は咄嗟に後ろへとステップして身を躱すと、それまで私が立っていた場所に凄まじい勢いで何かが降り立ち……そのまま地面を陥没させるくらいの衝撃と、煙や埃を巻き上げる。
濛々と立ち込める埃と地面から立ち上る煙……私は軽く咳き込みながらそれまで立っていた場所を見るが、その煙が晴れた場所に立っていた人物が見えて驚く。
私と同じ女子高生の制服を戦闘服にした同年代の剣士にして、リュンクス流の剣士。手にした騎兵刀を軽く振るうと私を見てニヤリと笑う女性……立川 藤乃の姿だった。
「なんだ……隙だらけだったのに避けれるのね。でもここで命をもらうわ」
_(:3 」∠)_ 獅子女だとちょっと弱そうなんで獅子女皇にグレードアップw
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