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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一四三話 欲求(ディザイアード)

「ねえ、あの女を手に入れてみたくない? あなたの心は欲しているでしょ?」


「何を……何をいっているんだ? 私はそんなこと望んでいない……」

 目の前に立っている黒髪、赤い眼の妖艶な女性は私に向かって怪しく微笑んでいる。周りを見るとそこはまるで次元拘束(ディメンションロック)で封鎖された空間の中のように、畝る黒い闇の中に相対して浮かんでいるように感じる。

 第一、()()()って誰のことだ? 私は……いや、今の僕はエツィオ・ビアンキ、KoRの内部調査官として日々KoR内部に潜む裏切り者を駆り立てる『猟犬(ハウンド)』、そして今はKoRJの戦闘部隊の一員なのだから。


「いいえ? あなたの心にはずっと欲しがっているものがある。私を……いや血の盟約によって継承(インヘリタンス)を受けて入れてから、思い出したのでしょう? 恋焦がれる魂があるって」

 女性……知っている、この女性はアマラ・グランディ。KoRを裏切ったことで魔王の配下となってグランディの家名を地の底まで突き落とした張本人、そして日本でミカガミ流の剣士である新居 灯によって斬り殺された哀れな女。

 その死によって、僕の中へと流れ込んできた荒野の魔女(ウイッチ)の魂によって僕の意識が塗り替えられてしまい、僕は今でもその差異に苦しんでいるのだ。

 それまでの僕は『猟犬(ハウンド)』として恐れられると同時に、複数の女性と浮名を流す遊び人(プレイボーイ)として知られていた。


『国外に出たグランディの血は好色で淫蕩だな……世界最強の魔法使いの血脈なのに、嘆かわしい……』


 僕の行動を見て本家にあたるグランディ家の面々は影で色々なことを噂していた。でも僕にも理由があると言いたかった。内部調査は他の人が考えているよりも精神的な負担が大きい。信じていた隣人を疑ってかからなきゃいけない、先日までお互いを守ってきた友人を調べ上げた際に、友人が裏切りを働いていた時の無力感と言ったら……。

 僕が気を休めることができるのは女性の暖かな肌に触れているとき、刹那の快楽の中にしかなかったのだから。


「でもそれは、僕の望むものじゃない……今の僕は生物学的に男性だ。記憶にある人は男性だったじゃないか」

 僕はその記憶の中から前世の魂が恋焦がれた男性の顔を思い出そうとするが、口元しか思い出せない……出会えば口喧嘩ばかりしているような間柄だったようだが、それでもその男性のことを強く、とても強く想っていたことはわかる。その記憶を思うだけで、涙がこぼれそうになるのだから。


 目の前に立っているアマラは次第に姿を変えていく、女性としては高かった身長がとても小柄に、そして美しい黒髪は金髪へと……はち切れそうなくらい豊満な体は華奢なまるで少女のような体型へと変化していく。

 美しい外見だが、どこか儚げな少女は僕の顔を見ると優しく微笑んでいる。だ、誰だこれは……目の前のアマラだった女性、いや今の姿は少女か。

 彼女は僕を見て優しく微笑むとそっと僕の頬へと手を添える。

「欲しいの……」


「な、何を……何を欲しているんだ?」

 僕はその少女が頬に添えている手を握ると問いかける。この少女の顔はとても懐かしい、いや懐かしいというよりは()()()()()()のように感じる。

 少女は僕の問いかけに寂しそうな笑顔を浮かべると、突然凄まじく歪んだ表情へと豹変し僕の顔に空いていた片手を押しつける。少女の目は不気味な暗い濁った赤い光を湛えており、僕は背筋が凍りそうなくらいの恐怖を感じた。

「……※※※が欲しいの、手に入れてよ……ずっと寝れないの私……ずっと、ずっと」


「や、やめろ……僕の……私の心に入り込まないでッ! 見ないでええっ!」

 凄まじい握力……頭が潰されるかと思うくらいの力で抑え込まれながらも、頭の中をその濁った眼に見られている……まるで抵抗できない自分を無理やり陵辱されているかのような恐怖と嫌悪感を感じながら必死にその手を振り解こうとするが、全く体が言うことを聞かない。

 突然少女がケタケタと笑い出すと、私の脳裏に大切な仲間の顔が浮かび上がる……だめだ、この子は汚せない……そんなことをしたら僕は……裏切れない!

「ねえ? 貴方は私、私は貴方……この男性(ヒト)が欲しいの、欲しいの……欲しいの」





「エツィオさん……大丈夫?」

 目を開けると心配そうな黒髪の女性が僕の顔を覗き込んでいる……この人は誰だっけ……ああ、そっか彼女はKoRJで受付嬢をしている益山 恵(ますやま めぐみ)だったな。

 窓からは淡い月の光が薄いカーテン越しに入っており、部屋の中はまだまだ暗いままだ。

 そうか……僕は夢を見て……少しだけベッドの上で身を起こすとぼうっとする頭で恵の頭をそっと撫でる。彼女はシーツを軽く巻いただけの姿で僕の隣で微笑んでいる。

「夢を見ていて……ごめん君に心配させたみたいだね」


「すごくうなされてて……汗もすごかったから、軽くは拭いているけどシャワー浴びたほうがいいわ」

 益山さんは僕の胸に軽くしなだれかかると、そっと吐息を漏らす……ああ、昨晩お酒を飲んで彼女の愚痴を聞いていて、気がついたらこうなったんだっけ。

 ベッドの外には脱ぎ散らかしたお互いの服や下着が散乱しており、お互い相当に乱れてしまったのだな、とため息が出てしまう……記憶がいまいちあやふやだが汗と彼女の嬌声、そして快楽だけはかろうじて覚えている。

 継承(インヘリタンス)が起きてからと言うもの、女性を抱くことを避けていたのに酒が入ると案外ダメなものだな、と自分に嫌悪感を感じる。

「……すまない、僕は君の恋人でもないのに……」


「エツィオさんの噂は支部でも有名ですからね。でも……割り切った関係なら、私とまた会ってくれますか?」

 益山さんは頬を薄く染めると優しくエツィオの頬を両手で包み込んで引き寄せ、そっと唇を重ねる。僕もその行為に応えるかのように益山さんを抱き寄せて彼女の唇を自らの舌で割るとそのまま口腔内へと侵入させていく。

 お互いの吐息と舌を絡ませる音が静かな部屋の中に響く……僕は益山さんをそっとベッドに再び寝かせると、彼女の顔を見て優しく微笑み覆いかぶさると、彼女の膨らみに軽く手を添えて刺激をしていく。


『……※※※が欲しいの。ねえ、手に入れてよ……』


 そうだ……このまま肉体の快楽に溺れて、嫌な夢など忘れてしまえばいいんだ……あんな気味の悪い夢なんか忘れて。僕は男性としても生きられるのだから。

 心には違和感を感じていても、僕の人生はずっと男性として生きてきたのだから……あの子を汚してしまったら、僕はずっと罪悪感を感じて生きていかなきゃいけないから。


『こんな感じで汚してあげたら、あの女も喜びで悶えるわ……』


 身を焦がすような焦燥感を感じつつ僕は少しだけラフに益山さんの敏感な部分を弄り始める……嬌声と吐息が部屋を満たしていく。

 僕の心が次第に黒く染まっていく……目の前の女性は違う、けどこの心の猛りと欲求をもう我慢することはできない。強く強く……貪り、犯し、快楽に溺れなければ、僕はもう抑えきれなくなってしまう。はち切れそうな欲望の塊を、僕は彼女へと早く叩きつけたい衝動にかられる。


『……早くあの男性(ヒト)を手に入れて、私の魂を継ぐもの、エツィオ・ビアンキ……』




「益山さん……随分ぼーっとしてますね」

 私は受付の席に座っている益山 恵さんが少し上の空で髪の毛をいじくり回しているのを見て、もう一人の受付嬢である桐山さんへと声を掛ける。

 KoRJの受付嬢は二名いて、一人はよく私とやりとりをしている桐沢 真知子(きりさわ まちこ)さん。そしてもう一名は益山 恵さんだ。

 益山さんが普段とは違ってものすごくぼーっとしたものに写っており、私は違和感を感じていたが、それを見た桐沢さんが受付から少し身を乗り出すと私に囁く。

「なんかね、昨日の夜エツィオくんとお酒の勢いで()()()()()らしいのよ」


「え、ええっ!? もがもが……」

 驚きで声を上げた私の口を桐沢さんが慌てて塞ぐと、益山さんをチラリと見るが彼女はそれどころではないようで、ため息をつきながら髪の毛をいじり回している。

 た、確かに桐沢さんも益山さんも整った容姿の持ち主だし、綺麗な人だなーとは思って見ていたが……まさか、まさかだぞ!? エツィオさんとその……大人の関係になっちゃったってことか?!

 私と桐沢さんは再度益山さんの様子を見るが、全然こっちの動きに気がついていないな……私は黙って桐沢さんに頷くと、彼女は私の口を塞いでいえる手を退けたので私は小声で囁く。

「え? で、でもエツィオさんって女性を口説くのやめたんじゃ……」


「恵からお酒飲もうって誘ったらしいのよ、でも結構遅くまで飲んでて気がついたらって感じらしいわ。で、朝からあんな調子でね……正直今日は私しか仕事してないのよ」

 益山さんは髪の毛をいじり回した後、少し顔を綻ばせて薄く笑ったかと思うと、頬を赤くして何かを否定するかのように首を振ったり、またため息をついたりと別の意味で忙しい状態だ。

 うわあ……職場の女性にしれっと手を出すとか……あのイタリア人すげーな。しかも彼より一歳だけだけど益山さんは年上で、普段は可愛い弟のような反応を見せていたはずなのに、男は全員ケダモノって本当だな。


「……うふふ……もうダメぇ……あんなの凄すぎて……」

 益山さんの独り言が聞こえて桐沢さんは凄まじく嫌そうな顔をしている……なんか反芻でもしてるのか顔色がすごい勢いで変わってるし、普段は益山さんって頼れるお姉さんキャラなのに、今は完全に女性の顔になってるぞ。

 とりあえず本人の反応も見てみたいな……私は桐沢さんにそっと受付カードを差し出すと、桐沢さんはふうっと大きく息を吐いてカードを受け取ると、テキパキと端末を操作していく。

 その間に益山さんの様子を見ているが、彼女はもう上の空でずっとスマートフォンの画面を見ながら笑顔を浮かべている。

 桐沢さんがカードを私に返すと少し眉を顰めて私にお願いをしてきた。


「……今日彼が来てるのよ、だから少し苦情を伝えて欲しいの。仕事に支障が出るくらいの()()をするなって。でも言いにくいかもしれないから、ダメなら私から苦情を入れるわ」

_(:3 」∠)_ エツィオさんは大人の恋愛ができるんだ!(白目


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