第一四〇話 詰問(アレインメント)
『我の首を落としたものはどこだあっ! お前かあッ!』
「そんなの私も知らないくらいの物凄い前でしょ! 昔のことなんか知らないわよ!」
私に向かって九頭龍の口から炎が放たれる……吐き出している炎は火球形状だ、これは爆発するやつだな。私は咄嗟に大きくジャンプして回避する。それまでいた地面に火球が衝突すると、大きく地面を抉るような爆発が起きる。やっぱり……見た目や知能が異なっていても前世と竜の差はあまり変わらないな。九頭龍は火球を避けた私を見て、イラついたように首を振って警戒をしている。
こういう動きは九頭大蛇と同じなんだけどな……外見も大きく違うし、能力も少々どころか差異が大きい。そもそも私の記憶にある九頭大蛇は猛毒の息吹を吐くが、火球を吐いたという記録は前世の記録にはない。
そう考えるとこの個体は九頭龍……この世界の日本という土地で独自進化した龍の亜種と考えればいいのだろうか? 前世の知識とはかけ離れた攻撃を繰り出してくる可能性が高いのが不安感を煽る。
「気をつけて! こいつなんかやばい気がする!」
「ところで立川さんはなぜこんな化け物を起こしたんですか?」
四條さんが無表情で対物狙撃銃を撃つ……装甲をも貫く大口径の銃弾だが、九頭龍の胴体……胸の辺りに巨大な金色の瞳が開かれると、まるで障壁にぶつかったように空中で炸裂して消滅する。軽く舌打ちをして四條さんはすぐに弾倉を引き抜くと、別の弾倉を取り出して狙撃銃へと装填して構える。
「普通の銃弾ではダメですね、別の銃弾を用意します。それと立川さん……さっさと答えてください」
「え?! 今それ言わなきゃダメなの? 空気読んでよ!」
「ちゃんと空気は読んでますよ、でも疑問はすぐに解決しないといけないですよね?」
立川さんは九頭龍の別の首が迫っており、その牙を手に持った騎兵刀を使って受け流しながら応えるが……確かに今それは答えられないんじゃないかなあ。
四條さんのマイペースっぷりは仕方ないところだが、振り回されているのにちゃんと答えてくれる立川さんは結構良い人なんじゃないか? と思ってしまう。
おっとこんなことを考えている場合じゃないか……私は咄嗟にその場からステップして回避する。それまで私がいた場所を九頭龍の首が凄まじい勢いで通過する。首はたった三本しかないのにその分動きが恐ろしく速く、ゆらゆらと動くために捉えどころのない動きで私たちへと襲いかかってくる。
「ええと、私が背中に背負ってる刀を抜いたら動き出したのよ! だから元々封印されていたんだと思う……これでいい?!」
「……理解しました。では元凶はあなたと言うことでいいですかね?」
「新居さん! この子なんか変なんだけど!?」
今そんなこと決める必要あるか!? と言う顔をしながら立川さんが迫る龍の攻撃を受け流していく。そういえば社家間さんは何してるんだ? と思って見てみると彼は金剛杖を支えにしながら煙草を燻らせている……あいつ何してんだ!
私の視線に気がつくと、軽くウインクをして顎で何かを指し示す……凄まじい気配を感じて私は咄嗟に全て破壊するもので防御を行う……衝突音と凄まじい衝撃が腕に走る。くそ、あの男……教えるのはいいけど、何もしないのはどうかと思うぞ。私は思わず焦って社家間さんへと怒鳴りつけてしまう。
「社家間さんとか言いましたっけ?! 働きましょうよ!」
「ふうん……ま、真打登場ってな……我々鴉天狗一族の力も見せてやろうか……」
社家間さんが急に強烈な気配を放つ……彼の姿が一気に変わっていく頭部はまるで人間大の大鴉のような風貌へと、肌が見えていた部分には黒い羽毛が、そして背中に巨大な黒い翼が出現する。人間ではないと思っていたが、これは梟翼人とはまた別の生物だな……彼が言う通り鴉天狗ということなのだろうか?
この種族も私の記憶にはなく、現世で御伽噺や民間伝承の類から知った種族……鴉天狗か。天狗自体を見たことがない私は彼が何ができるのか、何を考えているのかが読めない状況になっている。
考えている場合ではないか、私と立川さんはそれぞれ別の首が繰り出す攻撃を受け止め……押し返す。彼女も的にすると厄介な使い手だけども、味方にすると呼吸が合うのかやりやすいな。
「まずは厄介そうな障壁から崩すか……風刃!」
社家間さんの振るう金剛杖から暴風のような風の刃が打ち出される……風の刃は障壁に衝突すると、そのまま押し合いが始まる。
次第に九頭龍の展開している障壁が耐えきれなくなったのか、ガラスのような音を立てるとそのまま空間へと消え去るように崩壊していくのが見える。
九頭龍の眼が驚いたように見開く……恐ろしい威力の攻撃だ、障壁を破壊して次は……強力な打撃を叩き込む。私の意図を察知したのか、社家間さんも頷くと四條さんへと叫ぶ。
「今だ、攻撃を叩き込め! つるぺた嬢ちゃん!」
「つるぺた……あなた後で絶対殺します、覚えてなさい……」
四條さんが対物狙撃銃を九頭龍の頭へと叩き込む……彼女が狙ったのは少し動きの悪い頭だが弾丸が直撃すると一瞬動きを止めた後、まるで風船のように膨らみ、爆発音と共に破裂する。
凄まじい威力だ……彼女がさっき弾倉を入れ替えたのはこの特製の炸裂弾を使うためか。通常弾でも降魔を吹き飛ばすくらいの威力はあるらしいけど、複数の銃弾を入れ替えることで様々な効果を生み出すことができる、と聞いている。
「この弾は効きますね……効果が出てよかったです」
改造人間……KoRの生み出した改造人間、神経や肉体を薬物や魔術、機械などで強化した人造の怪物、いや怪物というのは彼女に失礼すぎる。
肉体の超強化の代償に、感情を制限されており、機械的な受け答えや恐ろしく感情を見せない表情などはその副産物なのかもしれない。
でも……さっきの彼女が見せた反応……多少なりとも感情を感じさせる部分は存在しているのだ。
ちなみに彼女の武器は現代兵器、特に銃器の扱いに長けている……KoRJでも優秀な戦力である江戸川さんが彼女を優秀な戦力、強力な兵士と評している。
対物狙撃銃を基本として海外製の自動拳銃を数丁、手榴弾や煙幕弾などを身体中に装備しており、小さな体に大量の武器を装備しているのを見ると、小型の装甲車……いや戦車級の火力を有しているのだと実感する。
九頭龍の引きちぎれた首から血が噴き出すが、その血液が地面へと落ちると、弾けたように火花を散らしている……血液自体に触ると火傷や、裂傷を負う可能性があるな。
血液自体が攻撃方法になっている魔物というのは珍しいがいないわけではないからな、触れなければ影響は少ないだろう。
「立川さん、血液は触っちゃダメですよ!」
私は接近戦を仕掛けている立川さんに警告を発する……この人は魔王と契約している敵だけど、今だけは信用しなければいけない。
警告に応じて立川さんも立ち回り方を変えて、回避中心の動きに転じていく……咄嗟に場所を変えるためにお互いの背中を預けて九頭龍の攻撃を受け流して……彼女が私へと声をかけてくる。
「ええ、アンタも気をつけなさいよ!」
『あの女が持っているもの……轟音を立てる筒、飛び道具ということか』
九頭龍が頭の千切れた首の切断面に目をやると、口元を大きく歪める。それと同時に胴体の瞳が輝き、再び切断されたはずの首からゴボゴボと噴き出す泡と共に龍の頭が生えていく……その新しく生えた顔は私たちを見て口元を歪めて笑う。再生能力だと? いやこんな無茶苦茶な再生を行うということは、何らかの無理をしている可能性が高い。
『ノエルの世界よりもこの個体は強力だな……再生能力を持つ九頭大蛇などは存在自体がなかったはずだ』
全て破壊するものが警告も兼ねて、私に忠告する。そうだな、前世のノエルの記憶ですら九頭大蛇に強力な再生能力、魔法障壁の構築能力があるなんて話は聞いたことがない。東方龍に似た外見なのも何かカラクリがあるのかもしれないけど。少なくとも……あの胴体にある黄金の瞳は前世の記憶には存在しない。
「……記憶の知識に左右されるのは、良くないのかもしれないけどさ……でもこれはイレギュラーすぎるわ」
「なんか言った?! 無駄話してる暇あったらさっさと斬りつけてよ!」
立川さんが私に向かって叫びながら騎兵刀を振るって攻撃を弾き返している。私も軽く頷くと全て破壊するものを構えて体を回転させると、空蝉……ミカガミ流絶技である遠距離攻撃を繰り出す。
「ミカガミ流……空蝉!」
私の放った衝撃波が、九頭龍へと迫るが……胴体についた黄金色の瞳が輝くと衝撃波を不可視の障壁が受け止める……だが先ほどほどの硬度はないようで、私の空蝉との押し合いに負けたのか、やはり甲高い音を立てて一部が大きく砕け散る。
その間隙を縫うように四條さんの対物狙撃銃から発射された炸裂弾が胴体についている黄金色の瞳へと突き刺さり、炸裂する。
『グォアアアアアッ! 貴様!』
九頭龍の胴体についている瞳から血が噴き出し、地面へ撒き散らされると同時に、火花と破裂音を発している。だが……怪物は障壁を構築しようとするが、瞳が潰されたことでうまく顕現させることができない。防御障壁はガラスが割れるような音を立てて、砕け散っていき、九頭龍は蹈鞴を踏んで大きく後退した。
チャンス! 私は一気に全速力で全身すると、全て破壊するものを振るって九頭龍の首へと斬りつける。魔剣の能力なのか、まるで紙を切り裂くかのように龍の鱗を引き裂くと、血飛沫が飛び散り九頭龍は怒りで咆哮を上げる。
「勝てるわ! 押し切りましょう!」
_(:3 」∠)_ 戦闘中も仲が良いの(真顔
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