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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第三章 混沌の森(ケイオスフォレスト)編

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第一三九話 九頭龍復活(ナインヘッド)

「次はこの封印だ……随分複雑にできているな……」


 社家間はララインサルより受け取った書類を見ながら、朽ちた神社の各部にある封印と思しき札や仏像を指差していく。その指示に従って騎兵刀(サーベル)を振るう立川の攻撃が札を切り裂くと、まるで一人でに火がついたかのように燃え上がって焼失していく。

 封印を一つ一つ破壊していくと同時に、周囲に立ち込める不快な正気が増している気がする……立川も社家間もこめかみに流れる汗を拭いながら次の封印を確認する。

「……これ、封印を解いていいんでしょうかね……ものすごく嫌な予感がします」


「そうだな……だがこれも仕事だ、次の封印は……」

 立川が汗を拭いながら燃え尽きた札を見て少しだけ不安を口にするが、社家間は手に持った書類を眺めながら再び煙草に火をつけて軽くふかす。

 強い煙草の匂いに立川が軽く咳き込む……煙草苦手なのに。立川は少しだけ苛立つものの、今騒いでも何もならないことを理解しており軽く苦言を呈するのみに留める。

「社家間さん、煙草吸うなら他に行ってからにしてくださいよ……私未成年なんですし」


「ん? ああ……すまない。考え事をしていたので、つい吸ってしまうな」

 社家間は口に咥えていた煙草を地面へと落として靴で踏みつけて消す……その様子を見ながら、この目の前にいる男性、いや怪異の一人は何故ここまで煙草に執着しているのだろうか? と疑問に思う。

 ララインサルより日本古来の妖怪、鴉天狗の一人であることが説明されている。最初は全く信じられなかったが、彼の時折見せる人間をはるかに超えた身体能力や、不可思議な力を見ると正体が妖怪と言われても納得できる。


 鴉天狗は、天狗と同様山伏の衣装を身につけ、神通力や剣術に優れた妖怪とされており、中世以前の日本においては天狗といえば鴉天狗のような姿のものが一般的だった。

 鞍馬山に流された牛若丸……後の源義経に剣術を教えたのも天狗であり、童謡や民間伝承では比較的メジャーな存在だ。

 ララインサルはこの天狗一族の祀られている聖域などをつぶさに調査し、一族を説得して異世界からの力を分け与えた。それにより天狗一族はアンブロシオの配下として一族の若者を提供することに同意した。


『知識を学び、より活動的な若い天狗を配下としてほしい、今の現代において大っぴらに本来の姿で行動できるわけではないが、腕は一族が保証する』


 立川にとっての誤算は、その派遣されてきた若い有能な天狗、社家間 玄乃介が恐ろしいまでのヘビースモーカーであることを除けば、だが。しかも安価で匂いのきつい煙草を好んでいるようで、服についた臭いなどもきつめだ。

 隣で吸われるとこちらにも匂いがついてしまうため、学校では接近を避けてもらっているくらいなのだ。あと喋ると特にひどい匂いがする……。

 一度口臭についても苦言を呈したが、本人は甘ったるいガムを口に入れるようになって破壊力が増した気がする……とても逆効果だ。


「……マスクしようかな……」

「なんか言ったか?」

「いえ、別に……次はどれですか?」


 不機嫌な立川の顔を不思議そうな顔で見つめると、社家間は懐からミントガムを取り出して口へと運び手元の資料から次の封印の場所を確認して歩き出す。

 あと数個の封印を破壊すれば、龍神は復活できるだろう。会話はできるだろうか? 社家間はララインサルの代理として各地の怪異、妖怪の復活に立ち会っているが時代が進んだのだろう、既に力を大きく失って自我すら残っていないものも多く存在している。

 この神社の荒廃具合からも、祀られている神があまり大事にされた形跡もないため最悪自我を失っているか、人間への憎しみを共有できるか……自分はどちらでもないが、恩義は返さなければならない。

「次はこの仏像だ……あと数カ所だが、藤乃は油断するなよ。わかっていると思うが君は人間だからな」


 その言葉に立川は黙って頷くと、仏像を抜く手も見せずに両断する。素晴らしい剣士だ、社家間が()()()()()()でもこれほどの手練れの剣士は少なかった。

 女性ということも差し引いても、素晴らしい武士(もののふ)だ……彼女が標的としている新居 灯という少女も寒気がするほどの手練れの武士(もののふ)だった。

 見ただけでわかる……もし相対する事があれば昔の自分であれば素直に逃げることを選択したかもしれない。

「次は……燭台のようなものがあるはずだが……どこだ?」


 資料には燭台とその形状が描かれているが、視界にはそのようなものは存在していない。荒れ気味の部屋の中を社家間と立川で探し始めるが埃が舞うばかりで目的の燭台らしいものが見つからない。

 もしかしてララインサルの資料はあまり正確ではないとか? 社家間が不安を覚えていると、立川が彼を呼んだ。

「社家間さん、ここに入り口がありますね、この中ではないですか?」


「部屋の中にあるはずだったんだがな……中を見てみるか」

 社家間は両手をあげてやれやれ、という仕草を見せる。立川は少しだけ目の前の鴉天狗の化身の仕草があまりに現代化していることに笑みを浮かべてしまうが……すぐに表情を引き締めて頷く。

 社家間は入り口となっている小型の扉を開けると、中から生暖かい空気が噴き出す……間違いない、濃密な魔の気配だ。

 二人は顔を見合わせて頷くと、入り口の中へと身を躍らせていく。




「今、何かが強い気配が一瞬立ち上りました……急ぎましょう」

 私は身を貫くような強い寒気に襲われて、両手で自分を抱きしめると少しだけ震える……なんだこれは、恐ろしいまでに禍々しい気配? いや神聖なのか? 強い存在感のある何か、だ。

 四條さんも異変を感じているようで、黙って頷くと私たちはすぐに走り出す……こいつはまずい気配だ、ヘタをすると星幽迷宮(アストラルメイズ)でリヒターが一瞬だけ呼び出したあの炎の巨人(ファイアジャイアント)に近い存在かも。

 私たちが走る先で、不気味な光が天に向かって立ち上っていくのが見える……道が開けると、崩壊しかけた神社が小刻みに振動を繰り返しており……その中心から光が立ち上っているのが見える。


「これは……」

 四條さんが異様な気配を警戒して背中に背負った対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)を構えて警戒体制をとる……振動し所々が崩壊しかけている神社の中から影が飛び出す。

 その影は……立川さんと二十代後半くらいの黒髪、くたびれたスーツを纏った不思議な雰囲気の男性の二人だった。

「刀は回収したか?!」


「しましたけど……こいつは予想外ですよ!」

 飛び出してきた二人と私たちの目が合う……咄嗟のことでどうしていいかわからずに、黙って立っていると彼らの後ろで神社が完全に崩壊し、地面へと飲み込まれていくのが見える。

 少し距離をとってお互いどうしたものかと思案を巡らせているが……立川さんが先に口を開いた。

「新居さん……都合がいいかもしれないけど、手伝ってくれない? 封印を解いた相手が……」


 言葉が終わるか終わらないか、その瞬間彼らの後ろの地面から大量の土砂と建物の残骸を噴き上げながら巨大な影が躍り出る……凄まじく異様な姿だった。巨大な大蛇の体から数本の首が伸びているが……九本ではない。

 無事な首は三本しかなく、それ以外の首は根本から雑に切断されたようになっていて、胴体には鋭い爪を持った腕と、足が生えている。

 そして頭部は前世で見たような九頭大蛇(ヒュドラ)との差異が少しある……頭部は蛇ではなく、日本の民話に出てくるような龍の頭を持っている。

 前世において東方に生息していると言われていた東方龍(オリエンタルドラゴン)の頭部に近いのだろうか……ノエルも実際の姿を見ていないので確証は持てないのだけどね。


『逃げるな人間の女ァッ! ……我を封印した人間が沢山いるではないかアッ!』


 凄まじいまでの憎悪に血走った六つの目で私や四條さん、立川さんを睨みつける怪物。ん? あの男性は数に入っていないのか? 少しだけ疑問が湧くが……目の前の怪物は怒りというよりは妄執、狂気に近い感情を私たちにぶつけてきている気がする。

 私はゆっくりと全て破壊するもの(グランブレイカー)を引き抜くと、立川さんと男性に声をかける。

「あなた方が何を解放したか解らないですけど……これは放置できないでしょう?」


「やりますか……解放した二人には後で折檻(おしおき)したいですけどね」

 四條さんが無表情のまま、怪物に向かって対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)を向ける。接近戦は私と立川さん、後衛に四條さん……そして謎の男性がサポートってところか。

 急造のパーティになるが、今はそんなことに文句を言う場合ではないか。私たちはそれぞれの得物を構えて怪物へと向き直る。

 謎の男性が笑顔でどこから取り出したのか金剛杖を取り出すと、身構えて叫ぶ。

「ハハッ……いいね、高校生は話がわかるじゃねえか。こいつは九頭龍、そして俺は社家間だ。よろしくな胸デカ嬢ちゃんと、つるぺた嬢ちゃん!」


 あ、こいつ危なくなっても見捨てよう……笑顔のまま私は青筋立てて絶対にこの社家間という男性を見捨てることを心に決めた。

 立川さんもめちゃくちゃドン引きした顔で社家間を見ている。そりゃそうだろうな……命の危機にここまでフツーにセクハラじみた事を口にするゲス野郎は……いや、KoRJには一名いるな。

 いやいや……今は目の前の九頭龍をどうにかしなければいけないだろう、私は軽く頭を振って湧き上がる嫌悪感を飛ばすと、九頭龍へと向き直る。

『フハハ! 人間風情が偉そうな口を……お前如き矮小な人間の女が我に勝とうなど片腹痛いわ!』


「……人間舐めんじゃねーわよ、この化け物が!」

_(:3 」∠)_ 後書書き忘れたw


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