第一三〇話 転学生(トランスファー)
「どうも初めまして、四條 心葉です。皆様よろしくお願いします」
大阪から転学してきた美少女の登場で、同じクラスの男子がざわめく……青葉根の制服に身を包んだ彼女は、うん、確かに可愛い……なんというか私とは違う方向性の美少女だ。
ついでに女子も少しざわめくが……これはアレだ、少し恋愛の方向性の違う方達が騒いでいるだけだ。
私は自分で見ても『私スッゲーな!』と思うレベルの体をしているが、四條さんは凄まじくスマートな体型をしており恐ろしく細い……なんというか、嫋やかな美少女というか、対照的な存在のようにも思える。
「あかりん、凄い美少女入ってきたねえ、なんか不思議な印象だけど」
ミカちゃんの言葉に私も頷くと、改めて彼女を見てみる。四條さん普通に見ていると本当に綺麗なんだよなあ……なんか無機質な印象があるが、前世だったら速攻で口説いただろうなあ。
先生が四條さんの席を私からは少し離れた場所へと誘導し、無表情でお礼を伝えると周りの目も気にせずに黙って座っている彼女をみると、やはり異質な存在だなと感じる。
『彼女は人間ではあるが……KoRとかいう組織もなかなかに秘密の多い組織なのだな』
全て破壊するものが呆れたような声を響かせるが……確かに私はKoR本体がやっていることの全てを把握しているわけではない。
エツィオさんがイタリアで猟犬と呼ばれ恐れられていたのは、彼が内部統制時に結構派手にやってた、というのは後から聞いたくらいだし、そもそも私は八王子さんが普段何やってるのかすら知らないからな。
もしかしたら四條さんにも結構な秘密があるかもしれないな、うん。私も秘密だらけだし。
ふと横に座っているミカちゃんをみると、彼女は今にも涎を垂らしそうなくらいの顔で四條さんを見つめている……どうしたのこの子は。
「四條さん綺麗だなあ……なんか、あのすまし顔をめちゃくちゃに汚したい感じだよね……」
『……なあ、灯……お前の友達なんかおかしくないか?』
「ミカちゃん? 何言ってるの?」
長年付き合ってきてるけど、この子なんかおかしくない!? 今までそんなところ見せてなかったじゃん。私のドン引きした視線を見て、ミカちゃんがにっこりと笑う。
え? 何? なんかめちゃくちゃ怖いんですけど……全て破壊するものですら感じるくらいの恐怖を私も感じて顔が引き攣る。
笑顔を浮かべたままミカちゃんは恐ろしいことを口にしていく。
「あかりんも昔そういうところあったんだけど、付き合っていくと案外普通だなって。だから安心してよぉ」
「……あ、はい……安心します……だからそんな目で見ないでください……」
やだ怖いこの子……本当に何言ってんだろう。ミカちゃんは四條さんを見て楽しそうに笑ってるし……私は長年付き合ってきた友人の闇深い部分を垣間見た気になって少しだけ恐怖を覚えるが……。
ふと四條さんをみると、彼女は周りの男子生徒から話しかけられているが、我関せずといった表情で塩対応を繰り返している。
あーあ、あまりの塩対応ぶりに男子生徒がどんどん凹まされている、かわいそうに。中には昔私に言い寄ってきた男子も混じってるようだ。
私はふと窓の外をみると一面の青空が広がっている……異質な来訪者が来たこと以外は普段と変わらないか……。
「……平和だなあ……うん、絶対平和だと思うよ……」
「で、君は相手も殺さずに撤退したということかな? 藤乃ちゃん……」
とある路地裏……ララインサルは目の前で彼に軽く首に手をかけられて怯える立川 藤乃を見て微笑む。震えながらも立川はなんとか頷くが、彼はその手を離そうとしない。
ミシミシと首の骨が軋む……苦しい……必死にその手を掴んで立川は声を絞り出す。だがその手はまるで岩石のように動かない……立川も転生者としてそれなりに能力が高いのだが……それでもまるでびくともしないのだ。
「い、一般人に見られたら……通報されます! だからあの場は引くしかなかった……」
「通報ね……確かに日本の警察は優秀だよね」
ララインサルは立川の目を見つめながら思案を巡らせる、この国は治安機構が素晴らしく整っている、いや整いすぎている。これまで一般人だった立川や新居 灯が刀を持って殺し合いをしていればあっという間に通報され、警察が飛んでくるだろう。
少しため息をついて、ララインサルは立川の目を見つめて……笑う。その笑みにゾッとするような恐怖を感じて立川は目を逸らしてしまう。怖い……どうしても慣れない、この男の目は本当に怖い。
ララインサルは歪んだ笑みを浮かべながら、彼女の首から手を外してフラフラと振る。
「藤乃ちゃんのいう通りだね、ごめんごめん。感情的になっちゃったよ」
「そ、それで……母の容体が少しづつ悪くなっているんです、なんとかなりませんか?」
立川は病院に入院している母の顔を思い出す……数年前から入院したままの母は立川にとって大事な人間だ。父親も必死に働いているものの、入院期間が長くなってしまっているため家計にも負担が増えつつある。未承認薬なども複数使用しているが、いまだにその原因すらわかっていない……。
「わかったよ、君が気持ちよく働けるように僕からアンブロシオ様に相談するよ。僕らはホワイトな環境を目指しているからね、任せてよ」
「ありがとうございます……それと私そろそろ戻らないと……」
立川は何度か頭を下げると、ララインサルと話していた路地裏から離れていく。彼女が小走りにさっていく姿を見て、楽しそうに手を振るララインサル。
良い性格の子だ、本来は優しい心の持ち主なんだろうな……彼女は毎日悪夢に悩まされているが、それは彼女が前世において勇猛な戦士であったことに起因している。
戦いを好み、敵を倒すことに喜びを感じた存在なのだ。本性は恐ろしく獰猛なのにそれを否定し勝手に苦しんでいる。ああ、愉快だ……彼女が自分の本性に気がつき、それを受け入れた先にあるのはなんだろうか?
「ホワイトな環境……ね。そうは見えないがね」
「ああ、いたんですかぁ……力は戻りました?」
ふと影からゆらりと現れた男性に気がつくと、ララインサルはにこりと笑う。男性は三〇代後半程度……安物のスーツを少しラフに着て口には火のついたタバコを咥えている。
ガリガリと頭を掻くと、男性は軽く頷いてララインサルの隣へと歩み寄る……。
「結構戻ったよ、最近の日本人は俺たちみたいな怪異を信じなくなったからな……あんたらのおかげだよ」
「それはよかった……で、僕の元に来たということは何かご用事が?」
その言葉に男性が懐より書状のようなものを取り出してララインサルへと渡す。その書状についている紋章を見て、ララインサルはああ、と納得した表情を浮かべる。
男性はララインサルへと書状を渡すと、半分程度吸い終わったタバコを地面に落としてくたびれた革靴で踏んで消すと、新しいタバコを口に咥えて火をつける。
「魔王様から言伝を頼まれてね……次の指令だそうだ。それとあの少女の周りを警戒して余計な虫がつかないように保護してくれって言われてるんだ」
「ああ、そうなんですね。まあ社家間さんなら適任ですねえ……お願いしますよ」
社家間 玄乃介……最近ララインサル達の仲間になった男性。見た目は普通の日本人男性だが、彼自身は人間ではない。
人に擬態をしている怪異であり、アンブロシオとララインサルにより力を取り戻しその恩義を返すために進んで部下となったのだ。
少し深くタバコを吸い込んで、煙を吐き出すとララインサルに親指を立てて悪戯っぽく笑う。その笑顔は非常に人懐っこいもので、彼自身の存在がそれだけ神聖である証かもしれない。
「任せてくれ、あんたらに受けた恩義は我が一族に代わって俺が返す……もはやこの国の人間は俺たちを敬う気がないからな、戦えと言われれば喜んで戦うさ」
「……よろしくね、藤乃ちゃんの周辺はかなり危ないからね、お邪魔虫は殺しちゃってもいいよ」
社家間はそのままヒラヒラと手を振って闇の中へと姿を消していく。その直後、大きく羽ばたく音が路地裏に響く。ララインサルは歪んだ笑みを浮かべると、路地裏から出て街を歩き始める。
周りでは小さな子供が両親と共に歩きながら、幸せそうな顔で笑っている……ああ、なんて小賢しい、とても気持ち悪い存在ばかりだ。
今この場でこの矮小なものたちを皆殺しにできたらなあ……純粋な魂を徹底的に汚して、言いようのない屈辱と恐怖を与えたいなあ。
そうそう、あの新居 灯を徹底的に汚してその顔が屈辱に歪むのを見たいなあ……そんな顔を見るのが楽しいのだけど。異世界では矮小な人間に屈辱を与えるのが楽しかった。
高潔と呼ばれた人間を気がつかないうちに堕落させ、その事実に気が付かせた時のあの顔ったら……ああ、楽しかったなあ。
「何がいいかなあ、汚すなら一番屈辱を与える方法がいいんだけど、男に襲わせるのも芸がないしねえ……」
_(:3 」∠)_ ミカちゃんは微妙に闇を抱えてそうな感じ
「面白かった」
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