表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第二章 星幽迷宮(アストラルメイズ)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/247

第一一九話 褒賞(リワード)

「こ、こんな……は、離して……ッ! ひっ……」


「一緒に……一緒になりましょぉお……泥の中に沈んで、食われてしまいましょう……」

 私は必死にもがくが、泥人形たちはそんな私にお構いなく私の体にしがみつき、まるで沼地へと引き摺り込むような動きをしている。

 泥人形たちは先ほどまでの悲しみの表情ではなく、歪んだ……まるでララインサルが浮かべているような歪んだ笑顔で、まるで仲間が増えることを喜ぶような、そんな笑顔だ。

「い、嫌だ……私は仲間になんかなりたくない!」


「ええ? そんなこと言わないでよぉ? さっきまで泥人形の哀願に動揺してたのに……仲間になっちゃおうよ」

 ララインサルがくすくす笑って、私を見ている……これを狙っていたのか、くそっ……。必死に体に力を込めて足を引き抜こうとするが、その足をさらに多くの泥人形が引き始める。私は全て破壊するもの(グランブレイカー)を沼地に突き立ててなんとか脱出を図ろうとするが、全く効果がない。

 ニヤニヤと笑ってララインサルは私に向かって手を伸ばす……その指先に黒い影のような球体が生まれていく。

暗黒の矢(ダークネスアロー)……今ならこんなゴミみたいな魔法でも殺せるね……」


 暗黒の矢(ダークネスアロー)……闇を凝縮した魔法の矢を発射する魔法で、飛翔速度はそれほど早くないが、独特の飛翔音を立てて着弾する……音も非常に小さく目立たないため、前世では暗殺者などがよく使っているのを見た。ちなみに夜だと本当に飛んでくるのが見えないので、この魔法の独特の飛翔音を記憶しろとよく言われたものだ。

 ああ、懐かしい……とはいえ今超ピンチなんですけど!


「くっ……って、お、重い……」

 まずい……慌てて全て破壊するもの(グランブレイカー)を引き抜こうとするが、刀身に泥が纏わりついて恐ろしく重くなっており、私は片手では刀が引き抜けなくなっていることに驚愕する。

 まずいまずいまずい、このままではあの魔法に貫かれて死ぬ……こんな場所でなんて……。


「……稲妻の槍(ライトニングスピア)

 次の瞬間、笑顔を浮かべていたララインサルの頭部に稲妻の槍(ライトニングスピア)が突き立ち、次の瞬間爆発を起こして頭部がほぼ吹き飛んだ。

 頭部を失ったララインサルがゆっくりと地面へと倒れていくが……倒れた瞬間にやはり泥となって汚泥の中へと沈んでいき、それと同時に死の沼地(デッドリースワンプ)の効果が解除されたのか、沈み込んでいた私の周りの泥が消滅していく。

 体は……無事だ。慌てたように私に駆け寄るエツィオさんとリヒター……先輩は心配そうな目で私を見ているが少し離れた場所に立っている。

「大丈夫かい? ったく止めても飛び出すんだものな……危ないよ」


「あ、ありがとうございます……」

 エツィオさんが座り込んでいる私に手を伸ばしてきた……そっかエツィオさんが助けてくれたのか。この迷宮(メイズ)に来てからどうも彼に助けられっぱなしな気がする。

 その前も危ないところは彼が助けてくれているし……私ももう少ししっかりしなければいけないのに……なんだか悔しい。

「大丈夫、それよりも倒せてないね」


「あら、わかっちゃった? さすが魔法使いだねえ……」

 明るい声が部屋の入り口から響く……そこにはラフなパーカーとジーンズに身を包んだ無傷のララインサルが立っている。

 頭を吹き飛ばしても死なないなんて……不死身か? 私は刀を構えて一歩前に出るが、ララインサルは呆れたように両手を広げると、首を振って笑っている。

「いやいや、いいメンバーだね。お互いがどうフォローするかを瞬時に動いてるんだもの……厄介だなあ」


「まだやりますか? それとももう一度破壊されたいですかね?」

 私の言葉にララインサルは改めて首を振って笑う……ただ恐ろしく余裕のある表情を浮かべている。おそらくこのララインサルも本体ではないのだろうけど。

 自分の服を見ながら指で軽く伸ばして、少し口を尖らせるような表情を浮かべるララインサル。

「この服結構気に入ってるんだよねえ……君に破られちゃうとまた買いに行かないといけないしなあ……やめとくよ」


『なかなか面倒な相手だな……こいつはそう簡単に殺せる相手ではないぞ……』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)が心に話しかけてくる……確かにな。この闇妖精族(ダークエルフ)はかなり厄介な存在だ。

 この場で一気に倒せるような気もしないけど……でもこのまま放置してもいい気がしないのは確かだ。私は刀をララインサルへと突きつける。

「あなたのことは全く許せません……胸糞悪いし……ここで決着といきたいところですが」


「やめときなよぉ……君じゃ僕を倒せないよ。だって……今の君は弱いもん」

 その言葉に私は再び頭に血がのぼり……反射的にララインサルの首を泡沫(ウタカタ)で叩き落とす。首が地面へと落ちて……そのララインサルの首がこちらを見て、ニヤリと笑うとどろりと泥へと戻る。そしてそれと同時に体が崩れ落ちると、再び彼の体が泥と化して地面へと溶けていく。


「ったく……直情的だなあ。そんなに怒ることないのに」

 再び入り口から新しいララインサルが入ってくるが、服装はまたカジュアルな先ほどとは違うものだ。やはり先ほどのララインサルは偽物ということか。再び私はその新しく入ってきた彼に刀を突きつける……許せねえ。

 こいつはテオーデリヒやアマラと違う……正真正銘のクソ野郎だ。

「確かに私は弱いけど……自分で戦おうとしないあなたに言われる筋合いはないわ」


「ハハッ……お怒りだねえ。でも、弱いのは本当だよね。君の中にある魂なら、僕も危ないけど今の君なら本気でやれば殺せそうだ」

 一瞬で殺気を漲らせるララインサルの異様な雰囲気に、一瞬で飲まれた私は思わず身を硬直させる。なんだこの目の前の男は……もしかして、テオーデリヒよりもはるかに強いのではないだろうか?

 ということは今の私では……ララインサルを倒せない?

「大丈夫、そのために僕らがいるだろう?」


「そうだな……全員で戦えば、なんとかなるだろうよ」

 エツィオさんとリヒターが私を庇うように前に出たのを見て、ララインサルが本当に邪悪なそして好戦的な笑みを浮かべる。

 さらに彼の纏う不気味な魔力が大きく膨らんでいく……私はその雰囲気に流石に冷たい汗が背中を流れるのを感じる。エツィオさんも緊張している……リヒターの表情すら固い。

「クハハハッ! これは楽しいねえ……ここでみんな殺しちゃおうかな……クフフッ!」


「やめろ、今回テオーデリヒを倒したことで、彼女の能力を知った。今回彼女には褒美を取らせたい……行かしてやれ」

 いきなり入り口から声をかけられて、私たちは入り口を見ると……そこにはスーツ姿のアンブロシオが立っていた。彼は私を見て、それまでの印象と違う邪悪な笑顔を見せる。

 褒美……? なんのことだ? 状況が混乱して私たちもどう行動していいのかわからない状態になってきているが、私は慌てて格上であるであろうアンブロシオへと刀を向ける。

 その姿を見てアンブロシオは私に微笑みかける、その笑みが本当に慈愛に満ちたものであることに私は困惑する。

「そう警戒しないでほしい……私は君を尊敬している。素晴らしい剣士だ……私はやはり君と殺し合いたい……」


「……あ、ありがとうございます?」

 その言葉にアンブロシオは本当に嬉しそうな笑みを浮かべる。思わずお礼言っちゃったけど、こいつ敵だからね! しかも魔王だからね! 私は全て破壊するもの(グランブレイカー)を彼に突きつけて警戒を続けるが……。

 彼の目は本当に優しく……まるで子供をみる親のような、実に温かい眼差しなのがとても気になる。


『……お、おい……お前の敵というのは本当に彼なのか?』


 全て破壊するもの(グランブレイカー)の少し慌てたような声が私の心へと響く……うん、そうだよ。彼は異世界からこの世界を侵略している悪の首魁。

 私を殺そうとしている敵の親玉を見て、なぜ全て破壊するもの(グランブレイカー)は動揺したような声をしているのだろうか?


『嘘……だろ……? これは……どういうことだ……?』


 困惑したような思考が私に伝わり……私もこの前世からの繋がりの武器の動揺を感じ取る。どういうこと? 目の前のアンブロシオは何か私の前世、もしくは全て破壊するもの(グランブレイカー)に関わるものなのだろうか? どういうことなの? 教えて?


『……解せん……どうして……』


 押し黙ったように全て破壊するもの(グランブレイカー)は沈黙する。アンブロシオは私の手の中にある全て破壊するもの(グランブレイカー)を見て、ほう、と唸る。

 やはりその眼差しは……本当に優しく、慈愛に満ちたものだ……どうしてこいつは私をそんな目で……調子狂うな、実際のところ敵であってもララインサル、アンブロシオって結構美形の部類に入るので……なんか気になるんだよ!

「それはお前の剣か? ……この世界にきてもその剣を見るとは……そうか、新居 灯、お前は※※※の……ふふっ……」


「な、なんなんですか! 戦うならさっさと……」

「いや、私は戦う気はない……ララインサル、帰るぞ。今は見逃すのが、新居 灯への褒美だ」

「……残念……、じゃあ今度あったら殺し合おうねえ〜」


 アンブロシオの後をついて、ララインサルはニコニコ笑いながら入り口へと姿を消していく。完全に姿を消したのを見て、私はほっと息を吐く。

 エツィオさんが疲れた顔をして、床に崩れ落ちる……リヒターも警戒態勢を解いている。先輩は額の汗を拭って……入り口を何度か見ているが私の視線に気がつくと、少しだけ嬉しそうな顔をしてくれている。

 私はみんなに向かって出口へと指を差して、少しだけ苦笑いを浮かべて語りかけた。


「じゃ……色々ありましたけど、ここから出ましょうか」

_(:3 」∠)_ 次回で第二章終了です、今後ともよろしくお願いします。


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ