第一一三話 契約締結(コントラクト)
『では改めて、我は全て破壊するもの……幾多の世界を股に掛け所有者と共に敵を切り伏せる最強の魔剣である』
うっわー……めちゃくちゃ胡散臭え……自分で最強の魔剣とか言っちゃうんだ。そう考えてみるとしゃべる剣とか無理だわ〜、まじ無理だわ〜めんどくさそうだし。
私の疑いの眼に気がついたのか、目の前の全て破壊するものは慌てたような声を響かせる。
『……おい、お前もしかして我のことを信じておらんな? 夢で見ただろう?』
「うーん……そりゃ夢で見ましたけどね……でも自分で最強とか言っちゃうんだ」
私の反応があまりに悪いことに不満があるのか、全て破壊するものは刀身を震わせて何やら怒り始める……しかしこれってもしかして知性ある剣に近いものなのだろうか。
そんな私の考えを読んだかのように全て破壊するものは声を響かせる。
『あー、キミね。そんな魔法道具見たいな扱いやめてくれますかね、知性ある剣なんてアンタ、我から見たら低級も低級、マジ底辺って感じですわ』
……なんでこの魔剣、ここまで言動が軽いのだろうか……夢で見た全て破壊するものってちょっと威厳のある感じの剣だったのに、まさか小降りになったから知性的な部分も減少したのでは。
その考えを読んだらしく全て破壊するものはまた怒り始める。
『違う! 我の所有者の思考レベルに合わせてある程度我の言動や考え方は変化するのだ……つまりお前の少ない脳みそのレベルや言動に合わせてやっているのだ、感謝しろメロンみたいなデカい胸を持つ女よ』
「そっかー……ってアンタ今めちゃくちゃ失礼なこと言わなかった?」
その問いには全く答えることはなく、全て破壊するものは目の前の空間に鎮座している。くそ……こいつ好きになれそうにないな。
だが夢で見ているノエルの超戦闘能力により振るわれたこの魔剣は、決して折れることのない凄まじい耐久性……そして魔法すらも切り裂く恐ろしい切れ味を持っている。
『だから、切れ味の良い万能包丁みたいな想像はやめろって……我は破壊の魔剣なるぞ、格が違うのだ』
ノエルはこの魔剣を本当に気に入っていて……寝る時も抱えて寝ていたくらい大事にしていた。記憶だけではあまりその辺りの詳しい事情はわからないのだけど、先日の夢で少しだけだけど、この魔剣は並行世界に同時に存在していて契約をすることで使える、そして魂は別の世界の契約者と並行で繋がって……だんだん私の頭が混乱してくる。
「えーとだから、私がここで契約をすると別の世界の私とも同一の存在になるとかなんとかでしたっけ」
『うむ、ノエルの魂というか記憶をみているようだな、では改めて我を握れ。別の世界のお前を見せてやろう』
その言葉に私は全て破壊するものの柄を握る。その瞬間に凄まじい勢いで別の世界の記憶が流れ込んでくる。
目眩を起こしそうなくらいの情報の本流の中から私はいくつもの光景をその目で確認していくことができた。
まるで魚のような顔をした不気味な生物の姿をした私が直刀の姿をした全て破壊するものを持って、海を泳いでいる……目指す先には巨大な支配者の姿が、翼と巨躯そして頭足類のような頭を持った不気味な怪物へと向かっていくのが見える。
長きにわたる戦いの果てに魚のような生物は全て破壊するものを怪物の頭へと叩き込み、ついには勝利する。
次の瞬間には私は美しく虹色に輝く湖のほとりで、人に似ているが頭の形が不思議なくらい特徴的な生物の女性となって全て破壊するものを携えて立っている。
目の前の虹色の湖から、恐ろしくも美しい巨大な蛇が現れるのをみて微笑みながら剣を抜いて立ち向かっていく姿が見える。
巨大な蛇との戦いの果てに女性は蛇にとどめを差しながらも致命傷を負って共に倒れていく。
かと思えば自ら何本もの腕を持つ巨人の姿へと変化した私は、全て破壊するものと複数の武器を手に持ち、天空から降り注ぐ神の雷を切り裂き、大きく咆哮している。
神を切り裂き、敵の巨人を切り裂き戦い続けた先に、強大な力を持った神の前に敗北し世界を呪って死んでいく。
美しい女性とも男性ともつかない美形の剣士へと変化した私は、その手に全て破壊するものを握って、異形の魔物を切り伏せていくのが見える……だが剣士は目的となっていた姫を助けることができずに天を呪ってしまい、神の怒りに触れて落雷で命を落としていく。
『ふむ、ノエルの時とは違う光景が見えているようだな……だがノエルだけでなく我の所有者は全てこの光景をみている……』
恐ろしいまでの情報の本流に少し気を失いそうになるが、私はなんとかふらつきながらも目頭を抑えてなんとか耐える。それら全てが自分と同じ存在だと言われてもなんとなく信じたくないような……特に最初の魚人間! あれどうみても魚でしょ! 魚は食べるのは好きだけど同じ存在だって言われるとちょっと悲しくなるぞ。
『まあ、その世界ごとに知的生命体は変わるからな……あの姿も世界では美しい姿だったそうだ』
ふむ……まあ、なんか納得いかないけど美しいというなら満足するべきか。さて、ここまできて私はどうしようかな、という気持ちになっている。
ノエルが私に繋いでくれたバトンを受け取らないという気にはならないのだが、でも魂を差し出せという話が引っかかっている。
もしここで私が全て破壊するものと契約を結ばなかったらどうなるのか? 夢ではこれらの世界の話は同時に並行で起きていることだと話していたはずだ。
「もし……私が断ったらどうなるの? 魂の連鎖は起きないってこと? それと今目の前の光景はどうなるの?」
『まず時間が動き出してお前は敵の攻撃を避ける間も無く食らって即死。で、死んだ後に興奮した観客が死体で色々やるんだろうな、そりゃもう想像に難くない。家族の手元に死体が帰ることはなく迷宮で朽ち果てるわけだ』
う……それは想像していなかった……世の中には大変マニアックな趣味をお持ちの方もいらっしゃるわけで。想像するだけで気分が悪くなるようなことをしかねないだろうな。
死ぬのは嫌だし、仕方ない契約するか……でも今までの私と何かが変わってしまうのだろうか? できれば今までの生活を続けたいし、魂を差し出せとか言われると色々怖いんだよね。
『うん、まあノエルの時は彼奴の性格や世界観に合わせて少し難しく話したが、お前の場合はな……別に今までと変わることはないし、好きなように生きて構わない。単純に我が新しい世界につながるための儀式だ』
あら、そうなんだ……で、やっぱり私に合わせてとかそういう感じで私のこと馬鹿にしてない? なんだかなあ……少しだけ不満を感じつつも、この先に待っている確実な死という未来を避けるためには、契約をするしかないというわけか。
もしかしたらそれすらもこの魔剣の手のひらなのかもしれないが。私が普通に寝ている時とかに話しかければよかったんじゃないの?
『まあ、どう考えるかはお前次第だが……だがいいのか? お前が愛する男性の前で、お前は無惨に死んで……その死体はお前のいうところのマニアックな趣味をお待ちの殿方に汚されるのだ。そんな未来を防ぐために、我と契約して所有者になろう、さあ契約しようそうしよう』
ぐ……わかってるわよ……これ以上議論はする必要ないし、私もあなたと契約してなんとかこの戦いに勝利をしたいのは本音だから。
あなたを持つことで……戦闘能力が飛躍的に変わっていくだろう、ノエルも所有者となったことで他の追随を許さないレベルの剣士へと成長していったのだ、その記憶が私に抗い難い魅力を伝えている。
でも急に剣を持って戦い始めたらおかしくない? そんな私の思考を読んで、全て破壊するものが突然出現について提案を始めた。
『安心しろ、我は破壊の魔剣だぞ。普通の出現やいきなり手の中にあるなどというつまらない登場は望んでおらん……そうだな、我のシナリオはこうだ……』
全て破壊するものは事細かく出現までのストーリーを語り始める。語られる内容は実に劇的な登場の仕方だけど……なんか邪悪な剣の登場シーンのようで少しだけいいのかな? それでという気分にはなってしまう。
『……我は幾多の世界でドラマティックな登場を散々しているのだぞ……我に任せれば、お前の仲間たちは歓喜の涙を流し、さらには観客たちのボルテージは最高潮、あまりの熱量に人間と魔物の友情が生まれ……最終的にはその友情は世界をつないでいくのだ、最終的に我の登場で世界平和が実現するだろう。だからお前は難しいことを考えずに我の提案に乗ればいい、大丈夫我に任せよ……』
私は大きくため息をついて……諦めたように首を振る。どちらにしても私には選択肢がないって話だな。全て破壊するものの柄を握る。
まるで世界が変わったかのように、私の意識に全て破壊するものの持つ知識やノエルが技を繰り出していた時のコツやイメージなどが私に流れ込んでくる。
さらには別の世界の私の思考や、経験などもあらゆる何かが私の中へと流れ込み、私自身を魂を変化させていく。
「わかったわ……ノエルと同じく、私も貴方と契約しましょう、だから力を貸して、全て破壊するもの……世界を守るために」
_(:3 」∠)_ ようやく前世の剣と契約
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