スライムに関わるとろくな事がない
「…………ぐっ……あったま痛てぇ……」
『ご主人様!』
「……あぁ、トカゲ君か…………何してたんだっけ」
全身に駆け巡る倦怠感と、呻き声が漏れ出るほどの頭痛を抱えながら起き上がったアキは辺りを見回すと現状を理解しようと頭をフル回転させる。
えーっと、魔物の大軍と戦うことになってて……トカゲ君で蹴散らして、そうだスケルトンレギオンを発動させて倒れたんだ!
「戦況は!?」
『ここは私めからご説明致しましょう』
アキがトカゲ君に焦りながら聞くと、その横から執事の格好をしたスケルトンが現れる。
『私めはスケルトンレギオン幹部が一人、スケルトンバトラーでございます』
「バトラーって執事か」
『えぇ、スケルトンレギオンは元々一つの国家ですので。皆様お強いですよ、国王から姫、下っ端兵まで最低でもアングリーベアーは倒せるような力をお持ちです』
「つまり今戦力的にはアングリーベアー四桁って事か」
アキはアングリーベアーが1000体以上並んでいるのを想像して軽くブルりと震える。
「まさかたった一言でベアー1000体分の戦力を呼ぶとかおっそろしいな……」
『えぇ、それがマイロード、あなたの力なのですよ』
「ん〜、て事は他のジョブも上げてればこれだけの力が手に入るって事だよな……先が思いやられる」
アングリーベアー1000体分の出力の攻撃がこれから出てくると推測したアキは、この軍隊が一瞬で消し飛ぶ想像をし深い溜息を吐く。
魔法使いとか剣士とかやばそうだよなぁ……魔法使いなら超高火力範囲攻撃とかして来そうだし、剣士なら単体に対する強力な斬撃とか…………ん〜怖い。
『マイロード、唸っている暇はございませんよ。悔しながらも後ろに控えていた動きの遅い重量級の魔物共に我らがレギオンも少しずつ押されてきています。そこでマイロードにもお力添えを!』
「当たり前だ!さっさと前線に向かうぞ!寝てた分働かないと勇者の盟友として恥ずかしいからな!」
気合を入れ直すとアイテムボックスから大盾を取り出すと、トカゲ君の背中に乗り、前線を見据える。
「トカゲ君、最前線まで頼む」
『わかりました!』
トカゲ君は元気の良い返事と共に力強く羽ばたき、一瞬で地面から離れる。
「何か紫色のゲル状物体が蠢いてるんだが……」
『さっきほね太郎さんたちから連絡があった紫スライムですね、爆破能力付きです』
「だよねぇ……スライムかぁ…………」
いい思い出のないスライムに顔が引つる感覚を覚えながら、アキはトカゲ君から飛び出す準備をする。
『えーっと、何をする気なんですか?』
そんな様子を背中で察知したのかトカゲ君は少し戸惑ったような声で質問をする。
「簡単だ、紐無しバンジーってもんを見せてやるのさ。トカゲ君、もっと高度あげて!相手がスライムなら死なないはず」
地上の魔物達が豆粒に見えるほどの高さまで上がった時、アキは大盾を前に構えスライム目掛けてトカゲ君から飛び降りた。
「うっひゃぁぁぁゃぁぁぁ!!あ……だめだだめだ!怖い!何でこんなことしたんだろ!『フォートウォール』!『フォートウォール』!いいぃやあぁぁぁ!!」
その場の思いつきでトカゲ君から飛び降りたのはいいものの、その次の瞬間に襲った縦Gに寒気が走り聞いた事のないような甲高い悲鳴が上がる。
「高い長い速い!やだやだやだやだぁぁぁ!!」
重力による加速により徐々に地面に近づく速度と受けるGが増していく。
時間にして数十秒、それが恐ろしく長い時間に感じられる中やっとの事でスライムを貫通し地面に衝突した。
「ぐっ…………うぅ……漏らすかと思った…………もう二度と飛び込まないぞ……」
スライムによって減速した為、何とかほとんど無傷で着陸をしたはいいもののアキの心には大きな傷ができたのだった。
一方アキに衝突されたスライムはと言うとアキが貫通した時の衝撃により、あちこちが爆発しまともに動く事が出来ずにいた。
『我が主!』
「よぉ、ほね太郎……助太刀に来たぞ…………しばらく腰が抜けてまともに動けないけど」
『いえいえ!我が主のあの一撃のおかげでスライムめの体力も大幅に削られた事でしょう!スライム戦はおまかせあれ!』
ほね太郎はカラリと自らの骨を鳴らすとその虚ろな双眸をスライムに向ける。
『正直勝てるか不安でしたがこれなら我々でも勝てるでしょう、
ここで負けては一生、いえ、一死が恥……スライムよあなたにはそうそうに退場していただきましょう!』




