イベント一回戦②
獣の様に豹変したキリサメの攻撃に、腕が飛び一瞬思考が真っ白になる。
しかし、次の瞬間襲って来た痛みに正気に戻る。
「っぐぁぁ?!」
「まだまだまだまだまだまだぁぁぁ!!」
「まずい!」
大盾を軸に空中で回転をする事で二撃目をギリギリ防ぐ事に成功する。
しかし、その勢いを消す事は出来ず、そのままアキは吹き飛ばされ背中から壁へと激突する。
「ぐあっ……」
腕から血を吹き出し、口からは唾液や血を含んだ胃液が吐き出される。
「ぐぼぇっ…………くそ……」
何とか意識を維持した状態のアキは、歪んだ視界の中で再度こちらに突進してこようとしてくるキリサメを視認した。
あの様子なら一直線でしか来れないはず…………
「サモン……」
「がぁぁぁ!!」
――ザシュッ
キリサメが叫んだ次の瞬間、肉が剣により断たれる音が鳴り響いた。
「フーッ、フーッ…………」
「よぉ、いい眺めじゃねぇか……」
アキが壁にもたれかかり、キリサメは剣を壁に突き立てた状態でアキを睨みつけ不規則な呼吸音を出す。
その様子にアキは嘲笑いかけながら作戦が上手くいった事に歓喜する。
アキの視界の先には剣を横に持ちながら半身をゲートに入れたままのスケルトンがいた。
「ウガァ!!」
「危――ねぇ!!」
両足を切断されたキリサメが、雄叫びを上げながら壁に刺さっていた剣を壁に刺さったまま首めがけてガリガリと音をたてながら振り抜く。
それを察知したアキは、頭を下げ何とかそれを回避し、ガラ空きになった腹目掛けて両足で蹴り飛ばす。
するとキリサメの身体は数メートル飛び上がり、後ろへ飛んでいった。
危ねぇ、なんであんな力技できんだよ……
後ろの壁に刻まれた傷に目をやると、心の中で呆れ気味にそう呟く。
っと、そんなことを考えてる場合じゃないな。
アキは改めてキリサメに視線をやる、するとそこには両足が斬られ血をドクドクと流しているのにも関わらず、その足でこちらへ走って来ているのが目に映った。
「ほね太郎!」
『はっ!貴様の相手は私だ!』
「ヴグルアァァァ!!」
――ギャンッ!
両者の雄叫びと共に、金属がぶつかり合う音とそれが互いに互いを切ろうと削り合う音が闘技場内に響く。
「くま五郎フォロー!」
『おうよ!』
ほね太郎とキリサメが鍔迫り合いをしているその隙を逃すアキでは無く、空かさずくま五郎へ命令を出す。
その命令にくま五郎はキリサメ目掛けて弾丸のように飛び出し、運動エネルギーをフルに活用した右ストレートをキリサメの顔面目掛けて振り下ろす。
「ヴァァア!」
『何?!』
くま五郎の拳がキリサメの顔の目の前まで迫ったその瞬間、キリサメが加速し上半身を逸らすことでそれを避けた。
そしてその勢いのままバク転をするとほね太郎の顔を蹴りあげ、アイテムボックスからもう一本の得物を取り出した。
「二刀流かよ……」
その光景にアキが苦笑いしていると、二本の得物を三週振り回すと血の吹き出す足を使い四足歩行でアキに向かって走り出す。
「来やがったか」
「アァァァァ―――」
――ガンッ!!
Agiにかなり振っているのだろう、キリサメは四足歩行にも関わらずとんでもない速度であこの目の前まで迫りその得物をアキ目掛けて振り上げる。
それを辛うじてアキが防ぐと、獣のように荒れ狂ったキリサメの様子が変わった。
「ふ、ふふふ、あなた相手にこの手は通じないからね……冷静に対処しないといけないわけだから」
口から血を流し、不敵な笑みを浮かべながらキリサメはそう笑う。
「めんっどくせぇなこいつ」
「えぇ、えぇ、そうでしょうとも」
話がひとしきり終わると、後ろからほね太郎とくま五郎が一斉に攻撃をしかける。
しかし、それは宙に舞い高速回転し始めたキリサメによって首より下を細切れにされた。
「嘘だろ?」
「ギルド長の冷静に対処しろそうすれば強いって、あれ今までわからなかったけどやっと理解出来たよ。さぁ、もっと踊ろう?」
「クソめんどくせぇなこいつ!」
「あはっ!」
次の瞬間、キリサメが上半身を後ろへ倒しその反動で縦回転しながら近付いて来る。
それをアキは大盾を構え、キリサメがぶつかって来る瞬間に合わせて右足で大盾を蹴り飛ばす。
――ギャリッ!
盾の削れる音に苦い顔をすると、アイテムボックスから盟友の盾を取り出し装備する。
「そんな盾でいいのかな!?」
「うるせぇ!片手で扱うにゃこっちの方がいいに決まってんだろ!」
キリサメに激を飛ばすと、出血によって体力の限界がすぐそこまで来ている事を感じる。
…………まずいな。
「ほらほらほらほら!」
調子に乗ったキリサメは切断された足を地に付けて続け様にアキを斬りつけてくる。
それをアキは何とか盾で受止め、身体を反らし、盾で弾く事で何とか凌いでいる。
変隊は……使えん、他のスケルトンは…………無理か。
絶体絶命だな、どうしよ。
――ガンッ!
どうにか打開策を見出そうとしていたその時、アキの盾がキリサメの一撃によって弾かれた。
あ、まずった。
そう思った瞬間、世界がスローに見えてきた。
ああ、これは負けたな。
――ドサッ
その音と共に一回戦の勝者が決まった。




