討伐依頼
「んで、取り敢えず手紙を渡して筋トレさせられて、明日来いって言われたんだな?」
「おう……」
「はぁ、わかった。お前の事だからあれだろ?どうせエストやタブリンに気を使って一人で行ってきたんだろ?」
ムイスラがやれやれと、肩を竦めため息混じりに言うとスケジュールの書かれたものを見始める。
「俺は明日空いてる、他の奴らは行けるか?」
「わ、私は大丈夫、です」
「んん、私も行けるよ〜」
「僕はお昼までなら」
「よし、なら明日の午前中攻略再開って事で解散だな」
ムイスラが憮然とした態度で言うと、その日は解散となった。
翌日、午前8時頃に全員が準備を整えギルド前に集まっていた。
「よし、みんな集まったな?それじゃギルマスの所にいk」
「シャケくんみんな集まったかい?」
シャケがギルドの扉を開けようと手を触れた瞬間、とんでもない速度で飛び出してきたエルドと、それによって恐ろしい威力を持ったドアがシャケを襲った。
「いっっってぇ!!」
突然の事に対処出来ず、顔面をドアで今日だしたシャケが顔を抑えながら転がり回る。
そしてその原因であるエルドは、転がるシャケを一瞥するとムイスラ達に向き直り、一人一人見定めていくように見回した。
「このパーティーなら大丈夫そうだね、回復役の方は誰か雇ったりするのかい?」
「いや、回復役はそこで転がってるやつです」
――ゴロゴロゴロゴロゴロ――
「シャケ、回復すりゃ収まるだろ」
「なるほど…………うん治った」
ムイスラの言葉にようやく自分を回復したシャケにムイスラを始め、そこにいる全員が苦笑いをうかべていた。
「その回復後からは本物だね、しかしヒーラーで武闘家と同じ事をする子がいるとはね。でも僕はそういう子嫌いじゃないよ。」
エルドは笑顔で大胸筋をピクピクとさせながら丸められた用紙を差し出す。
「はい、これが君達に任せたいクエストだよ、サンドホエールの幼体でかなり手強いけど君のマッスルならいけるはずさ!」
歯をキラリと光らせ爽やかスマイルを浮かべると、親指を立てサムズアップを決め言い切った。
「なんだろうすごいムカつく」
「まぁまぁ、ミーさんや落ち着いて。こういう人種はシャケと同じで関わるとめんどくさいよ」
「おいムイスラてめぇ」
ムイスラの余計な一言にシャケが青筋を浮かべると、それに反応してムイスラが瞬時に距離をとった。
「はっはっはっは!楽しいパーティだね!冒険者はいつでもこうでなくっちゃね!」
エルドはそう言捨てると踵を返しギルドへと戻って行った。
「あ、嵐のような人ですね……」
「エストちゃん、ああいう輩には関わっちゃだめよ?」
「は、はぃ」
「んな事言いながら俺から距離をとってるんじゃねぇ!もういいから行くぞ!」
「「了解!」」
「こういう時だけ息合うよな」
シャケは苦笑いをうかべるも、この愉快なパーティを組めてよかったと思うのだった。
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「もう嫌です!!こんなパーティ抜けます!!」
いつもは大人しいエストが怒鳴り声を上げた。
現在シャケ達はエルドに手配された砂船に乗ってサンドホエール討伐へと向かっていた。
「待て!暴れるなって!」
「嫌ですぅぅ!!」
「ミー!押さえてくれ!」
「あーもー!」
暴れ狂うエストをミーが押え付けると手摺から引き離す。
「お前ここから落ちたら死に戻り確定だぞ?!」
シャケは手摺の向こう側を指さし叫ぶ。
そこには後ろへと流れていく砂漠とそこにうようよといる敵MOBが映っており、落ちたら最後砂漠に放り込まれその中に住まう敵MOB達に蹂躙されるであろう。
「離して!離してください!怖い乗り物に乗るくらいなら身を投じますぅ!!」
声量が三倍になっているエストの横で、案の定タブリンはエチケット袋に嘔吐していた。
「うおぇっ…………」
「サンドホエールが現れました!!」
「あ〜もう滅茶苦茶だよ!!」
エストは暴れ、タブリンは吐き、そんな状況でサンドホエールまでもが乱入し、船上はカオスを極めていた。
「こんな中戦闘とか出来るわけねぇだろ!」




