筋肉ダルマ
シャケが軽快な足取りで向かったのは街の中心にある大きな建物だった。
その建物は他の建物よりも一回り大きく、他の店よりも何倍も活気があった。
「へぇ?ここがギルドか」
そう、シャケは今一人でギルドに来ていたのだった。
「あいつらには悪いがあんな状態でここに来るわけにいかないからな」
弁明のように独り言を漏らしていると、中からフードをした人物が出て来た。
その人物は駆け足でギルドを去ると裏路地に消えて行った。
「なんだ?今の」
シャケが訝しげな顔で裏路地を見ていると、今度はギルドから見事な逆三角形を描いた筋肉モリモリの男が出てきた。
「なんだ?入口でそんな顔して、もしかして入るのが怖いのかい?」
「いんや、そういう訳じゃない。ただフードをしたやつが気になってな」
「フード?ここいらじゃそんな暑い格好する物好きなんていないよ?」
その言葉にシャケは目を見開き数秒考えた後━「いや、水分不足で幻覚でも見えてたのかもな」━と苦し紛れに誤魔化すと、男はシャケの背中をバシバシと数度叩く。
「まぁ立ち話もあれだから、中に入ってきなよ」
「ならちょうどギルドに用事もあるとこだし、お言葉に甘える事にするよ」
逆三角形男と一緒にギルドに入って行くと、ギルド内の視線が自分達に集まっているのを感じた。
そりゃそうだよな、こんな見事な逆三角形と一緒に歩いてりゃそりゃ注目されるよなぁ…………にしてもこの逆三角形さんまではいかないけど、筋肉ムキムキな奴らが多いな。
シャケはギルド内を見回し、そんな感想が頭をよぎったそんな事もあり、上の空でギルドを歩いていると、知らずのうちにギルドの受付まで着いていた。
「メギルちゃん、トレーニングルーム二人よろしくね」
「もう、エルドさんは報告しないでも使っていいっていつも言ってるじゃないですか!!」
逆三角形さんはエルドって名前なのか。
そんでもってこの受付さんの反応からして、エルドさんはある程度上の立場の人なんだろう。
「メギルちゃんこそいつも言ってるでしょう?上に立つ者は下の者のお手本にならなきゃ行けない。僕がちゃんとに言ってトレーニングルームを使えばみんなもそうしてくれるだろう?」
この人脳みそまで筋肉になってそうな見た目だけどしっかり考えてるんだな。
理想の上司ってのはこういう人の事を言うんじゃないだろうか?
「さて、行こうか」
「お、おう」
大人しくエルドについて行くシャケはどこか嫌な予感を感じ取っていた。
理想の上司とは言ったが流石にこの人と筋トレ祭りはしたくないぞ?
俺筋トレとか好きじゃないし。
「さぁ着いたよ、一緒に汗を流し合おうじゃないか!」
「い、いや、俺はギルドマスターに渡すものが……」
「僕がギルドマスターだよ?」
上司どころかここのトップじゃねぇか!?
「俺は手紙を渡しに来ただけなので……」
「よし、一緒に筋トレしながら読もうじゃないか!」
あーダメだこいつ、前言撤回やっぱり脳筋だわ。
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「後3回!はい、1!2!3!!OKー!!」
「ウォエェェッ…………」
「ナイスファイト!!さて、手紙の内容もあらかた読み終わったところだ。しっかり休んでから君の仲間を呼んで明日来てくれるかい?」
「うぃ……」
エルドの言葉にシャケは大人しく従い、部屋を出る。
しかしその直前、エルドに止められた。
「シャケ君だったよね、君筋トレに意味はあると思うかい?」
「まぁ少なくとも無くは無いんじゃ?でもレベル上げた方が」
「それなんだけどね、筋トレはレベルとステータスは上がらないけどパワーアップには繋がってるんだよね」
「えっ?」
シャケの驚いた顔にエルドは満足したのか満面の笑みで話を続ける。
「いいかい?ステータスは言わば補正、戦闘力の真髄は筋肉にあるんだ。子供でもレベルを10まで上げればゴブリンを簡単に屠れる、それ程までにステータスって言うのは凄まじいんだ」
「実例を聞くと出鱈目だな、ステータス」
「でもね、レベル3の鍛え上げた男が戦った方がゴブリンよりも強い敵を倒したんだ。技術が伴えばって思ってるかもしれないがこの鍛え上げた男は技術なんて持っていなかった。持っていたのはそう、己の自慢の筋肉だけだったんだ」
つまりあれか、ステータス×筋肉(元の身体能力)という計算だからそんな結果が生まれた、と。
という事は筋肉以外にも何か強化方法があるのかもしれないな。
「ありがとうエルドさん、お陰で色々見えてきた」
「いやいや、こちらこそ楽しい時間だったよ。今日はしっかり休んでまた明日来てね?」
エルドにサムズアップで返すとギルドを出て待ち合わせの場所に向かっていき━━
━━時間をオーバーした事でこっ酷く怒られた。




