砂漠の街
照りつける太陽の下、活気に満ち溢れた街が目の前に広がっていた。
「ぅっ、うっ、うぅぅっ…………」
「うぇっ…………おっ、ぐっ…………」
そんな活気溢れた空気の中、エストのすすり泣く声とタブリンの今にも吐きそうな声が聞こえてくる。
「ごめんって、あぁでもしなきゃ誰かダウンしてたんだから仕方ないだろ?」
「でも、でもぉっ…………」
「ごめんって、代わりに何か埋め合わせするから」
シャケが苦笑いでそう言うと、エストは目元をぐしぐしと擦り小さく「絶対ですよ?」と返す。
「誰か、僕が吐くわけないですが、エチケット袋みたいなの持ってないですか?」
「ほれ、吐くならこれに吐け」
タブリンのさり気ない━と思っているのは本人だけ━質問に、ムイスラはアイテムボックスから取り出した皮の袋を顔に投げつけた。
「うっぷ、あ、ありがたい」
「NPCといい血といいどうしてこのゲームはこうもリアルなのかねぇ」
「まぁ普通のゲームより面白くて良いじゃん?」
「それもそうだな」
タブリンがマーライオンに変身している横で、シャケとムイスラはそんな事を話していた。
「にしても涼しいわね」
ミーが感心した様子で辺りを見回しながら言う。
ミーの発言にムイスラがメニューを開き、マップを確認する。
このマップの確認は、盗賊専用スキルによる物で、メニューを開くと今まで通ってきた道の半径3キロメートルまで表示される。
「流石オアシス、水源を中心に街や水路が大規模に展開されてるな。こりゃ涼しいわけだわ」
「そういえばムイスラ、街に入ってからある程度歩いて来たが、もう街の中心なのか?」
「そうだな、後1キロあるかないかだな」
「微妙に距離あるな、まぁこの身体ならすぐか」
シャケはムイスラに情報を確認するとアイテムボックスから手紙を取り出す。
その手紙は飾りっけのない真っ白な物で、裏側にこのゲーム┃《世界》の文字が書いてある。
「確かこれをギルドマスターに渡すんだったよな」
「そうそう、そのギルドは街の中心から少しズレたとこなんだが…………直ぐには無理だな」
ムイスラは後ろをついてくるメンバーの様子を見ながらそう零した。
「そうだな、みんな、少しだけ時間とるから街を見回るなりなんなりしてていいぞ〜、12時になったらまたここに集合な」
踵を返し、先程見つけた気になる店へ歩き出しながらシャケが言い捨てる。
ご機嫌ななめなエストの面倒を見るミーは、エストの手を握ると、シャケの言葉に頷きエストが楽しめそうな場所が無いか探し歩く事にした。
「あいつらさりげなくこいつ押し付けてきやがった」
そしてタブリンと、タブリンの面倒を押し付けられたムイスラだけがその場に残った。
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「う〜む、どれがいいかねぇ……」
集合場所から数百メートル離れた出店の一角でシャケは顎に手を当て悩んでいた。
「旦那、どんなものをお探しで?」
「取り敢えず物理防御を挙げられて……そうだな、綺麗なデザインだと尚よしかな」
「それですとこちらになりやすが、よろしいですかい?」
そう言って店主が差し出してきたのは刺々しいペンダントだった。
「んあぁ……こういうのじゃなくてだな、これとか、こういうのとかがいいんだ」
「かしこまりやした、ならこれでどうでやすかね?」
「これいいな、性能も良い、これにするよ」
店主が、再度差し出したものにシャケは頷き、そのペンダントを買っていった。
よしよし、これで次のクエストも少しは安定して戦えるだろ。
シャケはそのペンダントを見て少し微笑むと、それを仕舞い、本命へと向かって歩みを進めていく。
そして、その足でしばらく歩いて行くと一人の少女とぶつかった。
「おっと、大丈夫か?」
「うん大丈夫、ありがとう」
「そうか、なら良かった━━じゃあ俺のぺンダント返して貰えるか?」
「はっ?」
その瞬間、少女は天に足を向け、地に頭を差し出した状態で宙吊りになった。
「くそっ、離せ!」
「何をどうやって盗ったかしらねぇが、それは大事なものでね。返してくれないってんなら武力行使しかないが?」
「チッ、わかったよ。返す」
少女はシャケの脅しに大人しく従い、ぺンダントを投げ返すとじたばたと暴れ始めた。
「これに懲りたらもうしないこったな」
「ぐっ…………」
シャケは少女を優しく降ろすと、街の中心に向けて軽快に歩みを進めていくのだった。




