青龍 フリージア
美しい湖の上を飛び回る龍はこちらを見つけるとゆるりと方向転換し、その湖の水面へとその身体を降ろした。
それによりその湖は一瞬で凍り、鏡のように青空を映し出す氷へと変貌した。
何か視界にポップして来た、なんだこれは?
ソート山の主 青龍 フリージア
━━ブッフォッ!!
その名前を見た瞬間ある人物のことを思い出したアキは盛大に吹き、腹を抱えピクピクとしていた。
「どうした?」
「な、なんでもない…………しかし、今までのBOSSにはあんな表示無かったのに何であいつはあるんだ?」
「知らんのか?あいつが雪原エリアの頂点だからだ」
…………それはつまり今までのはマジの中級BOSSだったと?なんなら中BOSSと思ってたやつは小BOSSレベルってことか?
「…………まさかとは思うがあんなやつと戦うのか?」
「まさかも何もあいつを倒すんだが?」
あー、こいつ頭おかしいの忘れてたわ。
「タンクとスケルトン達よろしくな?」
「だぁぁもうわかったわ!!この野郎、やってやろうじゃねぇか!!」
俺は覚悟を決める、というより九割九部自暴自棄になって全勢力を呼び出しタウントを発動する。
「かかってこいアオダイショウが!!」
アキがそう叫ぶと龍はゆっくりとその身体を浮かし、一切警戒の色を見せずにこちらを見据えるだけだった。
「アキ!油断するなよ!」
「お、おう!」
龍の様子に一瞬で警戒が解けていたところに入ったルアンの喝により、緩んでいた糸を一気に張りつめる。
『こんな所に人間が来るとはな、どれ暇していたところだ。軽ーくぶちのめしてやろう』
「しゃ、シャベッタアァァァ!!」
「はいどーーん」
フリージアが喋り、そしてアキが驚いているとその横からルアンが手に持った巨大な鈍器でフリージアの顎を打ち上げた。
「二人して油断しすぎだろ」
「いや、ここは話を聞くのが定石じゃないのか?てかあれは人としてカウントしないだろ」
「定石なんて知らない、なんでみんな一番倒しやすいタイミングを見てるだけですませるかな。変身とか会話のシーンとか簡単に殺せるだろ……」
うん、こいつに常識的なものを求めては行けない。
こいつはネジとか色々ぶっ飛んでやがるんだ。
俺は頭の中でそう無理やり納得すると顎をかち上げられたフリージアの方を見る。
すると顎を打たれた痛みに悶え、凍った湖をバキバキとわりながらのたうち回るフリージアが視界に入った。
あいつ、本当にBOSSか?
そののたうち回る様子は先程の威圧感は感じられず本当にBOSSなのか疑うレベルであった。
『うっぐぅぅぅぅぅぅう!!』
なんとのたうち回るフリージアの目からはあろう事か涙が零れており、先程までの威厳など綺麗さっぱり消えて無くなっていた。
『お、おのれ、おのれぇぇ…………もうコロず!!』
フリージアはしばらく暴れた後、のたうち回るのをやめこちらに涙の溢れている瞳で睨みつけながらそのセリフを吐いた。
「なんか罪悪感が湧いてくるんだが」
「早く構えとけ!」
「なんで━━ぐあっ?!」
その瞬間、念の為に構えていた大盾からとてつもない衝撃が伝わって来た。
油断していた結果踏ん張りが効かずアキは勢いのまま吹き飛ばされた。
『姉御、大丈夫か?』
「お、おう。ありがとうくま五郎、そして俺は男だから姉御呼ぶな」
『小さいが乳つけてるのに女じゃないのか?』
「う、うるさいわ!美乳に設定したんだよ!」
くま五郎の頭をペシッと音を立てながら叩くと、くま五郎から降りアサルトチャージで間合いを詰め元の場所に戻る。
「お前ら、やっちまっていいぞ。これは泣き出してからのが厄介そうだ」
『『はっ!!』』
「やっとやる気になったか。そんじゃ、俺はこの馬鹿力をフルに発揮してアテナに頼まれた材料を手に入れるとしますかねぇ」
ルアンはニヤニヤと呟くと両手に棍棒のようなものを所持し、クラウチングスタートのような姿勢をとる。
「あ、おい待て!何かよからぬ事を━━」
「どぉぉっせぇぇえい!!」
「おっぶぁぁあ?!」
ルアンが嬉々としてフリージアに飛び込むとその衝撃波によって砕けた氷の欠片が飛び散り、アキはなんとかそれを防ぐのだった。
「馬鹿野郎!!」
そのアキの心からの叫びは、タウントでアキ以外をターゲットに出来ないフリージアを笑顔で殴るルアンには届かず、フリージアの攻撃を防ぐ音にかき消されたのだった。




