転送装置
「はぁ、はぁ、つ、疲れた……」
「おいおい、まだまだ先は長いんだぞ?こんな所でへばってたらいつまで経っても着かないぞ?」
あの後順調に山の中腹部へと辿り着いた二人だったが、流石にVRにまだ慣れていないアキは長時間の登山に疲れてしゃがみこんでしまっていた。
これはあれだ、身体は疲れてないけど長時間の運動で脳が疲れたと信号を送ってる。
身体自体はスムーズに動くけど思ったように動いてはくれない。
まるで脳がこれ以上動くと限界を迎えると危惧しているような、そんな感じだ
「さてはお前、日頃運動してないな?」
「そうだな……あんま外出て動くなんて事してないな」
「だろうな、この世かっ…………ゲームは身体自体は無限に動かせる、だが脳みそは違う。脳が疲れたと思えばそれに呼応して身体も動かなくなる、だから現実で体力を作っておかないとこっちでもそうそうに音を上げることになる」
「お前今この世界って」
「うるさい早く行くぞ」
こいつ露骨に逸らしたな?てことはやっぱり……
「お前達本当の神だったりするのか」
「あ〜あ〜聞こえな〜い、ゲームを楽しまないやつにはログアウトしてもらおうかな〜」
ルアンの意味深な発言にアキがつい踏み込んだ質問をすると、ルアンはわざとらしくメニューを開き強制ログアウトという表示をアキの目の前にチラつかせた。
「ちょっと待ってくれ、わかった、わかった。これ以上は踏み込まないからそれだけはやめてくれ、このゲーム案外面白くて気に入ってるんだから」
「よろしい」
それにアキが焦るように弁明をすると、ルアンはニヤニヤとしながらメニューを閉じ山登りを再開した。
まったく、面倒なやつだな。
「うん、そろそろ観測者達も山登りに飽きてきたところだろう」
「観測者?誰だそれ」
「まぁどうだっていいじゃないか、それよりちょっと裏技を使うから付いてこい」
「おいそれって職権乱用なんじゃ━━」
「使える物はなんでも使う、そしてこのままこの速度で登ってくのも時間の無駄だからな。あいつらの用意した設備使うぞ」
ルアンはそう言うとアイテムボックスから巨大なスコップのようなものを取り出し、右足を軸に回転を始めると━━
━━その勢いのまま振り抜き、振り積もっていた雪を全て吹き飛ばし山肌を露見させた。
「うっぐおぉぉ?!」
振り積もっていた雪を一気に飛ばすほどの力が込められた一振を間近にいたアキが何の影響も受けない訳もなく、その風圧にアキは吹き飛ばされそうになり必死に耐えていた。
こいつ人の事全くと言っていいほど考えてねぇ!!
とにかくこの風をどうにかしないと下の方まで転がって雪だるまになりかねん。
即座にそれを察した俺は大盾を取り出し、身体の前に突き出すと風を避けるように大盾を斜めに倒しその風圧をやり過ごす。
吹き荒れる暴風をやり過ごすと、ルアンを中心とした半径50メートルにはゴツゴツとした山肌が露出していた。
なんて馬鹿力だよ、一振でこれとか本気になったらそこいらの中BOSSレベルなら一撃で吹き飛びそうだぞ?
「よし、これで綺麗さっぱり無くなったな」
「よしじゃねぇ!こっちの事も考えろ!」
「あぁ、まぁ吹き飛ばされなかったし結果オーライだろ?」
俺の叫びにルアンはそう答えるとぎこちない爽やか笑顔を浮かべなんとか流そうとする。
ぶん殴りたい、この笑顔。
「もういい、それで?その裏技とやらの場所は?」
「あーー確かにここだったと思うんだが…………ないな、すまんもうちょっとこっち側探してみることにする」
「あ?ちょっと待てそれって━━うぶわぁぁぁ?!」
俺がルアンに問いかけたその瞬間手に持っていた物を先程と同じように振り抜き、再度盾を風避けにして何とか事なきを得る。
「なぁ、なんなの?馬鹿なのアホなの死ぬの?」
「馬鹿でもなけりゃ死にもしない」
アキがルアンに対し恨みの籠った視線と声を投げると、ルアンは何でもないように返し雪の中から出てきた不思議な装置をいじり始めた。
「えーっと、確かここをこうすれば………………よし、使えるぞ。多分向こうは━━」
「いいからさっさと行こうぜ」
不機嫌なアキはルアンの報告を録に聞かずさっさと転送装置の上に乗っかる。
「まあいいか、行くぞ?」
「さっさとしてくれ」
アキに応えるように転送装置が作動し、視界が真っ白に染まり始めた。
そしてその視界がはっきりとしてきた頃、そこには青い空に透き通った湖、そして圧倒的威圧感を放つ龍がいた。
「…………ウッソだろお前」
「だから言ったじゃん、聞いてなかったけど」




