初めての採取依頼
気がつけば冒険者登録して9ヶ月が過ぎて、この世界に来て一年になる。
冒険者組合の建物に併設された冒険者用の施設にもすっかりと慣れたもの。
毎日のように街の中での仕事をこなしていたのもあり、顔は覚えてもらえたと思う。
組合の受付の方にはミスもなく真面目で丁寧に手早くこなしてくれるから評判はいいですよと言ってもらえているのは結構うれしかったりする。
仕事を評価してもらえることっていつ以来だったか。
ずっと言われた仕事をこなす日々で、ただ消費されていく感じは覚えてる。
日本での仕事の様子を思い出してみるが、ちょっとだけもう昔のことのように感じてしまうのはこの世界にちょっとだけ馴染めてきたのかもしれない。
私たちはチームで依頼を達成していったおかげで、着実にランクを上げることが出来た。
GランクからEランクまで上がり、ようやく町の外に出る依頼を受けることが出来るようになった。
今日はレッドラムという赤い色のスイセンのような形状をした花を籠いっぱいに持ち替えるというもの。
街と森の境にたくさん生えてるからあまり苦労はしないという話を聞いて、私たちは街の外に出た。
歩いても三十分しないところでちらほらとレッドラムの花を見つけることが出来たので、それを根っこから取り、土を落として籠の中に仕舞っていく。
ハリーポッターで見たマンドレイクみたいなものが根っこについているのではとちょっとだけ疑いを持っていたのだが、普通の草の根っこで安心を覚える。
「そう言えば、ラウンドベアみたいな巨大なのじゃないけどさ、大きくなってる魔物が目撃がちょくちょくあるらしいよー」
「へー面白そうじゃん」
ジーンはどうやら早く討伐の依頼をこなしたいらしい。
街での作業の時によくそんなことをぼやいていた。
私としては安全な依頼の方が気持ちとしては楽でいいのだけど。
やはり、凶器を持った人というのは一年過ごした中でもまだ慣れない。
兄弟も姉妹もいた記憶がないのだから、きっといなかったに違いない。それに両親にもあまり逆らったこともない気がする。
ずっと両親の言うことを聞いて、学校では目立っていなかったと思う。
そんな事だから、口喧嘩もしたことがなければ、手が出るようなものなんて全く経験がない。
人に怒るというのも実はよく分かってない。
怒っていた気がすることもあるのだが、本当にそうだったかと聞かれると違うかもしれないというぐらいには自信がない。
だから、怒ったことも喧嘩もしたことがないから、戦いというのは出来たら避けたい。
けど、一年過ごせば、この世界がどんなところか嫌でも分かる。
日本に比べて、大きく治安が悪い。
衛兵は機能しているから、まだ全然マシだよとクリスは言っていたから、他の街はどんなことになっているのかと少々怖くなってしまう。
そう言えば、海外のニュースや噂話で、そういうことを聞いて、怖くなっていけなかったなとふと思い出す。
ぼんやりとしていると言われるとちょっと違う気がすると、自分では否定したいのだが、それでも人から見たらそう見えるらしい私はきっと狙われそうだったので。
そんな私だったはずなのに、今ではちょっとだけ新しい景色が見えるのではないかとちょっとわくわくしてしまっている。
「ノナも魔物なんて出ない方がいいよねー?」
クリスが語り掛けると、ノナさんは頷いた。
ノナさんはこれまで一緒にいたのだが、一言もしゃべることが出来ていない。
見ている限り、話したいと思っているところはある。
私の願望も込みなのだが、口を動かそうとしている雰囲気はあるが、言葉として発せられていない。
そこには精神的なものがあるかもしれないし、はたまた声帯に何か異常があってとかそういう事情かもしれない。
それに少しでも寄り添えるようにしてあげたいな、って思ってしまう。
私自身はそんなに会話が得意ではない。面白い事とか咄嗟に言えないし、場を和ませることとかも出来ない。
それでもみんなと話すことを楽しいと思えるから、ノナさんもその輪に加わってくれたらいいな。
肉体的な物なら、この世界には希少だが治癒魔法を使える人がいるとか言われているので、そういう人に出会って私が使えるようになって、治してあげてもいい。
きっと出来るようになるまでいっぱい時間はかかるかもしれないけど、チームのためだから頑張れる。
「ムツミだって、装備を新調したんだから試したいよな?」
ジーンに話を振られて、花を積んでいた手が止まる。
新調というか、全部新しく購入しただけであるが。
弓は洞窟に置きっぱなしにしていたし、防具といえる防具は何も身に着けていなくて、どうやってこれまで生活していたか心配されるような格好だった。
それもラウンドベアの討伐報酬で、一式全部買うことになった私は、皮のベストにグローブ、ズボンとしっかり着こんでいる。
弓もしっかりとしたお店で売っていた物、クリスが選んでくれたものだけどと、ちゃんと矢じりのある矢もある。あとは杖も背負っている。こちらは魔法も使えるだろうと言われて、杖は魔法の発動の手助けになるのだから持っておいた方がいいと言われるままに購入してしまった。
あとはずっと身に着けていた毛皮なのだが、こちらもしっかりとマントにしてもらって今も身に着けている。
武器については一回も使っていないので、新品同様。
服は使っていたので、ちゃんと体に馴染んでいる。
「出なければ、出ないでいいのではないですか……?」
「三対一だね、ジーン」
「あーあ! 早く階級上げてーなー!」
組合としても、新人には出来るだけ経験を順番に積ませてしっかりとした冒険者にしたいのも分かる。
とにかく危険が多いのだから、新人なんて何をしでかすのか分からない。
そうならないような処理である。処置であるのだが、ジーンの気持ち分かってしまう。
組織って難しいなーと他人事のように組合の人たちの苦労を考える。
「そう言えば、魔物と動物の違いって何なんでしょうか?」
んーとクリスが顎に手を当てて考える。
「一般的に言われてることでもいい?」
「あ、はい」
「一般的には魔物と動物ではそんなに差異はないみたい。というのも、動物が瘴気っていうのを取り込み過ぎると、体が変化して魔物に変わるとか。その瘴気って何って聞かれると、私よりも本職の魔法使いの人たちや学問として学んでいる人たちに聞いた方がいいけどね」
人間も瘴気を取り込んでいるのだが、魔法に使用したり、体の強化に使ったりして、上手く付き合っていっているとか。
魔法を使う時、そんなことをしていたのかと自分では全く無自覚だったことを思い出す。
「それで魔物になると、体も大きくなるし、角が生えたり、牙が生えたり、爪が鋭くなったり、と攻撃性が増して、意識も攻撃的に変化するって話。あとは血の匂いに敏感だったり、とかかなー……あ、だから、動物たちは魔物が生まれると逃げるんだよね。元々同族だったとしても、ね」
森の中で出会った攻撃的な動物たちは魔物だったということだ。
「殺さずとかは出来るのでしょうか」
「目が合ったら、本能的に襲い掛かってくるみたいだから無理じゃない?」
「そうですよね」
魔物であれ必要以上な狩りというのはなんだか気が引ける。
地球でそうやって絶滅して行った生物を知っているせいもあるかもしれない。
けど、火の粉は払わないと、みんなも私も危険な目に遭う。
それは良くないと思うのだけど、未だにその割り切りが出来ていないのはダメなんだと思う。
このままではみんなの足を引っ張ってしまいそう。
そんな予感がした。
クリスとの話が一段落したところで、ノナさんが立ち上がり、ロープの下に手を入れたと思ったら、短剣を両手に持っていた。
それを見て、みんなが武器を構えだす。私は急いで籠を後ろに置いた。
弓に矢を番えて、構えるのだが、実戦経験なんて行き当たりのサバイバル戦しかない。
だから、計画する先も分からなければ、ノナさんみたい察知することも無理だ。
ノナさんが上を見ると同時に、視界が陰で包まれる。
急に暗くなったと思ったら、押し倒されていた。
目の前には大きな口に太い牙。
狼の魔物が私に覆いかぶさっているところだった。




