チーム
「お待たせしました。こちらが冒険者のタグになります」
渡された冒険者タグというものは、手のひらに収まるサイズの縦長の金属板だった。
ただ、細かい装飾が施されているのと、よく見れば私の名前が彫り込まれていた。
「他の街に入る際の身分証の代わりにもなりますので、無くさないように気を付けてください」
免許証みたいなものか。
気をつけないといけない。
「……冒険者のランクというのはご存じでしょうか?」
「恥ずかしながら、何も……」
「そうですよね……一応これも業務に含まれていますのでご説明します」
きっと、そんな説明なんてしないで、ここに来る人はみんな知っているんだろうな。
この受付の人が業務に忠実な人で良かった。
「お願いします」
私が告げると、受付の女性はゆっくりとした口調で説明を始める。
「冒険者にはランクがあります。AからGまでの七階級あります。Aの上にもSというランクがありますが、こちらは特殊なもので、支部長二名とSランク二名の推薦になることだけを今は覚えているだけでよろしいかと思います」
最初はアルファベットまであるんだと、驚いてしまった。
この世界、もしかして、日本人結構来ている可能性もあるのではないだろうか。
いつか誰かに聞いてみようと心のメモ帳に書いておいた。
「ムツミさんは現状最低のGランクです。これは登録してすぐは誰もがここからスタートなので、気を落とすことはありません。Gランクの依頼は基本的に街中の手伝いからになるかと思います。そこで……」
受付の女性が私の顔を見て、驚いて少しだけ目が見開く。
あれ、私どんな顔をしていたのだろうか。
「いえ、失礼しました。そんな目を輝かせて説明を聞く方を初めて見ましたので」
「す、すみません、そんなつもりはなかったのですが」
「恥ずかしがることはありませんよ。冒険者に登録してすぐの仕事は街の中が主でごねる方も多くいますので、ただ、しっかりと仕事を重ねて信用と多くの依頼をこなした評価点があれば次のランクに上がれますので、意欲的にこなしてもらえる方が紹介する私たちとしてもいい物を回してあげようとするかもしれません」
信用をする職業というのはよく理解している。
そして、私は会社という後ろ盾もなくて、私は私で守るしかないということ。
「Dランクから街の外での採取以来など始まります。基本的には後ろのボードに貼ってある依頼書から、一人またはチームを組んで依頼を行ってもらうことになります。依頼が決まりましたら、こちらに持ってきてもらえれば、処理いたしますが、基本的には手付金を払ってからの開始となります」
割としっかりと制度になっているというのも、きっとそれほどの積み重ねがあるということなんだろう。
それにしても、お金がかかるのか。
今私は無一文なのだけど、大丈夫なのだろうか心配で仕方ない。
「チームを組んで依頼をしてもいいと言いましたが、チームを組んだ際の申請はいりません。報奨金の支払いの際に何人でと言ってもらえたら、等分させてもらいますので……あとはそうですね、Aランク以上の方が三名またはSランクの人一名でギルドというものも作ることが可能です。志を共にした同士と集まって多くの依頼をこなしていく感じでしょうか。この街にも現状二つのギルドが存在しています。興味があれば覗いてみるのもいいでしょう」
そういう集まりみたいなものも作れるのかと、夢のまた夢の話のような気がする。
ギルド、か。
きっと加入したら、先達の方から色々と教えてもらったりとかあるのかもしれないが、今のところあまり興味を惹かれない。
ただ、今は自分でいろいろと試してみたいというところでしかないから。
「説明は以上となります」
分かった様な気がするが、全部きっと頭に入っていないと思う。
私が頭の中で情報を整理していたのだが、次の一言で全て吹き飛んでしまう。
「冒険者タグの発行の費用ですが」
「ムツミ―!」
頭が真っ白になりかけたところで、階段から勢いよくクリスが降りてきた。
「もうめちゃくちゃ怒られたよー! 慰めてームツミー!」
そのまま抱き着いてきて、そのまま押しのけるわけにもいかず、ぎこちなくとりあえず頭を撫でておくことにした。
「ムツミ、これ」
ゆっくりと降りてきたジーンが、割り札のようなものを渡してきたが、ジーンも少し雰囲気がぐったりとしている。
危ないことをしたんだ、本来なら、怒ってもらえてそれで済むなら、良かったのだろう。
「これは……?」
「ラウンドベアの討伐の報酬」
あ、そう言えばそうだった。
良かった。
冒険者タグの支払いが出来ないなんてことがなくて。
「あの……すみません、これから冒険者タグの代金差し引いてもらう形でいいでしょうか……?」
私が割り札のようなものを受付の上に置くと、それを見た女性が私と割り札のようなものを数度視線を行き来させると、コホンと咳を吐いた。
「……冒険者登録する前のことですので、討伐による評価点は加算されませんがよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
だって、私はまだ何もしていない。
私の返事が予想外のように受付の女性が固まっているが、私がそれを見て首を傾げたところでハッとしたように動き出した。
「……報酬を用意しますので少々お待ちください」
受付の女性が奥に引っ込んだところで、まだ抱き着いていたクリスが顔を上げた。
「普通はごねるんだよ? 討伐したんだから、評価しろーって」
「え、でもそんな事いけないのではないですか?」
ジーンが言ってたようにちゃんとやらないと信用が落ちると思うのだが、私の基準がおかしいのだろうか。
「ムツミは真面目だけど、そこがいいから変わらないでねー?」
「あ、はい……?」
普通のことではないかと思うのだけどと、考えてしまう。
多分、日本とここでは基準が違うのかもしれないのだけど、私は私らしくいればいいのだと勝手に解釈をする。
「それでその後ろにいるのは誰なんだよ」
「え?」
振り向けば、私の後ろにノナさんが立っていた。
クリスを体から剥がすとちょっとだけ不満そうにしていたのだが、彼女を紹介しないわけにはいかない。
私が彼女の肩を持って、自分の前に出す。
「ノナさんです。さっきそこで依頼を見ていたので声を掛けました。階級も多分、私と一緒です」
そうか、とジーンが手を差し出す。
「ユージーンだ、よろしく」
「私はクラリス・ニル。よろしくね」
クリスはノナさんの手を勝手に握って握手をしていた。
「……」
マフラーが動いて何かしゃべっているような気がするのだけど、そのたびに黒いオーラが漏れてきている。
二回目だけど、ちょっとカッコイイ。
私もそう言うの出せたりしないかなとちょっとだけ憧れてしまう。
「あまり話すのが得意ではないのかもしれないのですが」
私がそう言うと、ノナさんの頭が下がったような気がする。
なんだか不味いことを言ったのかもしれない。
もしかして、何か理由があってのかもしれない。
「ま、どっちでもいいぞ。それでその子に声かけてどうしたんだ?」
「あのですね、それで……」
自分から人を誘うなんていつ振りなのだろうか。
十年単位で前かも知れない。
それぐらい私は孤独に過ごしていたような気がする。
かなり緊張して、喉がカラカラだ。
だけど、言わなくちゃ。
そうしたいって思ったから、手を伸ばさないといけない。
無理だって、ずっと手を上げかけては下ろしていた。
諦めるってのは簡単だって、よく知っている。
そうしていた方が楽なことも。
それをずっと繰り返していたんだから。
今はそうしたくないって強く思える。
この体が若いからかもしれない。
強くエネルギッシュで、奥底から力が湧いてくる。
「聞きました。冒険者はチームを組むって……だから、私とジーンとクリスとノナさんでチームを組みませんか?」
ジーンとクリスは顔を見合わせていた。
ノナさんは顔をのけ反らせて、私を見ていた。ちょっと首が心配になりそうなほどの角度で。
「どう……でしょうか?」
断れるかもしれないと、心配になって思わずもう一度聞いてしまう。
ノナさんが肩を掴んでいた私の手を外した。
そうされると、思わず、あっと声が漏れてしまった。
そこにクリスが再び、さっきよりも強く抱き着いてきた。
「もちろん! こっちから言おうとしてたのにー! ジーンともムツミと一緒にチーム組みたいって!」
「ただ、しばらくは街の中での手伝いばっかだけどな」
私の手から離れたノナさんは、私の方を向いていた。
そして、しっかりと、私の目を見て頷いてくれた。
それを見て、自然と口元に笑みが浮かんできてしまうのを感じる。
みんなを一通り見てから、
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、クリスが、何でムツミがお礼を言うの? 変なのと言われてしまう。
抱き着かれていたところで思い出すことがある。
「あ、あの、クリス……そのこの後、時間はありますか?」
「暇だけどー……どうしたの?」
「あの少々困ったことがありまして……」
ジーンに見られるが一番、良くないので、抱き着いたクリスをそのままにジーンに背を向けた。
「肌着とか、そういうお店を紹介してもらえたら……」
クリスにだけ見えるように、毛皮の合わせを少しずらして、中が見えるようにする。
「あー……それでずっとその暑そうな格好してたんだねー……」
「はい……」
クリスたちに最初にあった時に作った白旗。
その素材のために、胸下から、おへそ辺りまで破いたワンピース。
ツタでしっかり縛ったから、脱げなかったが、ミニスカート状態になっているのと、ほぼ胸を隠すだけに分離したワンピースの恰好。
それに、下着を身に着けていないせいで、ずっと風通しが良くこの毛皮がないといけなかった。
「報奨金ももらえるし、買いに行こっか」
「はい」
私とクリスが会話を終えたところで、受付の女性が戻ってきた。
ただ、受付の前で何をやっているのですかと言われて、恥ずかしくなって顔を上げることが出来ず、俯いたまま報奨金が入った革袋を受け取った。




