訓練と依頼
「あの、これどうやってなくしたらいいでしょうか」
私が慌てて聞いたところでエウラリアさんの調子は全く変わらない。
「そうですね、爆発させてしまうのは危ないので、ゆっくり自分の中に収めて行くのがいいかなと思いますよ」
「え、あのどうやって」
「さっき集めたのとは逆のことをしたらいいですよ」
先程はどうやったのか思い出す。
自分の周りに渦巻いていたものを掌に集中させるイメージを持っていたんだ。
だから、これは私に渦巻いていた物。
球の形をしているのだけど、渦巻いている小さな台風とかそういうイメージでいいだろう。
それを解して、自分の周りに再び渦巻かせる。
目を閉じて、イメージを固まらせる。
焦らないでいい。
リンゴのを剥くように外側からゆっくりと小さくしていこう。
イメージの中では完璧に行えている。
きっとうまく行っていると思って、目を開けるとそこには何もなく消えていた。
「上手くいきましたね。ただ、まさかこうなるとは―……」
エウラリアさんの視線が私の掌ではなくて、足元に向いていることに気が付いた。
私も足元に目を向けると、私を中心にした数メートルだけ不自然に草花が育っていた。
「あの……これは、元に戻すとこういうことは」
「起きませんよ。一切合切このような現象が起きたことはありません」
きっぱりと切り捨てられる。
ただ、とエウラリアさんは続けて口を開く。
「西側の荒廃した地では、とても役に立てそうな力ですね。もしかしたら、ただ草花が育つ以外にも効力のある力かも知れませんから」
「それが私の役目なのでしょうか……?」
「いいえ、それも貴方の役目です」
エウラリアさんの口元が微笑みを浮かべる。
「貴方は冒険者なのですよ? 何も縛られない、自由に世界を回りなさい。その目で世界を確かめなさい。貴方を縛るものは貴方だけですから」
いつかリタさんが言っていた言葉だ。
「……はい、いつか西側の地にも行ってみたいと思います」
「ええ、良いと思いますよ。こちらとは違って豆や穀類を使ったとってもスパイスの効いたスープなんかが美味しいですからね」
俯いていた気持ちが浮上して、自然と顔がほころぶのを感じた。
「それはとても楽しみです」
「ええ、人間の住む地域に飽きたら亜人たちの住むところに行ってもいいですからね」
「……危なくないですか?」
一応、私が知らない時代、歴史の戦争を起こしたとされている種族である。
警戒はしておきたい気持ちはある。
積極的に敵対するつもりはないが、警戒しないでみんなが傷つくのはもっと嫌だから。
「それは私がどうこう言うよりも、自分の目で確かめた方がいいですね」
「……そうですね、そうします」
「ええ、その方が冒険者らしくていいと思いますよ」
この世界には未知が多い。
私にとっても、未知が多くて、どれも新鮮。
こうして強い肉体や魔力をもらったことにも何か意味があるかもしれないが、こうして世界を回る冒険者という仕事は最適解だったのかもしれない。
そう私は思っている。
☆
それから二カ月。
ずっと同じ場所にいたわけでもなく、移動しながら特訓の方を行っていた。
気が付けば幻霧山が大分近い位置になっていき、一度通り過ぎる道程を取っていた。
今行っても相手にならないというのが二人の意見であり、みんなそのことには同意していた。
特訓をしながら、村に私たちだけで降りては食料と村からの依頼をこなしていく。
お金はどうしても必要であるし、依頼をこなして組合からの評価も必要。
それが両立できるという点では、いいのだけど。
幻霧山が背後に回って、王国との領境が近くになってきた小さな町。
そこにはちゃんと商人がいるし、小さいながらも冒険者組合の支部が置かれていた。
私たちが到着すると、何故だか歓迎されて、奥に通された。
私たちの前に座るのは支部長代理と言われた年齢の若い女性。
支部長といえば大体年配で大柄な男性なのだが、年だけ見れば私たちよりも少し上で三重は超えていないような見た目はしている。
何か支部長に事情があったのだろうと思っていると一枚の依頼書を私たちの方に差し出した。
そこには「盗賊団の討伐」に関して書かれていた。
「これは……」
「その年齢でBランク、腕の立つ方々だと思い、どうかこの依頼を受けていただきたく思います」
頭まで下げられてしまうと、話を聞かないといけない気分になる。
クリスにはよく、「無視していいと思うよ。全部話聞いてたら私たち何にもできなくなっちゃうし」と言われたこともある。
ただ、私がしたいのならした方がいいよとも言われたので、好きなようにさせてもらっている。
盗賊団の討伐の依頼書に目を落とす。
アジトと思われる場所は王国とホープレイの境にある山中。
規模はそれなりにあるらしくて予想としては五十人ほど、武装もしっかりとしている。
捕らえられいる者がいる可能性あり、と大変そうな依頼だと感じた。
「今はまだこの街に目を向けていませんし、ここを落とせるほどの兵力もないでしょうが、どんどん勢力を伸ばしているので今、このタイミングで叩いておきたいとこちらは思ってます」
「そうですね……ここの冒険者や兵士の方々にやってもらうというのは?」
「冒険者はまだここが出来たばかりなのであまり……兵士に命令できる権限が冒険者組合にはありません。それを行える方に話を聞いてもらうのは出来るかもですが……」
確かに小さな組合の建物。
最近できたばかりというのも頷ける。
「近々、アトランタルの方にも掲示される予定となっていますが、皆様が訪れると聞いて……ぜひともお願いしたく思います」
迷ったのだが、結局受けることにした。
エウラリアさんも時々魔法を見ながらつぶやいていたことがある。
「そろそろ実践、やってみた方がいいかもしれませんね」
この話を聞いたら、きっと「では、その依頼を受けましょうか」と言いそうなのだ。
支部長代理の女性にそのことを告げると、頭を再度下げられた。
こちらとしても冒険者として組合への評価につながるし、お金にもつながるので持ちつ持たれつなのだが、そうでもない困り具合だったようだ。
そうして、必要な物だけを買って、エウラリアさんとキャロライナさん二人がいる山の方に向かう。
あの二人は町には、いや、正確には人が集まる場所に行かない。
どうやって、世情を知っているのか謎ではあるのだが、どこか知らないところに情報網を持っていたとしても不思議ではない。
二人の顔はとても広いようだから。
二人と合流して、依頼を受けてきたことを告げる。
「盗賊の討伐ですか、いいじゃないですか」
「お二人はどうしますか?」
「あたしはパスだ」
「私は遠くからみなさんの様子を見させてもらいますね」
やる気はないという確認はとれた。
元々自分たちでどうこうする予定だったので、それはそれで問題はない。
ただ、二人にも予定があるのかどうかだけ一応確認してみただけだから。
「人質には気を付けてくださいね」
「ええ?」
それがどういう意味を示すのか理解が出来ていなかった。
「躊躇ったらいけませんからね」
何に対してなのか具体的に述べられていない。
だけど、この二人であれば人質がいてもいなくてもそのまま相手を殺しに行く。
そんなことをしても意味がない。
そうやって足を止めるのなら好都合と言うように相手を殺してしまう。
その過程で人質が傷ついたとしてもそれは仕方のない事だと割り切って。
それが私にできる事なのか分からない。
ただ、それぐらいの覚悟を持って臨まなければいけないということだろう。
「盗賊のアジトですかー……昔キャリーが洞窟をアジトにしている盗賊相手に大暴れをしてですね、まだ洞窟内に人がいるのに崩してしまったことがあったんですよね」
「昔のことばかり言ってると年寄り扱いするぞ」
「私の姿を見てください、どこからどう見ても年寄りに見えないと思いますよ?」
キャロライナさんの規模の違った暴れっぷりを聞いて、私は自分を戒める。
前に作った魔力の球。
威力と範囲が広く強い魔法の使用は控えよう、と。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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