私だけのんびりした特訓
みんながキャロライナさんに色々してもらっている間、私はエウラリアさんの隣に腰掛けてそれを見ていた。
「あの……本当にこれでいいのでしょうか?」
「あなたの場合は、特に魔法のコントロールを重点的にすべきでしょうから、それで問題ないでしょう」
私がやっているのは、色々な属性を持った球を自分の周囲に浮かべてそれを高速で動かすということだけ。
自分を中心に同径でぶつからないように回す。
たったそれだけ。
慣れてきたら属性を持った球をどんどん増やして、ぶつからないように回すだけの訓練といっていいのか分からないもの。
「ムツミさんは他の人にないほどの魔力を持っていますから、いまさら人がするような魔法の訓練なんて必要ないんですよね」
エウラリアさんは目隠しをしたまま、みんなの方を見ている。
あれで危なげなく動けているのだから、見えていないということはなさそうなのだが、その原理は外から見ていてもさっぱり分からない。
「それなら、治療魔法を覚えた方が……」
「それはキャリーの特訓が本格的になれば否が応でもやれますから大丈夫ですよ」
つまりそれぐらいのケガを平気でする特訓をみんなが受けるということなのだろう。
見ているこっちが心配になってしまう。
そんな訓練を受けて大丈夫なのかと。
「心配そうですね」
「さっきの言葉を聞いて心配にならないわけないと思うのですけど……」
「みなさん成人しているのでしょう? だったら自己責任だと思うんですけどねぇ」
「仲間ですから、心配して当然かと思います」
私が真面目に答えると、エウラリアさんは何がおかしいのか鈴を転がしたような笑い声をあげていた。
「変なことを言いましたか?」
「いいえ、仲間思い結構なことだと思いますよ?」
なんだか棘のあるような言い方だ。
エウラリアさんは明らかに魔法に関してはかなり腕前で知識も豊富で、師事したい気持ちはあるのだが、素直にそう思わせてくれない。
きっと言動に問題があるからだろうと勝手に結論付けることにした。
「ムツミさんは見た目は冷静そうなんですけど、その実色々と不安定ですよね」
「……」
冷静に物事を見ている。
それは暗に感情の起伏が少ないとも受け取れる。
自分でも自覚はあることだし、似たようなことを言われた記憶がある。
だから、それは私にとっては誉め言葉として受け取ることが出来ない言葉になってしまった。
だって、私はただ人から一歩引いたところから見ているだけで、その人たちの中には入っていっていないだけ。
他人と深く関わらず、自分も深く関わらせない。
波風を発たせていないだけだから、感情に振り回されることもないし、物事を冷静に見られるだけ。
たった、それだけのことなのだ。
「ムツミさんの今表情から察するにいい意味に受け取られてはいないみたいですねぇ」
その厚そうな目隠しでどうやって私の顔を見ているのか分からない。
だが、多分私の顔はそれほど沈んでいたのであろう。
「先ほども言いましたが、もう一度言わせてもらいます。見た目は、冷静ですね」
見た目、を強調してエウラリアさんが言った。
「その実は、そうですね。多分、諦めが根底にあるんでしょうかね」
それは当たっていると思う。
私なんて、という考えがどこかにある。
日本で過ごしていた時からずっとある考え方。
だから、こればっかりはすぐに変えることなんて出来はしない。
「それでもあれだけ怒るということは、それだけじゃないってことじゃないですかね」
「そうでしょうか。私は……」
「動揺で魔力が揺らいでしまってますよ?」
知らずに俯いてしまっていた顔を上げるが、魔法の球は変わらず私の周りを勢い良く回っていた。
どれかがぶつかった感じもしないから、揺らいでいることもないと思う。
「そんな事なさそうですが……」
「ええ、嘘言いましたから」
全く悪びれないでエウラリアさんが言う。
「ムツミさんは悪い方向に考えを持っていきがちですね。私はね、とっても褒めているんですよ?」
「えー……どこら辺がでしょうか?」
今までの会話でそんな要素を見受けられなかったんだけど。
そうじゃないなら、エウラリアさんは独特の感性を持った人のような気がしてしまう。
「見た目はイベリア様で神秘的でしょう? それに美しさも人並み外れていますから、見惚れてしまう人もいると思います。だから、同じ人と思えないと見た目だけなら判断する人もいるのではないでしょうか」
それはどうなのだろうか。
だって、みんな今まで普通に接してくれていた。
人から見られることは多かったが、私が見慣れないエルフの見た目だからに過ぎない気がする。
「けど、接してみるととても人間臭いんですよね。楽しそうに話して笑って、美味しい物を食べて嬉しそうにして、仲間のために怒って、仲間のために泣いてですね」
喜怒哀楽は普通に過ごしているのなら、あるのが普通ではないだろうか。
日本にいた時は確かに希薄だったところはあるかもしれないけど。
「その見た目との差がいいんですよ。ムツミさん、それが魅力となって色々な人との関わりが増えてもいるお思いますよ」
はぁ、という生返事を返すので精いっぱいだった。
自覚のない事を言われても、どう反応を返して良いのか分からない。
それにしてもエウラリアさんとは過ごして、まだ数日も立たないと言うのに、ここまで見られていたのかとちょっと驚いた。
これも長く生きている間に培われた観察眼によるものなのだろうか。
それならちょっとあやかりたいと思ってしまう。
「さて、今日はちょっと違うことをしましょうか」
「何をするんですか?」
「魔力を出してみましょう」
首を傾げた。
意味が分からなかったから。
「そうですね、ただ純粋の魔力。私の出していた壁なんかはそれに当たります。あれはただ私の魔力を壁の形にした、たったそれだけの物なのです」
「火や水等の、この属性というものをあてはめないものを言うのですか?」
「ええ、あなたの中で生み出されている魔力だけで形成されたもの、または魔力そのもの。それを出してみましょうか」
出してみましょうか、と言われて、分かりましたとすぐに出せるものではない。
自分でもどうやってこの力を使っているのか分からないのだから、取り出すなんて全くイメージが湧かない。
エウラリアさんが立ち上がったので、それに釣られて私も立ち上がる。
魔力の球は邪魔なので消すように言われて、サッと消した。
「それでは、目を閉じて片手を天に伸ばしてください」
言われた通りにする。
傍から見たらとても間抜けなポーズをしているように見えそうだけど、今は見る人がいないと思って、恥じらいも少しばかり意識から外すように努力しよう。
「それでは、そのまま手のひらに自分の内側から魔力を集めていくイメージをしてください」
魔力、というものがどんなイメージなのかは分からない。
ただ、目をつぶって意識を掌に集中するだけになってしまっていた。
きっと、これは自分の中にある魔力を感じ取るための訓練なのかもしれないのだけど、それも私にはよく分かってない。
色々な人に力があると言われても、当の本人である私にはこれっぽっちも分からない。
魔力はどんなもので、どういう流れを持っているのか。
血液であれば、まだイメージしやすい。
心臓から各臓器、そして指先に行って戻る。
そうイメージして、最後に心臓に戻っていく流れで大体こんな感じかなと流れるイメージが浮かぶのだが、魔力がどこから生まれて、どこに流れて行っているのか分からない以上掴むことが出来ない。
そこまで考えて、ふと思い出した。
私の周りは瘴気が渦巻いている、と。
アビゲイルさん、だったかノナさんだったか言っていた気がする。
だったら、その渦巻いている物を掌に集中させたらいいのではないか。
自分の足先から渦巻いている物を掌にどんどん集まっていくイメージを思い浮かべる。
「あー……それぐらいでいいですよ」
「あ、はい」
エウラリアさんに止められた。
確かにどれぐらいの大きさにするか決めていなかった。
止めていなかったら、どんどん集めてしまったのかもしれない。
「目、開けてもいいですが、驚かないでくださいね?」
「……分かりました」
なんでだろうと思って、恐る恐る目を開ける。
自分の手のひらの方を見ると、大きさが把握できないほど、箸が見えないほどの球が形成されていた。
「あ、あの、これは」
落ち着かないといけない。
驚きはしたが、落ち着かないといけない。
エウラリアさんもそう言っていたんだ。
「ええ、純粋な魔力です」
エウラリアさんに言われたことが出来たと喜ぶ半面、これをどうしたらいいのか困惑が浮かぶ。
「今この状態でムツミさんがコントロールを失った場合ですが、これは爆発します」
そんなにあっさりと言わないで欲しい。
「爆発の規模ですが、ここら一帯は綺麗に拭き飛ぶでしょう。そして、私とキャリーとムツミさん以外は残念ながら助からないでしょうね」
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます
これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




