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ミューラフォグオルム

『瘴気の異常な動きを感じて見に来たが……貴様らか』


 巨大な蛇に見える東洋なドラゴン。

 胴体は太くて、私が一人、いや二人……もっと入りそう。

 見上げていてもその大きさの全貌が掴めそうにないほど。


「この方が幻霧山の頂にいる神竜の一柱であるミューラフォグオルムさんです」


 エウラリアさんが紹介すると、威厳あるドラゴンであっても軽く感じてしまうのは。

 これは紹介する人の口調やテンションのせいということにしておこう。


『ほう、威圧されんとはな』


 グイっと私の方に首を伸ばしてくる。

 ドラゴンであるが、蛇のような口の口角が微かに上がったように感じた。


『イベリア様か? いや、違うな。しかし、見れば見るほど似ておるな』

「そうですね。どうしてここまでそっくりな容姿をしているのか、それに力もイベリア様に迫る勢いですからね」


 イベリア様はどこまでのタイミングか分からないけど、この地上にいたということ。

 それがどんな目的を持っていたのかは分からないのだが、目撃していて、多分交流のある人たちがこうしているのだから、何か目的があって地上で活動をしていたのだろう。


「イベリア様はエウラリアさんの呪いを解いてはくれなかったんですか?」

「生まれたての力では、太刀打ちできないと言われましたねぇ。今会えればもしかしたら解呪してもらえるかもしれませんが、消息がつかめませんし」

『イベリア様なら、我ら神竜に役目を与えた後に天界に登っていて、そのままだぞ』

「だそうで、会えないみたいですねぇ」


 私だけ話していて、他のみんながどうしているのかと首を回してみると固まっている。

 時を止められたりとか、そういうものではなくて、ミューラフォグオルムさんから目が離せないで、動けないようだ。


「普通はそうなるんだよ」

「えっと……」


 キャロライナさんに普通と言われても、私には理解が出来なかった。

 ミューラフォグオルムさんは普通に話の通じるドラゴンのようだし、少なくとも人格面ではエウラリアさんよりも立派ではないかと思うほど。

 立派の基準が、すぐに暴力で物事を図ろうとしないというところになりつつあるが。


『我らを見て全く威圧されんということはそういうことだ』


 それがどういうことなのか分かっていない。

 威圧されるのは感覚的に分かる。

 社会人をやっていたら、上司や先輩にされることがあったから。

 だけど、その感覚がないからやられているということにこちらは気が付かない。


「神竜と言われるドラゴンの方たちはみんなイベリア様に会ったことがあるのでしょうか?」

「神竜と言われてますが、何もドラゴンの方ばかりではないですよ?」

「そうなのですか……?」

『あぁ、少し前に成ったばかりのあの小娘は狼の姿をしておったな』


 ドラゴンの時間感覚が分からない。

 最近が一年前とかではないのは確かだ。

 

「その方はイベリア様に会ったことはありますか?」

『ないな。あれが我らと同格に成ったのは最近のことだからな』


 狼というので一つだけ心当たりがある。

 アトランタル近くにある神狼の森。

 あそこにいるのがもしかしたら神竜の一柱かもしれないという推測である。


『瘴気の異常の原因が分かったので、そろそろ我らは帰るか』

「あ、ミューラフォグオルムさん、待ってくださいよぉ」


 ミューラフォグオルムさんが背を向けようとした動きを止めて、エウラリアさんを見るが隠さないでため息を吐いた。

 どれほどのことをしてきたのか、予想がつかない。

 ただ、とても面倒くさそうなことの相手をさせられてきたのだろうと思う。

 ミューラフォグオルムさんいい人ですし、面倒見も良さそうですから、頼まれてしまうと断われないような雰囲気がするから。

 勝手に親近感を抱いてしまっている自分がいた。

 

『……なんだ』

「少ししたらこの子たち幻霧山を登ってもらう予定なので、その時に力試しをしてほしいなって思ってまして、もしこの子たちの力でミューラフォグオルムさんの体に傷つけることが出来ましたら、鱗や爪とかくれませんかぁ?」

『人間が我らを傷つけることが出来るとは思えんが?』

「そこはやってみないと、って感じですね。傷つけてもムツミにはしっかりと治療魔法を習熟させていかせますので、すぐに治せるようにしておきますので」

『……好きにするがいい』

「そうさせてもらいますねぇ」

「私かもいいでしょうか?」


 神竜という方に聞けるいい機会。

 しかも、イベリア様に会ったことがあるのだから、会話もして人となりも分かっているはずだ。

 聞いておいて損なことなどないはずだ。


「私はイベリア様に似ているのには何か意味があるのでしょうか?」

『それは我らにも分からん。だが、その力は我らと同様な物だろう。ならば役目は必ずある』

「神竜の方々はどんな役目を持っているのでしょうか?」

『我らは瘴気が濃くなり過ぎないように、瘴気の噴出地点もしくは溜まる場所に身を置くように言われておる。濃くなれば、内に取り込んだりしてな』


 霊峰と呼ばれたあの山も瘴気が濃い場所ということか。

 神狼の森もそうだとするならば、その影響を受けてゴブリンの異常が起きているという考え方も出来る。


『役目については深く考える事でもない。その時が来れば自ずと理解して来るであろう』

「それでいいんでしょうか」

『神竜も多く、貴様一人いなくても瘴気で世界が終わることもないだろうからな』


 言葉にされてしまうと何かのフラグのように聞こえてしまうのだが、瘴気でどうにかなってしまっているなら確かにこの世界は大きな戦争続きか、戦争による疲弊でもっとボロボロの状態になっていてもおかしくない。


『役目が見つかるまでは旅するといい。自ずと自分の道が見つかるやもしれんからな』

「……そうですね、そうさせてもらいます」


 私は冒険者だ。

 冒険者の仕事をして褒めてもらえるのならば嬉しく感じる。

 それにずっと思っている。

 私はみんなとずっと冒険がしたいと。

 だから、どこかの瘴気の噴出地点でジッと過ごす生活というのは嫌に感じていた。


『さて、今度こそ我らは行こう』


 ミューラフォグオルムさんが背を向けて、軽くはばたけが体が浮いて、次の瞬間には幻霧山に向かっている小さな姿になっていた。

 そうしてミューラフォグオルムさんの姿が見えなくなるまで私が見つめていると、みんながようやく息の仕方を思い出すようにして動き出す。


「みんな大丈夫ですか?」

「……生きた心地がしなかったな」


 私が聞くとジーンが頭をがりがりとかいていた。

 私とみんなでは神竜を前にして、受け取り方が違うのだとまざまざと思い知った。


「それで俺たちはあのドラゴンを傷つけるぐらい強くなれるのか?」

「そこはみなさんのやる気次第と言ったところですね。やめておきますか?」

「やるに決まってるよな、ムツミ」


 怖気づいてしまったという雰囲気を全く見せないジーンに笑みが漏れる。

 私が口を開こうとしたところでクリスがジーンの頭を掴んでいた。


「そういうの勝手に決めないの」

「何でだよ。いいに決まってんだろ? なぁ?」


 ジーンが顔を向けたのはノナさんとミレイさんだったのだが、両者力強く頷いていた。


「強くなる。絶対に必要だから、私はやる」

「私もやりますわ。キャロライナさんに教えてもらえるのもそうですが、断る理由がありませんわ」

「ほらな」


 ジーンが満足そうな顔をしてからクリスを見た。


「お前はどうなんだよ」

「別に反対とは言ってないでしょ。私にも目標があるわけだし、強くなれるんなら受けるんだけどさー」


 クリスがそう言ったところで、もう決まったも同然。

 私としても文句はない。

 エウラリアさんは治療魔法を教えてくれると言ったから。

 私がぜひ覚えたいと思っていた魔法だ。

 エウラリアさんの方を向いて、頭を下げた。


「今日からよろしくお願いします」

「ええ、強くなってミューラフォグオルムさんの鱗や爪をもらいましょうね」


 エウラリアさんは本当に私たちがミューラフォグオルムさんの体を傷つけられるぐらいにするつもりなのだとひしひしと伝わる。

 それから夜になれば、いつものように夜の番の順番を決めて、明日に備えて休むことにした。

 気が付けば、あれほど激しく振っていた雨は止んでいた。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

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