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立場と事情

 朝目覚めて、知らない天井で一瞬だけ驚く。

 この世界に着て、知らない天井が多くて驚くときが多い。

 みんなと別れて、部屋で横になったところまでは覚えているのに、寝た時を覚えていなかった。

 気が付かないうちに疲れていたのかもしれない。

 この体はとても健康的で、頑強、疲れ知らずでずっと動いていられる。

 知らないうちに疲労はたまっていたのかもしれない。

 気をつけないと、いけないと思ったところで体を起こす。

 服は上着だけ、脱いでいたみたい。

 一人部屋でいる時は気が楽でいい。

 自分の荷物から綺麗な布を取り出して、魔法で水を出して濡らす。

 そして、全部脱いでから綺麗に体を拭く。

 お風呂は文化としてあるのだろうか。

 それならば、何とか入りたい気持ちとどうにかアトランタルまでその文化を伝えてほしい気持ちがある。

 宿に泊まった時など、クリスやミレイさんは同性しかいないと思って、かなり無防備になるのは困っていた。

 いや、私が勝手に自分の元の性別が分からないから、戸惑っているせいもあるのだけど。

 二人とも同性なのだからいいのでは、と思っているみたいだけど、それでも良くありませんと何度も言っているのだが分かってくれない。

 節度が大事だと一通りいうと、私はお堅いとか言われるのだが、そう言うことではないと思う。

 一通り体を拭き終わると、魔法で少し暖かい風を起こす。

 体もそうだが、体を拭いて汚れた布を濡れているから乾かしたい。ただ、布に関してはそのまま乾かしては汚れたままの物を荷物の中に入れることになる。だから、ブロック状の石鹸を少し削って魔法で維持している水球の中に入れて泡立てると、拭いた布を入れる。上手く動かせないからゆっくりと回転させて、汚れがしっかりと取れるまで回し続けた。

 綺麗に汚れが取れたのなら、泡立った水球を握りつぶすようにして消してしまえば、もう一度水球を作ってしっかりと注ぐ。

 泡が取れたのなら、水球から取り出して風に当ててやる。

 簡易的な人造洗濯機。

 どうにか汚れを取りたいと思った時に思いついた魔法の使い方。

 女性陣、ノナさんを除いて二人にはとても好評の魔法の使い方である。

 私としても潔癖症ではないつもりであるが、同じ衣服を何日も着たいとは思わない。

 出来たら、毎日体は洗いたいし、衣服は清潔な物を身に付けたい。

 それを可能にしたのが魔法。

 まだまだ魔法には無限の使い方があるように思う。

 新しい下着と同じような服装を身に着ける。

 服の上にはしっかりと防具を身に着けるのは忘れない。

 古い下着とかは後でみんなのをまとめてやればいいかと思ってまとめておく。

 部屋を出て、廊下を歩いていくと話し声が聞こえた。

 食堂で誰かが話しているみたい、と思って少し覗くつもりだったのだが、思ったよりも扉が軽くてそのまま開いてしまった。


「あ、ムツミ、おはよう」

「ムツミ君、おはよう」


 食堂ではクリスとレガードさんが話していた。


「おはようございます」


 他のみんなの姿が見えないと思って、視線を巡らせてしまう。


「みんな、訓練が出来るところ探してくるってどこか行っちゃった」

「クリスは良かったのですか?」

「ムツミだけ置いて、みんなどこか行っちゃったら心配しちゃうでしょ?」

「そう……ですね、はい。とても心配すると思いますし、置いていかれたのかと焦ると思います」


 そんなことをされないと思うのだけど、されたらきっと肝を冷やすだろう。

 

「アビゲイルさんは?」

「彼女は朝のお勤めがあるから、先に教会に行っているよ」

「レガードさんはいいんですかー?」

「僕の仕事は君たちの相手をすることだからね」


 ニコニコと答えるのだが、私たちはSランクでもなければただのCランクの冒険者だ。

 どう見ても重要度が低い。


「ムツミ君も座って、お茶でもどうだい? 軽食も用意出来るよ?」


 クリスは座っているし、私も席に着くことにした。

 そして、軽食とお茶を頼んだ。

 頼んだのだが、それを伝える前に使用人の方々が扉を閉めていく。それに使用人の方々も最後には一礼をして出ていってしまった。


「人払い……というものでしょうか?」

「そうだね、ちょっとだけ大事な話がしたいからね」

「面倒事?」

「今はまだ面倒にまで発展していないよ? まぁ、将来的に悪い方向に転んでしまった時に君たちの手を借りたいからっていうのもあるんだけどね」


 クリスの顔が歪んだ。

 私も同じような顔をしていたのか、レガードさんが苦笑を浮かべていた。


「僕ら、テラス教も一枚岩というわけではないんだ」


 私たちは言葉を話さず、次の言葉を待つ。


「聖女は神竜と意思を通わせることが出来るってのは言ったよね? 聖女というのはそれだけの役目の職ではないんだ。もう一つ大事な役目があってね、それが神託を授かる事」


 アビゲイルさんはこれまで神託を授かっていた。

 だからイベリア様のことであんなに熱心だったのかな。


「ただ、その神託を授かる役目なのだが、しばらく授かれていないんだ」

「それは……どれぐらいの期間でしょうか?」

「神託も絶対伝えられるわけでもないし、イベリア様はとても気まぐれなお方で間を置かずに神託を授けてくださるときもあれば、パタリと姿をお見せにならないときもある人なんだ」


 何だろうか、ちょっとだけその姿が想像できてしまう。

 神様であるのだが、とても人間らしい行動をする人だなと知らない姿を想像する。


「それを批判したのが第二聖女とその派閥なんだ。『神託を授かれないのは第一聖女はイベリア様から寵愛から外された』とね。神託を授かれないのならその座を辞するべきだ、と」

「……どうして第二聖女が?」

「第一と第二では扱いに天と地ほどの差があるからね」


 第二聖女が実は野心家でずっとアビゲイルさんの席を狙っていたと言うことでいいのかな。

 ただ年齢からしてアビゲイルさんよりも年下と私は勝手に推定するけど、その第二聖女が権力闘争をするのかどうかちょっと疑問が残る。


「その第二聖女? って子はそんな攻撃的な子なんだ」

「いや、その子もアビーと一緒で純真で信心深くて、ちょっと頑固なところもあるけどいい子だよ」


 そんな子がどうしてそんな行動を取ったのか、私はわかってしまって少しだけ嫌な気分になる。


「純粋だからこそだろうね、大人たちに利用されて、それが正しいと思わされているんだろう」


 子供が大人に使われる。

 この世界だけじゃない。

 私がいた世界でも行われていたことだ。


「第一聖女は神託を授かれないのにずっとその座に居続けるけど、それは立場を捨てたくないから。その地位にある甘い汁をずっと吸い続けていたいからとかそんな妄想じみたことを延々と聞かされ続けたのも良くないが、彼女の信心深さと正義感を囃し立てて、自分から批判しに行かせた」


 自分たちは矢面に立たずに、子供の陰に隠れて行われる。


「私は……好きじゃないですね。そういうことは」

「そうだね。未来のある子たちを使って、汚い大人の代理戦争をしているだけだからね」


 負けた方がどうなるのか、想像したくない。

 宗教の話も入ってくるために、ただ政治の権力闘争で負けただけでは済まないだろう。

 それに話としては、アビゲイルさんが神託を授かれないのに立場に胡座をかいているということになっている。

 嫌な結末しか想像できない。

 私はそれを見過ごすことが出来るだろうか。

 アビゲイルさんを知らなかったら、出来たかもしれない。

 顔も知らない、性格も知らない。

 そうであったのなら、悩まない。

 ただ、今はもう知ってしまった。

 アビゲイルさんも、今起きていることも。


「それでもしもの時のために君たちにお願いしたいことがあるんだ」

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

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