聖国へ向けて
出発当日。
私たちは荷物を持って、メディウスを囲む塀の外側に向かう。
そこには聖国リベリア使節団の人たちが四台にも及ぶ大きな馬車に荷物を積んでいるところだった。
馬が引くにしては大きな馬車だなと思ってその様子を眺めていると、馬車の影からレガードさんが現れた。
「おはよう、君たちが依頼を受けてくれてよかったよ」
「おはようございます、これだけの人たちがいるのであれば私たちの出来ることなどないとは思いますが……」
私がそう言うと、レガードさんは笑みを浮かべて歩き出す。
私もそれに付いて行くのだが、馬車の影に入るとそこにいた生き物に目を奪われる。
「この子たちは……」
「見たことがないかな? この子たちがこの荷車を引いてくれる地竜だよ」
見た目は大きなトカゲ。
地面を思わせる茶色の体色、鋭い目つきにひっかかれたらタダで済まないだろう爪。私の体ぐらいの太さの立派な尻尾。
羽がないから飛べないのだろうか。
見た目はドラゴンというよりも大きなトカゲに近いのに、竜と紹介されるとわくわくしてしまう。
多分、今までの魔物よりも一段ファンタジーに馴染みが近いものだからかもしれない。
地竜ということは、空や海にもそれぞれの適した形をした竜がいるのだろうか。
どれも見てみたいと思う。
空を飛ぶドラゴンはどんな形なのかな。
私が最初に思い浮かんだのはエルマーのぼうけんのちょっと可愛らしい形をしたドラゴンだけど、あれは多分児童文学様にデフォルメされた姿だろうと、否定。次に思い浮かんだのはハリーポッターで見たドラゴン。あのような姿なら格好がいいし、見てみたいと思う。次は指輪物語に出てきたものだが、あれはドラゴンだったかと疑問になってしまう。見た目はちょっと醜悪、敵役が乗っている物だからかもしれないがそれにしてもあれはちょっと嫌だな。
私がそんな妄想をしていると、地竜がこちらに目だけを向けてきていた。
「あ、あのレガートさん、触ってもいいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。大人しい子たちばかりだからね、噛んだりはしないよ」
噛まれたりしたら腕が千切られそうだから、ちょっと怖いのだけど。
恐る恐る手を近づける。
硬い鱗に触れた。
大きな大きな鱗。
一枚一枚が私の手ぐらいありそうな立派な鱗だ。
鱗に触れながら、移動していくと顔の付近まで来てしまった。
嫌がるかなと顔の付近になったところで手を離そうとしたら、地竜が目を細めて顔を近づけてきた。
この動作は知っている。
犬が撫でられたがっているときにする奴だ。
動物は飼ったことがなかったが、動物の動画で見たことのある動作。
「可愛いですね」
地竜の顔を撫でていると、なんというかどんどん可愛く見えてきてしまう。
安易にペットは飼ってはいけないと思うのだが、こういう動作を見てしまうとペットが欲しくなってしまうのも分かる。
なぜなら、今まさに私がそうだからだ。
「この子たちはトカゲとは違うのでしょうか?」
「違うね。地竜たちは寒さにもある程度強いんだ。かといって寒いところを積極的に歩こうとはしてくれないんだが、ここは僕たちと一緒じゃないかな?」
私たちも外気温が低いと家の中に引き篭もるので、それはそうかもしれない。
「冬眠はしないんですね」
「しないね。そこらへんがやっぱり蜥蜴と地竜の違いなんだと思うよ。地竜は初めて見たのかな?」
「そうですね……初めて見ました」
この世界は未だに私にとっては未知に溢れている。
日本では見たことがないものが多いし、経験できないことも多い。
その分、不便も多いし、危険も多い。
普通に暮らすなら断然日本がいい。
日本であれば、病気になれば病院もある。警察もいれば、倫理観もしっかりとしている。生活を保障してくれる制度もあるし、法律というルールが守ってくれている。
ここではどこにいても死の危険があり、命の価値は軽い。
何をするにしても自己責任が付きまとう。
それも命を対価に。
「地竜たちは西の出身で、そっちの方に行けば野生の地竜に会えるんじゃないかな? 野生だから気性はちょっと荒いと思うけどね」
西、確かそこはアトランタルで襲ってきた狼の住処でもあった。
しかし、この硬くて丈夫な大きな鱗で覆われた体であれば、あの狼たちに襲われても平気そう。
ただ俊敏なあの狼の動きに地竜たちが追い付けられるのかが未知数だ。
「他にも竜はいるのでしょうか?」
「いるよ。飛竜は色々なところにいる。高い山の上だとかが彼らの住処らしいからね」
高い山。
アトランタルの神狼の森の後方にも山脈は見える。あそこにも竜はいるのだろうか。
まず、神狼の森を抜けることが難しいのだが、そのうちに尋ねてみたいと思ってしまった。
「ただ、竜の中でも地位と言ったらいいのかな。冒険者で言ったらランクみたいなものが存在していてね。僕らは体の大きさなんかで区分しているのだけど、小型、中型、大型と分けられるがその上にもう一つあるんだよね」
「もう一つとは?」
「大型の竜の上、その竜たちはその地域を支配していると呼ばれていてね神竜と呼ばれている」
神として祀られる竜。
それはどこか日本と似ている。
この世界、日本の文化をかなり取り込まれている。
日本からの転移者が多かったのか、転移した人がかなりの権力を持つようになって教えを広めたか。
いつか歴史を調べてみたい。
もしくは歴史を知っている人物に話を聞いてみたい。
Sランクの冒険者と言われる人だったら知っているのだろうか。
リタさんはSランクの冒険者は年を取らないと長く生きていると言っていたのだから、もしかしたら知っているかもしれない。
「聖国リベリアの聖都マニフィカだけど、そこは霊峰イニオン・ルインの麓に作られていて、霊峰の頂上には神竜様がいてくれているから、その周辺は安全なんだ」
その後に魔物に限った話で、人はまた別なのだそうだ。
魔物はどうやら神竜の気配で寄らないと言われているらしい。
歴史を解いても、どうやらマニフィカは魔物の脅威に晒されたことがないから、この説は正しいとされているとかなんとか。
「神竜様は気に入った人とは会ってくれるみたいでね、リベリアだと聖女と言われる子たちだけが神竜との邂逅の機会があるんだ」
「聖女だからですか……きっとすごいのですね」
「ある程度の力はないと聖女の候補に選ばれることはないのだけど、それでも聖女を最後に選ぶのは神竜様だからね、僕たちには決定権はないんだ」
それはきっと光栄な行為なのだろうけど、私の感覚的にはある意味では供物に近いように思えてしまう。
別に食べられたり、体を捧げるとか言うことをしているわけでもないはずなのに、そうやって選ばれてとなるとどうしてもそのようなものに引っ張られてしまう。
これはきっと選ばれた人たちに言えば、大変な侮辱になってしまうのだから心の中に留めておくことにした。
「さて、そろそろ荷物の方を見てこないとね、それじゃあ道中も僕の話し相手を頼んだよ」
「え」
「騎士相手は十分話して飽きていたんだ。予算も余っていたからね、楽しい帰路になりそうで良かったよ」
そう言ってレガートさんは歩いて行ってしまった。
胡散臭い人ではある。
常に笑顔というのもなんだか警戒してしまう。
それもその笑顔が営業的な物なのか本心なのか見分けがつきにくいせいでもある。
私もみんなの元に戻ってくると、ジーンがどうだったか聞いてきたので、地竜とかの話を聞いてきたと伝える。
「竜か、いつか倒してみてぇな」
頭の後ろで手を組んで、空を見上げながらつぶやいた。
「え、あれ倒すんですか?」
「そりゃあ、冒険者だからな。竜の一体や二体は倒したいって思うのが普通だろ?」
そうなのかな。そういうものなのかな。
私とジーンの普通の間はなかなか大きな溝があるようにも思う。
「大きな山の山頂付近にはそれぞれ神竜たちがいるみたいなので、行ってみたら会えるかもしれませんね」
「あぁ、絶対に行こうぜ」
ジーンに笑顔で言われて、私は倒すとか戦いに行くのはどうかと思うけど、いつかは会って話してみたいと思う。
会話が成立であるならばだけど。
謝辞
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