話し合い
私がルアンさんのところに着いた時には戦いは決していた。
ルアンさんよりも大きな体躯を持っているし、体付きもしっかりとしている。全体的に筋肉質でがっちりしていた。
そんな相手をルアンさんが殺して、立っている。
「あぁ、君」
ルアンさんが顔だけこちらに向けてきた。
馬車の上からよいしょと縁からゆっくりと降りる。
「君の仲間のおかげで随分と助けられたよ、ありがとう」
「あ、いえ、そうなのですね……」
みんながこちらに来るのを聞いていなかったので、言われて驚いてしまった。
周りにいる人たちはところどころ傷を負っているようだけど、大丈夫だろうかと思わず見てしまう。
「あぁ、みんななら大丈夫だよ。それぐらいのケガ日常だからね」
「そうなのですね……」
心配になるのだが、だからと言って何か出来るわけがない。
「終わりでしょうか……」
「そうだねぇ、とりあえずここの殲滅しちゃってから話し合わないといけないかもね」
「分かりました」
銀翼の宝とジーンたちが協力して、ゴブリンたちを殲滅して行ったのだった。
☆
倒したゴブリンと狼の死体は燃やして、車体に異常がないかだけ確認して、日が昇り次第出発ということになった。
そうなると話し合いはその間ということになる。
集められた死体を燃やしているところにダガンさんとルアンさんがやってきた。
「君たちはこの依頼が終わった後どうするつもりなの?」
「そうですね……まだ決めていません。冒険者組合によっていい依頼があれば、受けていいかもしれませんし、公国の方まで足を延ばしてもいいかもとは思ってます」
「アトランタルにはすぐに戻らないということだな?」
火が爆ぜる音が響く。
「みんなと話し合ってからになりますが……そうなる可能性が高いと思ってます」
私自身の希望というのもある。
色々と見て回りたい、それに冒険者として仕事があるのであれば渡りに船。
自分に対する言い訳もしやすい。
「決まりだな」
「僕たちのチームはこの依頼が終わったら、アトランタルに戻って報告するよ」
「てめぇ……」
ダガンさんがルアンさんを睨みつける。
「早い物勝ちでしょ、というわけでダガンにはそっちの冒険者組合に報告を頼んだよ」
ダガンさんは舌打ちをしたのだが、それで了承したということなのだろう。
ただ一つ私の中で疑問に思っていたことを聞いてみた。
「今回の襲撃、あれは異常なのでしょうか?」
「……ゴブリンとは初めてやり合ったのか?」
驚いた目でダガンさんが見てきた。
「はい、今まで森の依頼ばかりで……」
「あの森にはゴブリン出ないからね」
あの森はどちらかというと野生生物が凶暴化したものが多い。
イノシシや兎や狼、時折クマ。
だから、知性のありそうな襲撃者というのはちょっと驚いたのは確かだ。
「今回の襲撃が異常だったと言えば、異常だ。何個か理由がある」
「君さ、ゴブリンって出来たばかりの巣だとどれぐらいの数がいると思う?」
話を振られて考える。
ある程度の数になっているから、巣が出来ると考えた方がいいかもしれない。
ゴブリンがどんな生き物か知らないから、何とも言えないのだが。
深く考えても答えが出ないのでちょっと多めで答えてみよう。
「十匹程度でしょうか?」
「もう少し多いね。大体二十」
倍は多い。
それが少しで済む数字なのだろうか。
Aランクの冒険者チームにとってはそれぐらいの差になるのかな。
「それが出来たばかりの巣。今回はそれの倍以上は多かったからね、もっと大規模な巣がどこかに出来上がっていると考えた方がいいね」
これがゴブリンの巣の戦力の一端だとしたなら、百はくだらない数のゴブリンの巣が出来上がっている可能性もあるのか。
それはとても大事ではないのだろうか。
私たちもアトランタルに帰った方が良さそうな気がする。
「それに狼まで飼っているようだし、お前の前に出てきた奴はホブじゃないだろ?」
「そうだね、ホブ以上だったけど、キング未満って感じかな」
「えーっと……ゴブリンの区分でしょうか?」
専門的な用語で話されてしまうと一気に話に付いていけなくなる。
ファンタジー用語、日本にいた時に履修しておけばよかったなとふと思ってしまう。
日本はその手の言葉は色々な方法で知ることが出来た。
それにファンタジーはジャンルとして根強い。
私のファンタジー知識は、有名どころの作品で止まってしまっている。
しかも、それらは全部洋画で、有名な作品ばかり。
見てきた世界とは違い過ぎて今の今まで全然役に立ってこなかったわけだが。
「何にも知らねぇんだな……そうだ、ゴブリンの区分だ。どうやったらそうなるのかは知らねぇが、ゴブリンの中で一際でかくなった奴がホブゴブリン、後は魔法を使うほどの知能を得たものはシャーマンと呼ばれていたりするし、それらをまとめて指揮する奴らをロードなんて言ったりもする」
「ただ、ゴブリンがそこまで成長すること自体が珍しいんだけどね。基本は見かけたら冒険者に依頼が出されて、殲滅しちゃうから」
新たな知識がどんどん増える。
覚える事ばかりなのだが、大事なことだから忘れないようにしないと。
「ゴブリンの王、ゴブリンキングとクイーンと呼ばれる特殊な個体もいるが、めったに出てこない」
「そうだね、僕も戦ったことも見たこともない」
「あれ、でもさっき……」
比べていたから、戦ったことがあるのだとばかり思っていた。
「一応ランクの上ではAランクの冒険者なら戦えるということになっているからね。そういう魔物と比べて言ったんだ」
「そう言う事ってどこで……」
「冒険者組合で聞けば教えてくれるよ。あそこは魔物の情報や昔の討伐記録なんかもあるからね」
今度ミランダさんに聞いてみよう。
心の中でメモを取る。
「それで狼は何か関係あるのですか?」
「あぁ、それだけ食うものがあるってことだ。どこで奪ってきているかは知らんが」
「奪う……作るのではなくて?」
「ゴブリンは作物を作ったりはしないよ。他者から奪うことで生活を賄っているわけだからね。人からも、動物や魔物から、何から何でも奪って生活しているんだ」
今の話を聞けば、早々にギルドに赴いて、調査を開始した方がいいのではないだろうか。
「奴ら防具も身に着けているのがいただろ?」
「ええ、はい、そういえば……」
「人もどこかで襲っているんだろう」
どうしてそれが報告されていないのか。
嫌な想像が頭をかすめる。
そして、それは間違っていないのだろう。
「襲われた人たち、全員ゴブリンたちに……」
「だろうな。それにどこか奴ら組織だって動いていたのも気になる」
「お二人が異常だと言ってたことが良く理解出来ました」
さすがの私でもここまで丁寧に教えてもらえれば、理解出来る。
だからこそゆっくりしているわけにはいかないのではないか。
「あの」
「どっちにしてもまずは調査が入る」
「君たちは心配するよりも先にもっと自分たちのランクを上げることに集中していいと思うよ」
それはそうかもしれない。
私たちはまだCランクの集まりでしかない。
ただ、それでもやはりアトランタルをホームにしている以上、大事にしたいと思うのは自然のことだ。
「それと別に君たちがいらないというわけでもないんだからね? 他のところに行くみたいだから色々と見てきてほしいし、聞いてきてほしいんだ。それでアトランタルに戻ってきて報告して欲しい」
「……分かりました。私たちはそうしようかと思います」
役割分担。
そう思うことにしよう。
私たちは私たちの為すことがきっとあるはず。
それに私たちはもっともっと世界を知って、自分たちの実力も高めていかないといけない。
楽しくみんなと世界を回る。
当初の目的からは外れてしまうのだけど、それでも世界を回ることは出来るんだ。
私たちは私たちの出来ることを。
「火急な連絡は組合からはされるのでしょうか?」
「あぁ、赤い封筒が届けられたら、それだろうな。滅多なことでは送られてこないことだがな」
「それなら、その滅多がないことを祈っています」
「あぁ、俺たちもそうなってほしくはないさ」
私たちは前へ進む。
仲間たちにはまだ打ち明けていないが、方針は決まった。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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