ゴブリン
「ムツミ、馬車の上に!」
ジーンが声を上げながら、大剣を構える。
「分かりました」
ジーンに言われて、馬車の上に登るのだが、それも私のイメージでは指輪物語のレゴラスのように身軽に乗り移るのを目指していたのだが、私が実際にできたのはジャンプして縁に手を付けてからは腕力に物を言わせて昇りきった。
あんまりスマートに出来ないのは私がそこまで運動神経良くないせいかもしれない。
これでもし、エルフのイメージが固まるのであれば、この世界にいるエルフの皆様に申し訳がない。
馬車の上に登ってから、周囲に光の玉をイメージする。
光量は明るすぎない方がいいだろうか。
とりあえず、見通せる程度の光量で、その都度調整ということで。
周囲が一気に明るくなる。
「ゴブリンだ! ライダーまでいる!」
誰かの声が響いてくる。
なるほど、子供みたいな大きさのない小鬼。
体色は緑色と、手には武器、粗末だが防具まで身につけている。
それに狼に乗っているのもいた。
三チームで円陣に展開。
三分割でそれぞれの持ち場を防衛。
大丈夫、今までモンスター相手はしてきたんだから。
息をのむのは目の前の敵の量だ。
ライダーと呼ばれる狼に乗ったのが、私たちの前でも十は近づいてきてる。
それに歩兵と思わしきゴブリンはそれの倍以上の人数はいる。
「ムツミ! 狼狙えるか?」
ジーンの指示に従う。
戦いのことに関しては私よりもずっと知っているのだから。
「狙います」
狙えるかどうかで言えば、狙えるだろう。
私の弓矢は、矢を引いて射っているのだが、根本的には違う。
普通に弓矢を使ってみようと思っても、どうしてもこうなってしまうから諦めることにした。
狙いをつける。
弦を引いて、矢は飛んでいく。
不可思議な軌道から狼の頭に突き刺さり、乗っていたゴブリンが落ちて転ぶ。
しかし、一体やったところで全体の動きが止まることでもない。
狼たちは迫っている。
もう十秒もしない間に接敵する。
風の矢じりをイメージする。
弓に矢は番えない。
それでも弦を引いて、迫ってくる狼に乗った敵全体をしっかりと見る。
弦を離すと同時に風の矢じりが勢いよく狼の頭に飛んでいく。
ギャンと情けない断末魔を上げて、一斉に狼たちは頭から血を噴き出して姿勢を崩していく。
それに合わせてゴブリンは落ちて、ジーンたちの目の前に体勢も立て直せないまま転がってくる。
それをみんなが見逃すはずもない。
ジーン、クリス、ノナさん、それにミレイさんまでも走り出して相手の息の根を止めていく。
周囲からも一斉にぶつかり合うような金属音が響く。
そして、怒鳴るような大きな声も。
私たちだけじゃない。
みんなのところも戦いが始まったのだ。
ホッと息をついた時、ゴブリンたちが粗末な弓でジーンたちを狙ってきた。
放たれた矢。
私が撃ち落とすにしても間に合わない。
ミレイさんは横に飛んで避けるのだが、後の三人は切り落としたり、弾いたりと思わずぽかんと見惚れてしまう。
すごいな。
私が知らないだけで、みんなどんどん強くなっていく。
負けていられない。
置いて行かれないために私も努力しないといけない。
それを強く思っていると、ジーンの大きな声が響いた。
「ムツミ、こっちはもう大丈夫だ!」
「分かりました! けど、油断しないでください!」
「わーってる!」
こっちは大丈夫。
というのだから、他のところの状況を確認した方がいいかもしれない。
いや、私たちのところと同じ敵の量だったら他の冒険者たちなら問題なく迎撃できているはず。
そう思って、周囲を見れば、まだ戦闘は続いている。
それになんだか私たちのところよりも敵の数が多い。
狼の機動性、それに一撃離脱の戦法。
騎乗のゴブリンを狙おうとしても、狼たちが噛みつき、爪でひっかき妨害もしてくると近接で戦う人たちにはいやらしい存在かも知れない。
それに数が多いのも面倒なところだろう。
ゴブリン一体一体なら、冒険者でもない大人の男性なら倒せるぐらいの強さしかないのだが、こうして統率を取って、大人数で攻勢を仕掛けられると話はだいぶ変わってくる。
一回に対処できる敵の数というのはどうしてもある。
それを超えると、傷つけられたり、抜けられてしまう。
こちらから仕掛けようにも、遠距離からの弓とライダーの一撃離脱の波状攻撃で前に出にくい。
無理や無茶は本当に最後の手段であり、それを取らないように立ち回るのが冒険者の基本だと、ジーン辺りが言っていたような気がする。
しかし、受けに回ってもじり貧はじり貧な様子。
全員馬車の近くにいるみたい。
それに今は高所にいることを生かした方がいいだろう。
助走をつけるために縁から少し離れる。
いけるかいけないかの自信だったら、今までの私だったら絶対にいけないと思ってしまうだろう。
助走をつけて飛ぶ。
浮かせて。
強く思えば、不思議な浮遊感に包まれて、体が浮いた。
「あ」
飛び過ぎたかもしれない。
馬車を通過してしまいそうになったところで、下ろしてと願う。
体が急に重くなって、重力のまま落ちていく。
ドンッと強く屋根を踏んだ後、数歩たたらを踏んで何とか着地することが出来た。
「チマチマと面倒を!」
あれは鉄壁のダガンさん。
一人前線に立って敵の攻撃を受けているのだが、飛んできた矢を避けない。
体に刺さると思っていると、弾かれるようにして逸れる。
あれがもしかしたら身体強化というものだろうか。
Aランクになる冒険者というのは身体強化が出来て当たり前ということだろうか。
私たちがそれぐらいのランクになるのはどうやらまだ長い道のりなのかもしれない。
ダガンさんから目を逸らして、周りを見る。
ライダーの数が明らかに多い。それに矢の数も私たちとは比べ物にならない量飛んできている。
これで防衛できていたのはさすがAランクの冒険者。
素直に凄いと感心して、援護しないと思って、声を上げる。
「すみません、援護します!」
「誰が――――!」
ダガンさんの声が聞こえた気がするのだが、もう待ってもいられない。
さっきと同じように風の矢じりを作る。
ライダーの数と同じ程度に。
弦を引いて、放つ。
矢じりは飛んでいき、敵の粗末な矢とぶつかるようであれば一方的に破壊して突き進んでいく。
ただ、こちらに迫ってくる動作だけではなくて、旋回していたり、はたまた大きく迂回するようにして動くものといるせいで倒れた狼の数は半分ほど。
こちらに迫ってくる狼の数が減ったことよりも狼を仕留めに行く過程で多くの矢を破壊していたのを好機とみて、ダガンさんは突き進んでいき。私が逃した狼を次々と屠っていく。
そして、歩みは止まらないで、狼から落ちたゴブリンの首を切り飛ばしたと思ったら、その頭を持って、弓を番えようとしたゴブリンに向かって投擲。
頭と頭がすごい勢いでぶつかり、また一つの死体が増える。
「畳みかけるぞ!」
「おうっ!」
ダガンさんの一声によって、チームメンバーは一気に攻勢に転じた。
ダガンさん以外のメンバーはそれぞれ小さいがケガを負っているようだけど、大丈夫だろうか。
心配して眺めていると、戦っているはずのダガンさんからの声が届く。
「悪かったな! 助かったぞ!」
「いえ、無事でよかったです!」
私もダガンさんに聞こえるぐらいに声を張り上げる。
実際に私が手を出さないでも、どこかでダガンさんが突破していたように思う。
余計なことをしたとは思わない。
誰も死なないならそれに越したことはないのだから。
「こっちはもう大丈夫だ!」
「分かりました!」
私は最後、まだ激しい戦闘音がしている方に飛ぶ。
夜中に始まった戦いはまだまだ続くようだ。
謝辞
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