拳闘少女の始まり
私がジーンと出会ったのはいつだったのか。
気が付いたら、一緒にいた。
ジーンのお父さんが私の父が経営していた牧場で働いていたから、そこで出会ったんだと思うんだけど、いつだったか改めて思い出そうとすると思い出せない。
ジーンのお父さんと私のお父さんが知り合ったのは、私が生まれてくるずっと前。
お母さんと出会って間もなくの頃に、護衛を頼んだ関係で知り合い意気投合。
ジーンのお母さんが亡くなった時に、お父さんの牧場で働き始めたというようなことを聞いた。
昔の私は今、ちょっとだけ大人しくないだけで、昔はお人形さんみたいだと会う人会う人に言われるぐらい大人しい子供だった。
ジーンは昔も今も変わらない。
ただ、お父さんに剣の稽古、という名の一方的な襲撃から返り討ちにあっていた。それのおかげか分からないけど、同世代の子供たちの中では喧嘩が頭一つ抜けて強かった。
子供と言うのは単純で、たったそれだけのことで格好いいと思ってしまう。
お人形を抱きしめて、フリルがふんだんに使われた可愛い余所行きの服をわざわざ決めて、ジーンに話しかけていたこともあった。
今も乙女であるのは変わらないのだが、あの頃はもうジーンによく見られようと、可愛く見せたいとアピールしていた。
けど、肝心のジーンは、こちらは見るのだが、「そうか」とか「分かった」とかの素っ気ない反応。
他の子たちが好きな子に悪戯をしたりしている中で、あの男はなんとどうやったら父親を倒せるかどうかを考えていたらしい。
それを聞いた時、私は悔しくて悔しくて涙で枕を濡らした。
ジーンに見られなくて、悔しかった傷も癒えない内に私は偶然彼の夢を聞くことが出来た。
自分の父親を超える冒険者になる。
目を輝かせて言うジーンの姿を見て、あぁ、格好いいなと思った。
それと同時にこれは私しか知らない、特別なことなんだと優越感が湧いた。
けど、冒険者と言えばどこか遠くに行ってしまうイメージ。
もしかしたら、どこか冒険に出て帰ってこないのでは、それをジーンにぶつけたところ、そうかもなんて言われた。
ジーンがどこかに行ってしまう。
ずっといつも一緒にいて、離れているところなんて想像もつかなかった。
私は一緒にいるし、ジーンも一緒にいる。
それが当たり前。
今も、そして、これからもずっとそうだって思っていた。
ジーンは夢を諦めない。
だから、私にも夢が出来た。
私も冒険者になろう。
そうしたら、ずっと一緒にいられるのだから。
両親にそのことを話せば、当然のことながら反対された。
「冒険者か……クリス、もう少し考えなさないかい?」
反対されれば、反発した。
私が頑なに冒険者になると言い続けた、結果、両親はジーンのお父さんとたまたま街に訪れていた武術の達人と言われた冒険者を師事して、その人たちに実力を認められたらいいと試験を出された。
ぬいぐるみも、可愛いフリルをふんだんに使ったお洋服も、私は脱ぎ去った。
それから数年は毎日稽古の日々。
辛く苦しい時だった。
それでも私は頑張った。
頑張って、頑張って、ジーンに武器を持たない素手での戦闘であれば勝てるようになる。
けど、それはもう通過点でしかない。
二人の師匠に実力を認めてもらえる強さを身に付けないといけないから。
結局認めてもらえたのは、冒険者タグを発行してもらえる年齢になるギリギリまでかかってしまった。
ジーンは私よりも誕生日が前で先に発行出来ているはずなのに、待っていてくれていた。
無神経なところもあるのだが、こういうところだけ気を使ってくれる。
だから、嫌いになれない。
両親は両親で、ジーンに対して「これからクリスのことをよろしく頼む」という風に真剣に頼み込んでいて、恥ずかしい。
それじゃあ、まるでこれからジーンと結婚でもするみたいじゃない。
ジーンもジーンで真面目に答えないでいいのに。
それから始まった冒険者としての日々。
ジーンと一緒に依頼を受けて過ごしたのだが、思っていたよりも地味だった。
もっと冒険に繰り出しているイメージだったのだが、私たちが出来るのは街で行われる依頼のみ。
そんな日々を過ごしているとある日、神狼の森の調査という依頼が上位冒険者に発行された。
私たちには受ける権利もないのだが、ジーンが何度も何度も頼み込んで、森の外の調査協力だけは認めてもらえたのだが当然森の中に入るのは禁止。
危険は少ないだろう神狼の森の外側。
それでも街の外だから、危険は多い。
野生動物だって襲ってくるし、外にも魔物はいる。
二人で街の外を歩いているというのは初めてのことだから、それなりに緊張はする。
けど、自分のことばかり考えてはいられない。
ジーンはなんだか焦っているから暴走したら手が付けられないから、ちゃんと注意しておかないと。
そうしていると、森の奥で何かが動いた。
ジーンは私の注意をして森に入ってしまう。
「誰だ!」
ジーンが背負った大剣を抜き放って構えを取る。
私も手甲を下ろして、警戒をするのだが現れたのは、毛皮を被った不審者。
それが初遭遇。
そして、毛皮を取った素顔を見て驚いた。
腰までありそうな長さに、陽の光の反射でキラキラと光の粒子を放っているように見える綺麗な金の髪。
目鼻立ちもしっかりとしている。少しだけ細い目は怖い印象があるのだが、逆の凛々しさまで感じられる。
ただ一番特徴的なのはその尖った長い耳だろう。
見たことがない特徴をしている。
肌も汚れているのだが、きっと元はもっと綺麗なのだろう。
女性から見ても綺麗で見とれてしまう。
ムツミとは、ある意味衝撃的な出会いから始まった。
ムツミは美人であるのだが、どこか抜けた印象がある。
物腰は柔らかであるし、対応も丁寧であるのだが、男性にはあまり興味のない様子。いや、男性に奔放よりも良いのだけど。
かと言って女性に興味があるのかといえば、過度なスキンシップからは避ける様子。
抱きつく分には受け入れてくれるのだが、ムツミから抱きつかれたことは一度もない。
抱きついてもいいのに思うが、ムツミは明後日の方を向いて言った。
「私からはいけないですよ……」
「どうして?」
「……いけないからだと思いますから」
よく分からない発言だった。
同じ女性同士なのだからこれぐらいしても何も問題ないと思うのだけど。
それなら男性とのハグはするのかと言えば、そっちもしない。
難しい年ごろなのか、私たちとは違う文化を持っているのかも。
ただ、ムツミは無駄に包容力が高くて、ついつい甘えてしまう。
私もノナもなんだかんだで甘えてしまう。
お母さんみたいだよね、と言ったところ、ノナは首を傾げていた。
聞いてから、ノナには謝った。
依頼をこなしていき、初めての遠征依頼。
そうして初めての対人戦。
ムツミの力がなかったら、達成できなかったと言えるのだけど、ムツミ自身はそうも思ってない。
最後に倒れてしまったから、みんなに迷惑をかけているのだと本人は訴えていたのだが、それがどうしたことか。
ムツミが本気で凹んでいたので慰めておいたけど、ちょっとだけ役得だったのかも。
ただ、ちょっと驚いた。
ムツミが人を傷つけて、自分が傷ついたことに。
そもそもあの森に住んでいたのだけど、子供の頃からいたわけではないはず。
だから、どこかから来たはずなのだが、東から北にかけてはあまり治安がいいとは言えない。
盗賊の討伐依頼もよくあるぐらいだから。
だから、ここまで来る途中で遭遇なりはしていそうな雰囲気なのだが、それすらない。
ムツミは凄く年上に感じる時もあれば、年相応に感じる時もあるちぐはぐだけど、優しい謎の多い美人と結論付けることにした。
新しくチームに入りたいと言ったミレイさん。
彼女もいろいろと抱えていそうだが、冒険者としての仕事はしっかりと毎日休まないで真面目にこなしている。
私たちがチームでやっていたときはもう少しのんびりとやっていたのだが、彼女から鬼気とした雰囲気が伝わってくる。
それは訓練であっても同じだ。
最初は武器を振るうにはあまりにも筋力も体力もなかったので、そこからスタートすることになったのだが、言われたことを毎日しっかりとこなしているみたい。
毎日見ていたわけではないので、伝え聞いたものだから、曖昧。
真面目で努力家、やる気は十分。
だったら、武器の扱いも真面目にやらないと、と訓練をつけていたのだが、これについてはどうしても時間がかかるし、才能も関係していれば、実地での経験がものを言うところがあるから一朝一夕で身に付くものではない。
それでも、休まないでやる姿勢を見せられて、嫌いにならないわけがなかった。
彼女は年上で、私はお酒が飲んでいいと言われている年齢。
お金も依頼のおかげでそれなりに潤っているとあれば、訓練の後には酒場に行く。
ムツミやノナはあまり興味がない話題だけど、ミレイさんとは話が合う。
「二人って付き合ってるの?」
突然のミレイさんの発言に飲んでいた麦酒を思わず吹き出してしまいそうだった。
誰と誰が付き合ってるのか。
ムツミとジーンはあり得ない。
ノナさんとはもっと考えられない。
もしかし、ミレイさんが、と考えてしまう。
「えっと、誰と誰が?」
「あなたとジーンがですわ」
それもちょっと答え難い。
昔からいて、それからもいつも一緒にいる。
だから、それが当たり前で付き合っているという意識は全くなかった。
「どうなのかなー……」
悩んでみるのだが、私とジーンの関係について上手く答えが出ない。
一言で言い表せないかも。
いや、シンプルに考えれるなら、もしかしたら表せるかもしれないけど、私だけではどうも結論が出ない。
「好きなのではないの?」
「昔はねー……今はどうなんだろう」
「じゃあ、ジーンが他のこと付き合ったら?」
なんだかモヤモヤした気持ちが胸を占めてくる。
それがきっと表情に出てしまったのかもしれない。
「嫌って顔をしていますわ」
「うーん、嫌っていうか、うーん」
嫌なのかな。
そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ただ、うん。
離れるのはやっぱり嫌だな。
私はジーンの隣にいたいって思う。
「二人が幸せになることを願ってますわ」
「ミレイさんだってでしょ?」
「……私は、しばらくはいいですわ」
私が言うと、少し暗い顔になるが、それを隠すように苦笑いを浮かべる。
「それよりも次の依頼」
「あーミレイさん、初めての遠征だよね」
「ええ、みなさんに付いてですが」
「期待してるね」
「みなさんの足を引っ張らないように頑張りますわ」
二人で笑って、杯を鳴らした。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます
これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




