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暗殺少女の始まり

 気が付いたら、私は暗殺を生業にしている組織の中にいた。

 両親のことは全く知らない。

 聞いても、知らんと言われたので、そうなんだって思うようにした。

 他にも私と同じぐらいの子たちはいたけど、みんな気が付いたら周りにいなくなっていた。

 下手くそだった、と思うにした。

 私も下手くそだと思われたら、同じように処分されてしまう。

 必死に技を磨き、殺し方を覚えた。

 私よりも殺しが上手い人はたくさん組織にはいた。

 だからこそ、その人たちの技術は全部覚えるようにした。

 そうしたら、私は組織にとって必要な人だと言われて、処分されないと思ったからだ。

 その生き方に私は疑問を抱かなかった。

 これからもこれまでと同じように、組織のリーダーに言われるがままに人を殺して、少しばかりのお金をもらって、食べるものに不自由なく生きて行く。

 それだけが私の生き方なんだと、思っていた。

 私たちは基本的に明るい時間に外を歩かない。

 私たちの生きる時間は夜。

 皆が寝静まってからが私たちの時間だった。

 その日の仕事は特に苦戦することもなかったと思う。

 いつも通りに屋根からベランダに侵入して、寝ているところを殺した。

 ただ、無駄に時間をかけてしまった。

 なかなか寝付いてくれなかったのもあるが、ずっと複数人でのどんちゃん騒ぎ。

 殺す人数が増えるほど、リスクは増す。

 だから、一人になるのを待っていたら、明け方になっていた。

 仕事を終えて、もう一度屋根に上がったところで見てしまった。

 綺麗な夜明けを。

 世界を照らす日の出を。

 感動した。

 夜の世界は、様々な物を闇に隠してしまっていたのだと。

 世界の広さを知り、私のいる世界の狭さを知った。

 初めての感情。

 それは私の中を駆け巡る。

 知らなければ私はずっと暗殺者として完成していたのかもしれない。

 知ってしまった私はもうこんな狭い世界の中では生きて行けなかった。

 夜の世界だけなんてもったいない。

 夜も昼も変わる景色の全てを私はこの目で見てみたい。

 私の持ち物なんて大したことはない。

 いつも使っている剣に、いくらかの暗器、あとは貯めていたお金の入った革袋。

 ついでに高そうな外套や多少の戦闘に耐えられそうな革鎧を組織の建物から盗んで、抜け出した。

 組織を抜け出した人間に対して、容赦がないのは当たり前。

 どこでここのことを話すか分からない以上、殺しておくのが普通。生かしておいては損しかない。

 追手は当然いた。

 全部返り討ちにしたかったが、途中から明らかに手練れが加わったから諦めて逃走することが多かった。

 それでも罠や待ち伏せ、魔物にぶつけたりと創意工夫によって何とか追っ手を振り切った。

 振り切ったと思ったのに、組織は私のことを完全に諦めていなかった。

 気が付けば、声を奪われていた。

 一切話すことが出来ない。

 最初は何でもないと思っていたのだが、思ったよりも不便で、自分の名前ぐらいしか書けない私にとってはそれはとても効いた。

 旅の路銀が心許なくなってきたところで、ようやくたどり着いたのがアトランタルだった。

 さて、どうやってお金を稼ごうかと考えていたのだが、話せないというのがとても枷になっていることが分かった。

 それに私が身分を証明するものを持っていなかったのもある。

 そこにどこかから冒険者という職業があることを知った。

 それには多少のお金があれば誰でもなれるし、身分を証明するためのものが手に入るということまで調べはついた。

 冒険者になることは出来た。受付の人がほとんどやってくれたので、助かっただけ。

 そうして、依頼が張ってあるボードを眺めていたのだが、さて、どうやって依頼を受けようかと思っていたところに一人の女性がすり寄ってきた。

 その女性は毛皮を羽織っていたのだが、その下にはとても綺麗な顔があった。

 キラキラと光る金色の粒子を振りまくような明るい金の髪、目鼻立ちがしっかりしていて私が今まで見てきた女性の中でも一際綺麗。夜の街で働く女性でもこれほど綺麗な人は見かけたことがないほどだ。

 そして、特徴的だったのは長い耳。

 長命種でそんな特徴を持った物がいたような気がする。そんなことを誰かが話していた気がするというだけでうろ覚えの知識だ。

 殺しの中で自然と考えるようになったことの一つにどうやったら殺せるのかというものだったが、隣の女性はそれが見えなかった。

 魔力の流れが見える人はいたのだが、私にはどうやらその才能はなかった。けど、肌で感じてなんとなくはその人の力量や攻撃の方向性など読むことは出来るようになりはした。

 読むことで分かる。

 隣の女性は魔力の流れがおかしい、と。

 彼女の魔力は暴風雨のように渦巻いている。

 今までの殺しのターゲットにも、組織の中にいた者たちの中にもこんな魔力を持つ人はいなかった。


「ありがとうございます」


 私が少し横に移動したら、彼女は頭を下げて緊張した面持ちで礼を言った。

 その後チラチラとこちらを見ている視線の気配を感じる。

 何だろうかと思っていると、緊張して声が震えていた。


「あの、あなたも冒険者なのでしょうか?」


 落ち着いた高めの声音。

 聞いていて不快にならない、そんな優しい声。

 今はちょっとだけ緊張で台無しになっているけど。

 私が頷いて、横目にその人を見たら、パッと花咲くような笑みをその人は浮かべていた。

 緊張は解けて、どこか頬を紅潮させているようにさえ見える。

 印象がまとまらない人物だ、というのが私の第一に抱いた感想だった。

 それに不快ではない、多分、心から善人なのだろうとも思った。

 声が出せないから利用しようという打算的な考えもあっただろう。

 彼女と、他に二人、チームを組むという話になって、声が出せなくてもこれなら依頼を受けて生活できると少しばかり安堵した。

 街の中での依頼、それは本当にちょっとした手伝いのようなばかりだ。

 日雇いのような仕事ばかりで、ジーンなんかは早く街の外の依頼を受けたいとぼやいていた。

 そんなジーンを諫めるのはクリスで、ムツミは楽しそうに依頼をこなしていた。

 宅配の仕事でも、工事の手伝いでも、何でも楽しそうにやっていた。


「私、こういうことしたことなかったので」


 彼女が今までどんなところでどんな生活をしていたのか私は知らない。

 彼女もそのことを話さないから、佇まいや話し方で推測するしかない。


「仲間と一緒に仕事をするのってとっても楽しいですね」

 

 言葉遣いや態度からして、箱入りのお嬢様だったのではないかと。

 それがなぜ荒くれ物たちが多い冒険者をしているのか、事情は知らないけど、そんなところのような気がする。

 ムツミの容姿に惹かれるものは多いが、穏やかな性格、物腰が低く、丁寧な態度や言葉遣いで依頼相手、お店の人たちには評判でどんどん街に溶け込んでいった。

 中にはムツミに絡む者がいたのだが、彼女が自分で育んだ街の中での人間関係のおかげで周りからの圧力を受けて退散していった。冒険者は街の中で大事なのだが、それ以上に街で生きる以上はそこで商売やる人たちのお世話にならないといけないので下手な軋轢は自分の首を絞めるだけ。

 そうして初めての遠征の野営。

 彼女が呪いが見えるのだと知る。

 そんな人初めて知った。

 だから、彼女であれば呪いを返せると踏んだ。

 結果は言うまでもない。

 術者は死んだだろう。

 保険として呪いが解けそうな時に、呪いをかけられた人を殺すようにしていたのだが仇となった。

 ただ、私の声だけだったらそんなことにならなかっただろうに。

 開拓中の村から出て、草木がない山岳の方に向かう。

 他は平原というか対して起伏もないところだったので、そんなところに堂々と居座っていたら私たちが手を出す前にどこかの商隊に目撃されているはずだ。

 岩の影に隠れて野営を行っていると、他の視線に気が付く。

 私が告げると、ジーンが体を強張らせた。


「気づかれる。もっと自然にして」

「はい」


 ジーンに告げたはずなのに、ムツミが答えた。

 彼女の顔を見れば、一番緊張している。

 何度も深呼吸しては落ち着かせようとしていた。


「どうする?」


 戦闘になるとすぐに頭が切り替わるジーンは戦闘の時は役に立つし、頼りになる。


「私が始末して来るから、ここで気が付かない振りをして食事でもしてて」

「気を付けてね、ノナ」


 クリスが笑みを浮かべているが、手甲が戦えるように下がっているところを見てしまう。

 ムツミはやはり箱入りの子だったように戦闘には慣れていないし、戦う術もデタラメで、戦い方も知らない。きっと争いから遠いところにいたのだと察することは出来る。

 だが、ジーンもクリスも戦いとなればすぐに切り替えられるし、躊躇がない。

 どこかで習ってきたのか、戦い方も様になっている。

 足を引っ張るそんな存在ではない。

 だから、私もこのチームでなら私の持つ術で、しっかりとチームに貢献したいと思う。

 それぐらいには、この緩く楽しい面々での日々は大切に思っているし、気に入っている。


「ん」


 短く答えて、岩の周り大きく迂回するように移動を開始した。

 相手に見つからないように視線の方向に動いていた時に、自然に積みあがった石の影に二人の男を見つけた。

 さっさと始末して、ご飯を食べよう。

 自分に近い側にいた男に向かって、ナイフを投げると無防備な男の首に横からナイフが吸い込まれるように刺さる。

 もう一人の男が何かを言う前に、飛び込み首元にナイフを近づける。


「お前たちの根城は?」

「な、なんのことだ」

「私は問答をしようとは思ってない。質問が答える気がないなら、必要ない」


 首元のナイフが男に食い込み、血が滲みでる。

 それがきっかけだったのか明確な死が近づいた恐怖によるものだったか分からないが、男が吠える。


「いう、言うから、命だけは!」

「どこ?」

「こ、この先だ! だから!」


 ナイフで首を切り裂いた。

 男が驚いて、目を捲るしながらも私の方を見つめていた。

 なんで、と思っているのだろうか。

 だったら、自分たちが殺した人たちもそう思っていただろう。

 剣に持ち替えて、首を落としていく。

 ナイフを回収して、二人分の首を持ってチームの下に行くと、クリスが大きな革袋を用意していた。

 首をその中に入れて、しっかりと口を締めた。


「殺した……のですね」


 ムツミが青い顔をして、呟いた。


「ロープもない。捕まえても、足を引っ張るだろうし、街までの食事もない」

「そうですが……」

「盗賊なんてやってるんだ。こいつらだって、いつでも殺される覚悟があるだろ。冒険者に討伐されるか、捕まって処刑されるか、そんな違いはないだろ」


 ムツミは黙ってしまった。

 箱入りの彼女にはきついことかもしれないが、これが賊との戦いである。

 殺すか殺されるか。

 私は、まだ殺される側に立つ気はない。

 そして、このチームもそちら側にやる気もない。


「根城は大体分かった」

「そっか、それじゃあ、いつにする?」

「明日の深夜、終わらせよう」


 ムツミは青い顔ながら、私たちの行いを止めないで頷いていた。

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