国の起こり
「それじゃあ、話そうか。商業都市群ホープレイに属するアトランタルのことやその周辺のことをね」
仰々しい態度をリタさんは、すぐにその態度を崩す。
「私も又聞きだから、ちゃんとした歴史を知りたかったら、歴史学者にでも聞いてちょうだい」
「そういう学者さんがいるのですか?」
「この街には……いないかも。聖国リベリアはー……この世界の宗教の中心だから、ちょっと歪んでるかもしれないからなー……本当に知りたかったら、海を渡ったところにある学問の国文殊に行くといいかもね」
今までで一番、日本で聞いたことがある響きの言葉だ。
歴史、というものにすごい興味があるわけではないのだが、それでもこの世界にはまだまだ色々な世界があるのだと分かると、それだけで行きたい場所が増えて行く。
私の人生で一体足りるのだろうかと思うほど。
「あーそう、それで話を戻すとだ、商業都市群ホープレイ、これがどうやってできたのか。最初は商人たちと、どこかの国から逃げ延びた人たちが集まってつくられた小さな集落からだったらしい。商人が人を呼び、冒険者を呼んで、どんどんと大きさを広げていく。周辺国もそれを黙ってみているわけにはいかない。それはそうだね、自国の領土が取られちゃうんだもん」
現在大陸の東部にあるこの国、商業都市群ホープレイ。
突然国が生えてきたのではなく、国の起こりは当然にある。
しかし、新参であり、いくら冒険者が手練れであったとしても、古くからある国の軍隊に通用するのかと言えば、全く歯が立たないだろう。
一対一であれば、どうにでもなるかもしれない。
けど、冒険者が精々百人集まっても、軍隊として千集まってしまえば、そのまま数の暴力で押しつぶされてしまうはず。
「商業都市ホープレイとして、冒険者もいて、一応は兵士もいたけど、所詮は都市。規模が違い過ぎた。潰されるのかと思っていると、手を貸す存在が現れた。それが数人のSランク冒険者」
数人のSランク冒険者。
たったの数人でどうにかなるのだろうか。
普通なら無理だ。
現実として考えるのなら、無理だ。
だって、どうあっても人は一人の力しかないのだから。
ただここは違う。
魔法の力、まだ私の知らない力があるんだと思う。
そこから一騎当千の力を得られるのかもしれない。
「たった数人、されど数人で戦況は拮抗、いえ、優勢に押し返した」
「Sランク冒険者ってすごい方たちなんですね」
「人格面までは保証はしないけど、武力の面ではすごいわね。それこそ、大型ドラゴンを一人で討伐したなんて記録があるぐらいなんだから」
「すごい方たちだったんですね」
「まだ存命よ?」
驚いて口が開いてしまった。
私の反応が見たかったと言うようにリタさんがニヤニヤとしている。
「けど、この国ってそんなに歴史は浅くはないですよね」
「他に比べたら赤ちゃんみたいなところはあるけど、百年は超えてるわね」
「年を取って、隠居しているとか」
「まだまだ現役よ。それに昔から姿が変わってないとも言われてるわね」
「……すみません。全然意味が分かりません。どういうことでしょうか?」
「私も分からないわ。どういうわけか、人なのに年を取らなくなってずっと生きている。さすがに造りは人らしいから殺せはするらしいけど、Sランクの人が殺されたなんていうことは聞いたことないわね。もし、会ったら、どうして死なないのか聞いてみたら?」
そんな簡単に遭遇できたのであれば、リタさんも会っているはずではないか。
まぁ、Sランク冒険者の人たちのことは頭の隅にでも置いておこう。
出会うことのない人たちだから、そんなに気にすることでもない。
「商業都市群ホープレイの起こりはこんな感じでー」
リタさんが話を再開させようとしたタイミングで、料理が続々と運ばれてくる。
ふかした芋や、ベーコンのようなお肉に蕩けたものがかけてあるからチーズかもしれない。他にもサラダみたいなものや、串に刺して焼いてあるお肉と、どれも香ばしく食欲を刺激する物ばかり。
「食べながらにしましょうか」
「はい、せっかくの料理が冷めてしまってはもったいないですので」
「……あなた、もう少し、いえ、それも無自覚みたいね」
「えーっと、何がでしょうか?」
リタさんに聞いてみるが、リタさんは手をひらひらと振って、何でもないと言うように流してしまう。
気にはなるのだが、二人で目の前の食事に手を付けることにした。
この世界、基本的に味付けが豪快であり、濃い目である。
ただ、肉体が若いせいか、それがとても合う。
日本にいた時はどんどん脂っこいのが苦手になって、さっぱりしたものを好んで食べるようになってしまったもの。
あれはあれで好きな味付けなのだが、今の肉体だとこういう味付けの方が合うような気がする。
「アトランタルなのだけど、ここも最初は開拓村だったの。ただ、開拓中から魔物の被害がとてもあってね。ほら、近くに森があるでしょ?」
私が頷いた。
「あの森、神狼の森っていうんだけど、あそこからどんどん魔物が溢れてきちゃうみたいで、アトランタルの人たちは森を切り開いて、小さくしようとしたんだよね」
森から魔物が出てくることと、森の規模を縮小しようとする話が私の中で上手く結びつかない。
「森の中って戦い難いんだよね。樹木が視界を邪魔をするし、相手は前後左右以外にも上からも仕掛けてきやすい。だから、私たちが戦うフィールドとしては圧倒的に不利。魔物を退治することも考えて、森を切り開こうとしたの」
「けど、そうなっていないですよね?」
「うん、そうしようとしたら、森の奥からそれは大きくて神々しい狼が現れた。そこでその狼、神狼と盟約を立てた。そうすると、収まったみたいで、こうして穏やかになって人が集まって、発展したってわけ」
話を聞く方に集中していて、手が止まっていたらしく、リタさんに食べたらと言われてしまった。
リタさんが話してくれたこと、とても情報量が多い。
ゆっくりと咀嚼しながら、落とし込んでいく必要があるだろう。
「どうだった? これでいい?」
「ありがとうございます。色々と知りたいことを知ることが出来ました」
ただ、それと同時に私はやはり私のことを知るために、もっと色々と知らないといけないことも分かった。
まずはこの世界のことを。
そして、私は誰なのかを。
なぜ、私がここにいるのかを。
それはこれから、冒険者として世界を回って知っていければいいと思った。
「そういえば、リタさんはこの街からあまり外には出ないのですか?」
最初に話していたことを思い出す。
他の国について印象でしか話していなかった。
実際には行ったことがないのでは、と。
「出ないわね。一生この街から出ない、なんて人の方が多いくらいよ?」
「……そうなのですか?」
「だって、わざわざ街から離れる理由がないもの」
収益もある。家もある。食べるものもある。
確かにそれらがあるのであれば、わざわざ外に出る必要はないのかもしれない。
「街の外に出て見れば分かるけど、賊はいる。魔物は出るし、肉食の動物だっている。それらのものに注意して、一歩間違えたら死。そんな死がお隣さんみたいな生活したいと思う?」
確かに街の中であれば、害悪から守ってくれる。例え、何かされたとしても衛兵とかが守ってくれる。
そうなると、わざわざ危ない橋を渡る理由なんてない。
「それに私はここでやりたいことがあるの。だから、あまり長い依頼でギルドを離れたくないのもあるんだけどね」
どんなことをやりたいのか聞いてみたい気がするけど、踏み込んでいいのかどうか分からない。
知り合ってまだ間もない。
リタさんがわたしの手を取ってくれているから大丈夫だとは思うが、振り払われたらと思うと怖くて躊躇ってしまう。
「やりたいこと、私が手伝えることがありましたら、言ってください」
「ええ、ありがとう」
逃げてしまった、後悔は見せないように顔を上げたまま、手を結んだ。




