防御不能の本質
装備班の警備員が前へ躍り出た。
肩部の魔力盾ユニットが展開し、半透明の防壁が六芒陣を遮断するように広がる。
だが、鎖光は一切の抵抗を受けず、防壁を無視して胸腔の中心を貫通した。
金属が触れた音すらない。
抵抗の欠片もなく、鎖はただ存在値のみを抽出するように、肉体を通り抜けていく。
警備員は剣を握ったまま膝から崩れ落ちた。
「……嘘だろ、当たってないのに……」
若手が叫ぶ。
その身体には傷がない。痣も裂傷もない。
しかし皮膚の下の脈動は、ゆるやかにゼロへ向かう線形を描いていた。
ケイは冷や汗を拭うことも忘れ、端末に走るログを凝視する。
「装備による魔術防御は無効だ。肉体を守る構造だから」
彼は声を押し殺すように続けた。
「魂鎖は生体エネルギーではなく状態量Lを対象にしている。
古代文明が恐れたのは術式そのものじゃない。
生存を“値”で切り取る発想だ」
ラクシアは振り返る。倒れた研究員の胸が浅く上下しているのを確認し、瞳を揺らした。
呼吸はある。脳波も生体電流も微弱ながら反応している。
だが、生命の核となるはずのLは一方的に抜き取られ続けている。
「攻撃でも呪詛でもない……」
ラクシアの声は震えた。
「**存在の許容量を削る“計測”**よ……防ぐ概念が違う」
研究班は反撃できなかった。
防壁は意味を持たず、魔術式は干渉媒質を与えるに過ぎない。
彼らに残されたのは、狭い通路に散らばる倒れた同僚の周囲に、
生存範囲を確保するだけの空間を作ることだけだった。
しかし時間は残酷だった。
倒れた者たちの生命値は、落下する砂時計の砂のように、
痛みも出血も伴わず、ただ静かにゼロへ近づいていった。




