儀式の最適人数 ― 信仰ではなく実用
六芒陣の縁が淡く震え、立ち昇る鎖光が一拍遅れて脈を刻む。
内部に座り込んだ研究班の若手の鼓動は、生命の音ではなく、抜き取られたLが波形へ変換される周期と同期していた。
ラクシアは喉奥で息を震わせた。
「……彼らは儀式の最適人数を把握しているの?」
ケイは即座に首を振った。
否定の速さは、恐怖ではなく確信の重さに裏打ちされていた。
「違う。把握しているのは**“最適化の挙動”**だ」
鎖の束が司祭の胸腔へ沈み込む様子を、ケイは凝視した。
吸収されているのは、犠牲者だけではない。
黒羽根の司祭自身のLもまた、同一周期へ供出されている。
「人員はただの変数」
ケイの声は凍りついた分析のまま続いた。
「宗派は自分たちを含め、素材と理解している」
その瞬間、通路の奥へ歩み出た司祭団の長が兜を上げた。
黒銀粉の縫われた外套の裾が、六芒陣の縁で風もなく揺らぐ。
眼窩の奥。瞳ではなく、位相値に応じた残光が脈動していた。
「我らは神に近づくため、魂の数ではなく位相値に従う」
その声は詠唱ではなく、同期波の搬送だった。
語尾が床面の呪印へ落ちるたび、微細な周期偏差が補正される。
「寄せ集めの血統や祈祷ではない」
長は静かに指を広げる。指先から薄く漏れた黒銀粉が、六芒陣の節点へ吸い込まれる。
「神性は――効率に宿る」
その言葉は、宗派が信仰を装った科学的特権崩壊の逆利用者であることを告げていた。
彼らは血統の神話を否定し、祈りの権威をも踏み潰す。
魂を量として扱い、最適化アルゴリズムこそが神性の唯一の証明だと信じている。




