ケイの観察:魔術=演算
鎖の光が天井で束ねられていく様を見て、誰もが理解を拒んだ。
だがケイだけは、視界に映る光ではなく、その背後に走る数式を見ていた。
「……これは術式じゃない」
掠れた声だった。興奮でも憤怒でもない。
恐怖という名の静けさが舌を支配していた。
「演算回路だ」
端末を滑らせ、解析ウィンドウを最大化する。
魂鎖の束、胸腔から引き出されたL波、司祭たちの詠唱。
それらが一つの数式へ急速に像を結ぶ。
L_out = Σ(L_i · sin(p·t + δ))
ケイの瞳孔が収束する。
「位相 p は司祭団の人数に依存……」
まるで自らの口が勝手に続きを吐き出しているかのようだった。
「人数が増えるほど、吸収効率は対数的に飽和しない。線形を超えて――指数的に加速する」
指先が端末の画面を叩く。焦りはない。
ただ、理解が冷たく迫る感覚に押されるように。
鎖の束は脈動している。一定周期を保ちながら、犠牲者と司祭団を結び、同期している。
ケイの視界にはグラフが走り、波形が噛み合う瞬間が見えた。
「……位相同期型の加算」
声は低い。
「犠牲者一人ひとりの L_i を入力信号にして、司祭団が集積器になる。祈りじゃない」
天井から垂れ下がる光束が、静脈のように脈打つ。
その鼓動は、命ではなくLだけを運ぶためのもの。
「L を揺らして周期に噛ませる同期吸収だ」
その瞬間、ケイは悟った。
これは儀式ではない。
魂という信号を、数式の理屈で均質化し、収奪する演算回路だ。




