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異世界物理  作者: 南蛇井


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魂鎖の儀式「L-Drain Protocol」

術式が起動した瞬間、空間が軋んだ。

 誰かが叫ぶ暇すらない。胸腔の奥で、何かが噛み砕かれる。


 最初に伸びたのは一本の光――いや、鎖だった。

 淡い白銀。だが次の瞬間、それは一本で止まらない。

 各人の胸骨の裏側から、一本一本、内臓を引き抜くかのように鎖状の光がせり上がり、天井へと昇った。


 痛みはない。

 だからこそ皆は理解できなかった。何を奪われているのかを。


 鎖たちは天井の一点を目指し、そこに束ねられ、太いハーネスへ融合する。

 力を抜かれるのではない。魔力も筋力もそのままだ。

 だが“状態量L”――生命の深層に宿る規格外の指標が、サンプリングされ、平均化される。

 侵食は静かで、冷たい。


 膝から崩れ落ちる音だけが続いた。

 一人、二人ではない。仲間たちが同時に倒れていく。


 呼吸はある。肺は上下している。

 しかし脈拍は底へ沈む。血液が巡るのに、心臓はまるで世界と断絶されたように鈍い。


 肉体だけが稼働し続けていた。

 視神経は焦点を結び、筋肉は命令に応じる。

 だが魂だけが削られていく――磨耗砥石に押し付けられたガラスのように。


 誰かが名を呼ぶ。返事はある。言葉は応答する。

 しかし声の奥には空洞があった。

 魂が一層削られ、均され、同じ温度、同じ深さ、同じ欠損へと調律されていく。


 天井に張り付いた光の束は微かに脈打ち、

 儀式の主だけが、平均値Lという“完成された空白”を受け取る。


 そして静かに、誰も知らぬ均衡が成立した。

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