現世・事故死
大学祭の科学展示室は、いつもの研究室よりも騒がしかった。
ポスター、模型、光るLED。――だが、その真ん中でひときわ異質な存在があった。
長さ一メートルの透明アクリル筒。内部には銅コイルが多層に巻かれ、端には鋭く尖った金属弾。
木戸慧一が半年間費やした研究成果――自作コイルガン。
「起動テスト、行きます」
制御パネルに手を置いた瞬間、背後から歓声が上がる。
高校生の見学者たち。隣で汗をかく同級の後輩。周囲には研究仲間の視線。
慧一は一度、深呼吸した。
磁束の集中度、キャパシタの充電値、温度パラメータ。想定値はすべて範囲内。
「今回は理論どおり――のはずだ」
スイッチを押した。
次の瞬間、音がした。放たれるはずの弾ではない。
コイルが悲鳴のような唸りを上げ、青白い火花が走る。
「は? 磁束が――」
計算式が本能的に頭を駆け巡る。
磁束密度Bが臨界値を超え、二層目のコイルが飽和。
磁力線の収束が銃身中央に偏り、金属弾ではなく彼自身の胸元へ引き寄せられる。
視界の端で、後輩が叫んだ。
「先輩、離れて!」
だが慧一の手はパネルに吸いついたように動かない。
感電の瞬間は、不思議と痛くなかった。
ただ――全身が、何か巨大な磁石に押し潰されるような圧迫感に包まれた。
青白い閃光。
鼓膜を破るような高周波のノイズ。
そして、心臓の鼓動が一拍空白になった。
「……あ、失敗した」
胸の奥が冷たく沈む。
観測と制御、解析と安全裕度。
それらすべてを理解していたはずなのに――最後に浮かんだのは皮肉な言葉だった。
実験は、失敗から学ぶんだよ。
視界が収束し、背景が白く溶けていく。
悲鳴も、足音も、揺さぶる手も、冷たい床も――すべてが遠ざかる。
わずかな残光の中で、慧一は思った。
「次は、きっと成功させる」
世界は完全にホワイトアウトした。
そして――魔術の世界が、彼を待っていた。




