神の宮殿へ
「……むむ、次はどこに置くべきか……」
格子の向こうで何やらブツブツ言いながら石を積み上げている。
髪も髭も真っ白で伸びっぱなし、掛けた眼鏡はひび割れ、服も至る所が破れボロボロだ。足は逃げられないよう鎖で繋がれている。
そんな状況にもかかわらず男は石を積み続けていた。
「おほっ♪ 乗った乗った。いやぁ三百段までいったのは数百年ぶりですな」
……随分楽しそうである。
「一体何してるんですかねぇ、このジジイはよ……」
「どうやら暇すぎるあまり石を積んで遊んでいるようですね……」
「ボケているのではないか……?」
グリモたちは呆れ顔だが、天界の監獄に繋がれているような人物がただものであるはずがない。
きっと何か面白いことを知ってるはずだ。そう考えた俺はおもむろに近づき声をかける。
「こんにちはー」
「……む? 何ですかな君は……」
男は眼鏡を掛け直し、俺の方に顔を向ける。
その拍子に足が積んでいた石に当たって崩してしまう、ガラガラ、と崩れる石の塔。
「のあー--っ! 千年ぶりに新記録が狙えそうでしたのにー--っ!」
男が肩を落とす。気持ちはわからなくないが落ち込みすぎである。
全員が冷ややかな視線を向ける中、老人はため息を吐きながら俺を見上げる。
「んんー? ……なんとあなた人間ですか? 今は色々混じっているようですが」
「へぇ、わかるのか」
「えぇまぁ。しかし人がこの監獄に入り込むなんて、珍しいこともあるものです。一体何をやらかしたのですかな?」
「別に何もしてないよ。ただ面白そうだったから来ただけだ」
「面白……そ、そうですか……」
「おおっと、人間ならここにもいるぜっ! 聖王ここに推参っ!」
駆け付けた聖王がポーズを決める。どうやら天使を倒したようだ。
どうでもいいけどあまりはしゃがれると、ちょっと恥ずかしいんだが。
「むむ……聖王とな!? 君はあの聖王なのですか。これは驚いた。君も捕まっていたのですか?」
「あぁ、でももう抜け出すことにしたのさ。ついでに神に一言文句を言おうと思ってね。彼と一緒に向かう途中なんだぜっ!」
「ほほう! 神の下へと。それは何とも痛快なことです。よろしければ私の枷も破壊していただけませんでしょうか?」
「え、イヤだけど」
聖王は即座に断ると、そのまま言葉を並べていく。
「捕まってるってことはあんた、何らかの悪事を働いたんだろう? はいそうですかってワケにはいかないなぁ。しかもこんな奥深くに囚われているんだぜ? 凶悪犯罪者だったらどうするのさ。やだー、こわーい」
わざとらしく怖がる素振りを見せる聖王。男はため息を吐きながら頷く。
「……わかりました。事情を話して納得していただけるなら。――私はかつて神に仕える執事だったのです。しかし誤って彼が大切にしていた皿を割ってしまい、罰として牢獄に入れられてしまい、そのまま千年以上このままというわけなのですよ」
「それだけで千年て……罰が重すぎないかい?」
「恐らく忘れられているのでしょうなぁ。はっはっは」
哀愁漂わせながら笑う老人。
うーむ、何とも哀れである。
「いや、ロイド様もどちらかといえば忘れる側でしょう」
「俺、忘れられたこと何度もありやすぜ」
「我もだ。魔王を待たせるなど許されることではないぞ」
冷めた視線を送ってくるグリモたち。
……そんなこともあったかなぁ。あったかもしれないなぁ。仕方ないだろう。俺だって忙しいんだから。
視線から目を背けていると、聖王がため息と共に格子を切り裂いた。
「おおっ! 監獄の格子を易々と……」
「皿を割ったにしちゃ重すぎる罪だぜ。嘘を吐いてるようにも見えないしね」
更に手枷足枷を破壊すると、
「これで自由だ。好きなところに行くがいいさ」
「まことにありがとうございます。良ければ礼をさせて貰えませんかな?」
「礼?」
「えぇ、あなた方がここへ来た理由は神の宮殿への抜け道を探しに来たからでしょう? 私はそれを知っております」
「本当か!?」
抜け道があるという話は本当だったのか。
「というかここと真逆でございますよ」
「あ、あらー? そうだったかなぁ?」
笑って誤魔化そうとする聖王にグリモたちが白い目を向ける。
「これでも長年宮殿で働いておりましたから案内はお任せ下さいませ。……と、その前にこの姿では少々見苦しいですな。――ほっ!」
老人はボロを脱ぎ捨てたかと思うと、眩い光に包まれる。
光が薄れ、姿を現した男は紳士服に身を包み、髪や髭も整えられ、執事のような風貌になっていた。
どうやら光武によって衣服を作り出したようである。
「ふぅ、すっきりしたところで自己紹介をば。私の名はリーゴォと申します。以後お見知りおきを」
「俺はロイドだ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。では早速参りましょうか」
スタスタと歩いていくリーゴォ。
本当に反対側じゃないか全く。しかも目的地は近かったようで、数分程歩いた辺りで立ち止まる。
だが周囲には何も見当たらない。困惑する俺たちに構わず、リーゴォは目の前の壁を触り始めた。
「えーっと確かこの辺りに……おお、ありましたぞ。ポチッとな」
カチ、と音を立てて壁がせり上がっていく。
現れたのは小部屋だ。地面には何やら魔法陣のようなものが描かれていた。
「おおっ、魔術陣じゃないか。これはなんとも唆られる……」
近づき調べようとすると、リーゴォが言う。
「それに近づけばすぐに転移しますぞ」
「え……?」
言った瞬間である。目の前が暗転し、目の前に白亜の室内が現れた。
なんてこった。かなり効果範囲の広い転移結界だな。まだ触れてもなかったのに巻き込まれるとは、中々興味深い。
「じゃあ調べる為に一度戻って……」
「一方通行ですからの、戻ることはできませんぞ」
「ロイド様、後でいくらでも調べて構いませんから」
「そうですぜ。話がすすまねぇでしょう」
「……わかったよ」
興味深いものは他にもある。ここは我慢するとするか。




