94 特産品自慢
ランスレー君が尻尾をブンブンしながら見せてきた品を見て、私はあまりの衝撃に一瞬で頭がショートした。
包みの中を見てユセフ様が呆れた声を出す。
「おいランスレー、そんなものアリス様に見せてどうするんだ」
「そんなものじゃないもん!美味しいもん!!」
ふんすと言い返すランスレー君。衝撃を受けて呆然としている私の前で会話が続いていく。
「なに見せたんだランスレー。……ってなんだ、カジカジ か。アリス様は食べられないだろう、これ」
「カジカジか!これ美味しいよねぇ!……でも、食べる姿はちょっと見せられないよねぇ……」
こちらも呆れた声を出すイヴァン様。そしてカジカジなるものを美味しいと言いつつ何故か複雑そうな声を出すフレッジ様。
「不思議な見た目ですね……。木、ですか?でもお魚っぽい匂いがしますね」
「硬そう……でもなんだかいい匂いですわ」
しげしげとカジカジを見て分析するユレーナ、不思議そうな顔をしているマチルダ。
そして、ようやく頭の再起動が完了した私は、勢いよくランスレー君に飛びついた。
「ランスレー君んん!!君は最高だ!!素晴らしいっ!!世界一だー!!」
ぐりぐりとランスレー君の頭を撫でまくりながら溢れるパッションを吐き出す。ふおおお!!
「ちょっ、アリスぅ?!やめっ!!やめなさいー!!!!」
「アリス様ァァ?!」
私の突然の奇行とキャラ変に悲鳴をあげたヴィル兄様とヨハンに引っペがされる。
その衝撃で我に返りはぁはぁと息を整えながら見ると、ランスレー君は真っ赤になって目を回し、気を失っていた。すまん。
「アリス!! いきなり異性に抱きつくなんて、絶っっ対にしてはいけないよ!」
「はひ……っ、ご、ごめんなさい」
眦を釣り上げ鋭い声を出し、私の蛮行に怒るヴィル兄様。反射的にしゅんとする。
めっちゃこわい。すまんかった。
「全くもう……。それで、突然どうしたの?これがどうかした?」
私の反省にため息を吐きつつ平常モードに戻ったヴィル兄様。他のみんなもどうかしたのかと不安そうにこちらを見ている。
いや、取り乱しすぎた。いきなり豹変してごめん。
こほんと喉を整え、努めてリーダーらしくクールな表情を取り繕いながら口を開いた。
「これは、私が探し求めていたものです。私にとって、なくてはならないものなのです!」
「えっ、カジカジが?!」
驚きの声にうむ、と重々しく頷くと、困惑の表情が寄せられる。
「えっと、でもアリス様。これって木よりも硬くて、獣人の牙でがしがし噛み続けないと食べられないような物ですよ?」
そう言うフレッジ様に続けて、イヴァン様も困惑した声を出す。
「ご褒美に与えるおやつみたいなもので……。その、俺たちはこれをかじり出すと止まらなくなるというか、前後不覚になるんです。なので食べる姿が見苦しいですし……。まさか、食べた事がおありなのですか?」
なるほど。この塊を獣人達はかじるオヤツとして見ていたのね。
歯が丈夫で鋭いから、スライスして使うのでなく、まさかの丸かじり食用として存在していた訳か。そして獣人が興奮してかじかじしてるものだから、普通の人は避けていたと。
前世のペット用おやつジャーキーとかをうっすら思い出しつつ、私はハッキリと言った。
「いいえ。その方法では食べたことはありません。……これは、とある地方でカツオブシと呼ばれているものです。これを刃物で薄ーくスライスして出汁をとると、万能かつ体に良くて最高に美味しい食べ物が、たっくさん作れるのです!!これが、これがないと私は、私は死んでしまうのです……!!」
語るうちに再び興奮してふんすふんすと鼻息を荒くする私をどうどうと落ち着かせつつ、コニーが「お嬢様、キャラが!キャラが!!」と耳打ちしてくる。おっと。
かつお節の存在により、日本食のレパートリーが爆発的に増えたことに興奮してしまった。……もうだめ落ち着けない。醤油も欲しい。
「そ、それほどまで……。よし、うちの故郷でもカジカジは作られていますから、出来るだけ多く取り寄せてみましょう」
それを聞いて私は。
「ユセフ様ぁー!! ありがとうございますぅぅー!!!!」
……今度はユセフ様に突撃してしまった私は、後で側近達にしこたま怒られた。
アリスのテンションは作者のテンションの反映です。かつお節がないと死んでしまうのは作者です。(笑)
ひとまず、食事情の改善と各地の珍しいものの入手経路が出来る回でした。
飯ネタは一旦おしまい……のはずですw




